吾輩は玉城である

妄想垂れ流し機

吾輩は玉城である。沖縄の県知事である。自由党幹事長だったが、それ以降の記憶が全く片隅にも覚えておらず、少しの酒瓶を右手に持ち、左手には座布団と、これまた意味が分からない組合せである。酒瓶に一口付け、もう中身が無くなってしまったのか、中からは酒が一滴一滴ずつ落ちるばかりで、酒瓶を地面に転がし、捨てて周りを見渡した。ここはどうやら、誰かの居間であるようだ。蝉の奇怪な鳴き声が竹林より鳴り響き、空は黒色一色であった。

「夜であるのか」小さな古時計を見ると、時刻は十一時三十八分を指しており、もうすぐで日を跨ぐところであった。

そろそろお暇しようと席を立つと、奥に太郎が眠りに就いているのが見えた。何故太郎がここに居るかは分からぬが、とりあえず彼を起こす事にした吾輩は近づき、肩を強く叩いて起こした。

「早く起きないか。もう良い時間だぞ」太郎がゆっくりと起き上がると、先程の吾輩のように、不可解に思いながらあたりを見渡していた。

「玉城、ここは何処だ?」

「吾輩が知るとでも思うのか、貴様。はよう帰らにゃ、新聞社に突かれるぞ」

吾輩は困惑する太郎を置いて、無意識に玄関まで歩き、下駄を履いて玄関口を開けた。しかし、その先は空模様と同じように暗闇が続いており、辺りには電柱の一柱も見えなかった。沖縄にこの様な田舎が存在するのかと疑問に思い、まぁ道は有るのだからと帰ろうとした。だが、吾輩の足が一歩暗闇に近づくと共に、何か背筋が凍るような殺気だった気配を感じるようになった。それは、一歩一歩踏み込む事に強くなり、吾輩が暗闇に飲み込まれようとした時、脳裏に死という言葉が浮かび上がった。私は一歩踏み留まり、ゆっくりと後ろ歩きで玄関へ戻っていった。すると、先程まで強く感じていた気配が弱くなり、玄関口に辿り着くと、それはもう何処にも無くなっていた。私は扉を閉め、鍵を掛けた。言葉や論理では説明できぬが、あの暗闇には人智を超えた存在か、はたまた人が想像さえしない狂暴な何かがいるのだと感じた。居間に戻ると、太郎が酒瓶を杯に注ぎ、一人で晩酌をしておった。

「何をしている、太郎?」

「酒瓶があったから、晩酌をしているのだ。お前も飲まないか」太郎は調子者のような顔をしながらそう言ってきたので、仕方なく吾輩もそれに乗る事にした。

太郎が珍しく、自ら吾輩の杯に酒を注いでくれたので、上機嫌にそれを飲んだ。やはり酒は美味い。先程までの恐怖の体験が、まるで夢の如きであったかのように、酒に全て飲み込まれて行く。

「貴様、今は宮城に居たんじゃなかったのか?」

「愚民に施しをしないと、首を掻かれるからな」

「やはり貴様は道化師であるな」そんな会話をしながら酒を飲み続けていると、酔いが回ってきたのか、体が湯のように温かくなり、思わず上着を脱ぎだした。

「おい、年寄りの体んぞ誰が見るか。汚い乳首を隠せ、後ろを向いて着替えろ」

「貴様も遂に男の体に欲情するようになったのか?」後ろを向き、上着を脱いでそこらに放り出す。

気分は最高だ。若者の間で深夜テンシヨンという造語が流行しているが、これもそのような物だろうか。

「太郎、貴様を服を脱げ。相撲取りだ」私は勢いよく後ろを振り向くと、太郎は口から長い舌を引き抜かれ、口から大量の血液が溢れ出し、服から床に流れ血だまりを作っていた。

私はそれを見た瞬間、先程までの暖かさや酔いが嘘の様に醒め、体が恐怖と寒さで震えだした。私は思わず目を伏せ、これが夢であることを祈り続けた。

「玉城、頭がおかしくなったのか?」その声に驚いて目を戻すと、太郎は酒瓶を一気飲みしていた。

あぁ、あれは悪い幻覚であるのか?竹林も消え、蝉の鳴き声が聞こえず、徐々に私の頭のん蚊は冷静になった。

「太郎、酒瓶をくれ。吾輩も飲んでやる」吾輩はそう言って太郎から強引に酒瓶を奪い、床に叩きつけて割ると、武器となった鋭利な酒瓶の割れ目を太郎の首元に突き立てた。

太郎は驚きながらも抵抗するが、先に攻撃を加えたおかげで、徐々に私の両手に掛かる力は弱くなり、私が引き抜けば、刺した場所から血が噴射して飛び出ている。居間に血模様を作りながら、私は太郎が息絶えるのを最後まで見届ける事にした。太郎の方は、まだ意識があるのか、何か言おうとしているが、刺された首元から空気が出ているため、上手く呼吸出来ていない仕草であったから、最期に私がもう一度別の場所に酒瓶を刺すと、ようやく太郎は死んだのか、体から力が抜けて、少したりとも動き出す事は無かった。

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