二章 訓練

二章 訓練 1

 次の日、ルディは目覚ましの音で目を覚ました。手を伸ばして目覚ましを止め、しばらくベッドで丸くなっていたが、やがてのろのろと起き上がった。

 窓の外をは快晴である。朝靄の残る空をチュンチュンと鳴きながら小さな鳥が群れをなして飛んでいる。気持ちがいい朝だ。

 洗面台に向かい、顔を洗うとすっかり目が覚めた。

 今日は休みではないので、あまりのんびりはしていられない。ルディは着替えを済ませて手早く身だしなみを整えると部屋を出た。


 「おはよう、ルイ」

 部屋の外でクルトと鉢合わせた。ルディも挨拶を返す。そのまま2人で建物外の広場に向かった。

 養成所では朝食の前にもちょっとした訓練がある。体力強化のために走り込みをするのだ。ルディはこの訓練が少し苦手だった。早朝の街を走るのは気持ちがいいが、いかんせん体力がないので終わる頃にはへとへとになってしまう。一緒に走っているクルトやニコラスは平気な顔をしているので、ルディはなんだか悔しかった。

 2人が柔軟をしていると、ヤンがやってきた。ニコラスの姿はまだ見えない。朝が弱い彼はいつもギリギリの時間にやってくるのだ。ルディとクルトが挨拶すると、ヤンもそれに答えた。話もそこそこに柔軟に戻る。3人で体をほぐしているところに、ようやくニコラスが合流した。


 ニコラスがやってきてすぐに教官から声がかかった。年齢や階級に関係なく、訓練生に教官、所属の魔術師全員が一緒に10キロのランニングをする。教官の号令に合わせて、ルディたちも走り出した。競争ではないので、みんな各々のペースで走っていた。小道を抜けて、大通りに入る。朝が早いこともあり、商店はほとんどしまっており、人通りもまばらだ。気温がまだ低く、ひんやりした空気が火照った体を冷やしていく。中央の広場では、噴水の前で鳥に餌をあげている老人がいた。餌を食べていた小鳥たちがルディに驚いてバタバタと飛び立つ。ルディが止まらないままに謝罪すると、老人は手を振ってくれた。広場を横切ると大通りに戻る。そのまま街の端まで駆け抜け、そこでUターンした。そのまま一気に来た道を戻り養成所まで帰る。養成所から街の端までだいたい5キロなので、往復するとちょうどいいのだ。


 「ルイ、お疲れ様」

 「ルディ、お疲れー」

 養成所に戻ると、先に到着していたクルトとニコラスが声をかけてきた。ルディは弾んだ呼吸を整えながら手を上げてこたえる。同じ距離を走ったはずなのに、まだまだ余裕のありそうな2人がうらやましい。ほどなくしてヤンも養成所に戻ってきた。

 「ヤン、お疲れ」

 「お疲れ様。みんな速いね」

 ルディが声をかけると、ヤンはゼイゼイしながらも返事をした。ルディと同じく結構一杯一杯な様子のヤンをみて、ルディは少し安心する。ルディはまだ呼吸の荒いヤンに水を手渡すと、ニコラスに声をかけた。

 「午前中の訓練、なんだっけ?」

 「体術と剣術。で、午後が3時から実技訓練」

 「うわ、きっつ」

 ルディはいやそうな顔をした。養成所では、前衛・後衛関係なく体術の訓練が課されている。前衛と後衛では、求められる熟練度は違うものの、後衛のルディも最低限の戦闘技術は身につけなければならないのだ。体力に自信がないルディは走り込みと同様に体術の訓練も苦手だった。それに加えて、今日の午前中は剣術の訓練もある。ルディは剣術にはそこそこの自信があるが、体術の訓練の後ではまともに剣が振るえるか自信がなかった。

 「ルイ、がんばれ」

 「クルトはなんで平気そうなんだよ……」

 同じ訓練、いや午前中に関してはルディより求められるハードルの高いクルトが余裕そうな顔をしているのをみて、ルディは恨めしげにつぶやいた。

 

 朝食をすませると、再び広場へと赴く。体術の訓練は熟練度別なので、クルトたちとは入り口で別れた。ルディは担当の教官を見つけると声をかけた。

 「おはようございます、教官」

 「おはよう、ルディ。よろしくな」

 すぐに同僚たちも集まってきて、訓練が始まった。

 後衛であるルディ達は、受け身と回避術の訓練がメインである。ペアを組んで技をかけあい、それをうまくやり過ごす内容だ。

 「よろしく、ルディ」

 「よろしくお願いします、ラルフ先輩」

 この日のパートナーはラルフだった。金髪でエメラルド色の瞳のこの青年は22歳でルディの先輩である。年上ではあるがルディ達と入所時期が近いため、幼いルディ達をかまってくれる兄のような存在だった。今でもルディ達を導いてくれるよき先輩である。

 「じゃあ、いくよ、ルディ」

 ラルフは水魔法でルディを攻撃した。迫りくる水球を左に転がることで避ける。ラルフは休む暇も与えず、次々と魔法を放った。ルディは広場の隅に追い詰められないように気を付けながら走り回っる。次第に呼吸が苦しくなり、鼓動が早くなった。

 「そこまで」

 教官の号令がかかり、攻撃がやんむとルディは座り込んでしまった。

 「すごいな、ルディ。今日は最後まで持ったね。これなら討伐でも安心だ」

 「ありがとう先輩」

 以前は訓練の途中で体力が尽き、攻撃に当たってしまうことが多くあった。最近では訓練のかいもあり最後まで避けきれることも多くなった。先輩に褒められルディはうれしくなった。


 少しの休憩をはさみ、剣術の訓練に移る。この日は試合形式の訓練だった。この訓練では魔法の使用は禁止されている。魔法を得意とするルディにはすこし不利であった。

 「よろしくな、ルディ」

 「おてやわらかに、ヘルマン」

 この日の試合相手は同僚のヘルマンだった。、ルディと同じく近々実践デビューを控えている。

 教官の号令に合わせて、2人は剣を構えた。

 先に仕掛けたのはヘルマンだった。ルディめがけて突きを繰り出す。ルディは体をひねることでそれそかわした。その後の攻撃もルディは剣で受けることなく体を動かしてかわしていく。ヘルマンとは体格差があるので、攻撃を受け止めることはリスクがあった。

 「なんだ、ルディ。やり返してこないのか?」

 防戦一方のルディを煽るようにヘルマンがいった。挑発に乗って攻撃回数を増やすと体力が削られる。ルディは一撃で勝負を決めようと、冷静に状況を見定めた。攻撃に転じないルディをみて、そのまま勝負を決めようとしたのかヘルマンは剣を大きく振りかぶった。それを横に受け流すと、ルディはヘルマンに足を引っかけた。思わぬルディの反撃に、ヘルマンは体制を崩した。そのすきを見逃さず、ルディはヘルマンめがけて剣を振り下ろした。

 カーンと高い音を立ててヘルマンの剣が飛ばされた。地面に手をつき、ルディの方を振り返ったヘルマンの喉にルディは剣を突きつける。

 「そこまで」

 教官の声がかかり、試合は終了した。ルディの勝利である。

 「やるな、ルディ」

 「ありがとう。あのまま攻められてたらヤバかったよ」

 口笛を吹いたヘルマンにルディが返した。正直、かなりギリギリの戦いだったのだ。

 「2人ともよくやったな。後衛であれだけ動けていれば十分だろう」

 お互いを称えあっている2人に教官がいった。

 ルディたちは教官にお礼をいうと、昼食をとるべく広場を後にした。

 

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