男嫌いの少女の異変
俺が出る男子200メートルは女子200メートルを挟んですぐなので走りに支障が出ないように急いで食べる。
そして軽くウォーミングアップをする。
これは勝ちを求めるためというのもあるがいくら暖かいとはいえいきなり全力疾走したら怪我をする恐れがある。
痛いのは嫌なので念入りに体を温める。
「頑張ってきてね!小泉くん!」
「しっかりな。達也」
「頑張ってください」
「ありがとう行ってくるよ」
俺の出番が近づいてきたので移動を開始する。いよいよい俺の順番が回ってきてレーンに移動する。
クラスのみんなの応援する声と女子の金切り声が聞こえてきた。
う……期待が重い……優はこんな中走ってたのか……
絶対に勝ちたいな。
せめて二位は欲しい。
クラウチングの構えをしてピストルの音を待つ。
パァン!
ピストルの音と共に駆け出す。
200メートルは意外と長い。
でも体力を温存するほど長くはない。
いつも俺は150メートルくらいで息が切れてくるからそこからは気力でなんとかするしかない。
必死に走っているとふと右側に三人の姿が見えた。
「もうちょっとだ頑張れ!」
「頑張ってー!」
榎本の声は聞こえなかったけど手を握って応援してくれているのは分かって少し余裕が生まれた気がした。
男なら気張らなきゃな!
俺は外側のレーンなので後ろを振り返るわけにもいかず勝ってるのか負けてるのかすら分からない。
それでもとにかく走る。
そして……
ゴールテープを切ったのは俺だった───
俺は嬉しさと安堵を胸に退場する。
席に戻るとクラスのみんなが出迎えてくれた。
「おかえり!!」
「やっぱすげえな小泉は!」
「周りの人もみんな早かったのにね〜」
出迎えてくれたクラスメイト達と軽く話してから三人のところへ戻る。
「おかえりなさい〜」
「ナイスランだな達也!」
「お疲れ様でした」
ああ……やっぱり三人からの言葉の方が嬉しく感じるな。
俺も案外このグループが居心地が良いし気に入ってるのかもしれない。
「みんなありがとう」
本来ならこれで出番は終了だが俺達はリレーも残っている。
リレーは体育祭最後の競技なのでまだまだ時間がある。
しばらくみんなで雑談や応援しながらクラスメイトの奮戦を眺めて時間を潰す。
30分ほど経った頃……
「あれ?水筒の中身が……すみません、飲み物を買ってきますね」
榎本は水筒が空になったらしい。
「今日は暑いもんね。俺もついて行こうか?」
「いえ、大丈夫です。すぐに買ってきます。あれ……?」
そして榎本が立ち上がった瞬間グラッと体が傾き始める。
危ない!
とっさに榎本を抱きかかえる。
めっちゃ柔らかいしなんか汗の匂いに混じって甘い匂いがする……ってそんなキモいことを考えてる場合じゃない!
「長谷川さん!」
持病や体が弱いとか何かあるかと言外に尋ね無事伝わったらしく首を横に振る。
「とりあえず俺は保健室に榎本さんを運んでくる!優は先に先生に伝えて長谷川さんは俺が榎本さんをおぶるから手伝って欲しい!」
「了解、すぐに行ってくる!」
「わかった!」
優がすぐに駆け出し俺は長谷川に手伝ってもらいながら榎本をおぶる。
揺らさないように注意しながら早歩きで保健室を目指す。
「あら!大丈夫?すぐにそこに寝かせて下さい」
保健室に入ると優がちゃんと伝えておいてくれたのですぐにベットに寝かせるように指示を出される。
再び長谷川に手伝ってもらいながらそうっとおろす。
「うーんこれは……」
「「「これは……?」」」
「熱中症ね。多分眠っちゃってるだけだから大丈夫よ」
「「「よかった……」」」
良くはないんだろうけど病気とかよりは遥かにましだ。
でも今思えば走りも減速してたし食欲もあまり無いみたいだしもっと早めに気づくことはできたはずだったのに……
自分のことに気を取られすぎて気付けなかったのが情けない。
「長谷川さん、榎本さんは走れないだろうし代わりにリレーに出ると早めに先生に伝えてきた方がいい。それと────」
〜1時間後、榎本視点〜
うーん、だるい……
暑いし頭も痛い……
あれ!?今って体育祭じゃなかったっけ!?
そうだ、私倒れたんだった!
そのことに気づき急いで起き上がる。
「あ、おはよう榎本さん。気分はどう?」
「え?小泉さん……?」
まだ外から歓声が聞こえるし体育祭は続いてるはずなのになぜか小泉さんがここにいる。
ここに小泉さんがいるのか分からず思わず困惑する。
「熱中症だってさ。はい、これ。冷蔵庫に入ってた経口補水液」
「あ、ありがとうございます。ってそうじゃなくてなんでここにいるんですか!?」
「普通に心配だったからだけど」
その気持ちはすごく嬉しいけど迷惑をかけたことを申し訳なく思う。
「リレーの前にご迷惑をおかけしてすみません。私に構わず行ってください」
「え?もう今からリレー始まるけど?」
「え!?それこそなんで小泉さんはここにいるんですか!?」
それこそ本当に意味が分からない。
なぜリレーの代表に選ばれている小泉さんがここにいるのか。
「補欠の子に変わってもらったんだ。とりあえず優と長谷川さんを応援しよ?」
「……分かりました」
文句を言ってもこれから始まるのであれば言う意味が無いので素直に小泉さんの隣に移動する。
保健室はレーンと距離があるので小さくしか見えなかったが二人が走っているのはしっかりと見えた。
「どうして……リレーに出なかったんですか?」
「さっきも言ったでしょ?心配だったんだ」
その説明で納得がいかなかったから再び聞いてるんですけどね。
するとそんな私に気づいたのか小泉さんが苦笑いをしてポツリと話し出す。
「俺さ、本当に四人で集まるのが楽しかったんだ」
小泉さんは楽しく思ってくれてたんだ……
なんかすごく嬉しいかも。
「それで三人でリレーに出たら榎本さんが一人ぼっちになっちゃうでしょ?孤独の不安や辛さは俺も知ってるからさ」
私は小泉さんが何を言おうとしているのか黙って聞き続ける。
「一緒にいてあげなきゃ、なんて傲慢なことは言わない。でも俺は榎本さんと一緒にいたかったからここに残ったんだ。それじゃ駄目……かな?」
「そうでしたか。おや、もうすぐ閉会式が始まるみたいですよ。私はもう大丈夫ですので気にせず行ってきて下さい。」
「お、押さないで!?行ってくるから!」
私は思わず小泉さんを閉会式に強制的に送り出す。
顔は見られてないよね……?
「榎本さん?あら顔が真っ赤じゃない。熱中症が悪化したってわけでもなさそうだし……ああ、そういうこと。青春ね〜」
「そんなんじゃないです!ベットもう少しお借りしますね!」
ベットにうつ伏せになり顔を枕にうずめる。
顔が火照り胸のドキドキが止まらない。
これは……違うもん。
急に言われてびっくりしただけだから。
好きとかじゃ……ないもん。
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