四人のこれから(榎本綾香視点)
「とまあこんなことがあったんだよ」
服部さんの話が終わり私達の間に重い空気が流れる。
「あいつは確かに天才だよ。でもそれ以上に努力してるんだ。あいつがもってるすげえ所はほとんど後天的に努力で身につけたものなんだよ」
私は服部さんの話にただただ驚かされていた。
悲しいことにいじめは全国規模でみれば珍しいことではないかもしれない。
それでもそこから立ち直って努力して今ではみんなに認められるくらいすごい人になっている。
半端な覚悟や努力ではなしえなかったことだろう。
「その幼い頃の努力で今の小泉さんが存在しているということですか?」
「似ているけど少し違うかな。無意識かもしれないけどあいつの根本にあるのはおそらく怯えだ」
「怯え?」
何に怯えているのだろう。
今学校ではみんなが小泉さんと仲良くしてるように見えるし女子からの人気も非常に高い。
怯える対象は無いように思える。
「そう。あいつは今も周りの人間全てに怯えているんだ」
「!!」
「もし周りから失望されたら、弱みを見せてしまったら……」
「またいじめの対象になってしまうのではないか。ということですか?」
「そういうこと」
いじめから身を守るために努力し続けて今の小泉さんがあるなんて……
でも確かにカラオケのときも練習してきたって言っていたし歌える歌の数やジャンルが尋常じゃなかった。
ボウリングも上手だったしもしかしたらボウリングも……
「榎本さんって男子のことが嫌いじゃない……とは言い切れないけどそれよりも怖いんでしょ?」
「!!!なぜそのことを……」
「だって俺は達也をずっと見てきたんだよ?なんとなく男子を見る時の榎本さんが努力するときの達也に似てたから」
「……その通りです」
まさか服部さんにあっさり看破されるとは思わなかった。
まだ出会って一ヶ月少しだというのに。
「榎本さんが達也に対して安心するのは似た者同士だからじゃないかな?それにあいつは元から優しい奴だし」
「……そうなのかもしれません」
もう少し……小泉さんと仲良くしてみようかな……
〜ゴールデンウィーク明け〜
私はいつも通り学校に登校する。
いつものように教室に着いたらいつものクラスメイトの女子と挨拶をする。
一応仲の良いグループだから人間として嫌いではないがいちいち周りの機嫌を気にしないといけないのは正直女子って面倒くさいなって思う。
「おはよー綾」
「おはよう仁美」
いつもならこのあとも仁美と話すところだけど……
教室の後ろの方自分の席で珍しく一人本を読んでいる小泉さんに目が行く。
今日は私から挨拶してみようかな……?
心の中で多少葛藤したものの結局自分から行くことにした。
恐る恐る近づいていく。
「あれ?榎本さん?」
「こ、小泉さん。おはようございます」
「!!」
小泉さんの顔がみるみる明るくなっていく。
「おはよう榎本さん」
ただの挨拶だったのに無邪気に笑って喜んでくれているのが分かって私も照れくさくなってしまった。
それから特に話す事もなく別れたのだがいつもの学校となんら変わりないはずなのに服部さんの話が気になってつい小泉さんを目で追ってしまう。
そして注意深く見ていると確かに分かる。
小泉さんは誰とでも明るく仲良く接しているように見えるが服部さんと一緒にいるときと比べると距離感が全くと言っていいほど違う。
表面を取り繕い自分の内側に決して踏み込ませない姿勢は確かに私に似ていると言える。
……まぁ私はあまり取り繕っていないけど。
「綾〜今日は随分と上の空だね?」
「え?あ!ごめん……」
少し考えすぎたのか仁美に心配されてしまう。
もう昼休みも始まってしまっている。
今日は仁美と二人で食べる日だ。
「別にいいよ。小泉くんのこと?」
「うん、服部くんの話が頭から離れなくて。でもゆっくり見てると確かに私に似てるかもしれない」
「美形ってところが?」
「この話の流れでそんなわけないでしょ」
仁美は冗談っぽく笑う。
「まーでも私たちが深入りすることはできないでしょ?だから私たちになら弱さをさらけ出しても大丈夫って思ってもらえるようにもっともっと四人で仲良くなろ?」
今までの私だったら絶対にそんなことをしようとは思わなかっただろう。
でも……この四人のグループなら仲良くできる気がする。
「うん!」
「じゃあまずは体育祭だ〜!みんなで楽しも〜!」
今年はいつもより少しだけ体育祭が楽しみになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます