ハーマ〇オニー(駆逐艦ではない

その少女のハナシを耳にしたのは、いつものように酒のツケを体で払っているときだった。


「強力な魔法使い、てぇなら・・・アイツがそうかもしんねえ」


性の快楽の酩酊で脳がア~パ~状態のあたしは右から左に聞き流すしか出来なかったのだが、なんとか右脳の片隅にロジカルな思考が可能な領域を作り出し、醒めつつもあたしの体を優しく撫でてくれ続けているマスターの言葉を反芻する。


膣を貸しているだけで勝手に果ててゆく他の男たちと違ってあたしの体を知り尽くしているこの禿頭のマスターにはなにもかもが敵わない。


美味しいご飯と酒、そして10人同時に相手しても得られない性の快楽を齎してくれるという、横に置くだけで女を幸せにしてくれる奇跡、正にこの世で最も神に近いオトコだ。


・・・外見が弛んだ禿頭の年配男性、てのが全てを台無しにしているのだけど。


「先月辺りに突然通い始めた酒場の客子供でよ、どーみても10歳の女の子なんだが夕から朝まで酒は飲むは荒くれモンを軽く投げ飛ばすは見目の良い若い男には色目使うわ・・・行動はまるでそこらの無節操なババアなんだが・・・どうやら帝学へ推薦を受けてた才女らしいんだわ」


「帝学・・・て、エルグランデの?」


このエラジア大陸を征したと言われる魔法帝国エタリアル。

その煌都エルグランデ近隣の帝立魔法学園都市は、広大な版図より選りすぐられた魔力を持つ子供たちが身分の貴賤なく集められていたという。


「ああ、本人が客相手に語ってたところによると、なんでも新入生首席に同じ大きさの星を落とせと脅迫され、仕方なくソラに浮いている小さなゴミを落としたら・・・」


マスターの水仕事で荒れた手が、優しい愛撫から突然に激しく責め苛む動きへと変わる。


「あっ、待っ・・・くっ」


再び押し寄せる官能の荒波にあられもなく鳴き喘ぎながら、せめて耳だけは押し流されるまいとなけなしの抵抗を試みる。


「太陽が落ちてきたらしい。そんで、一瞬で溶けた岩の中へ閉じ込められそこから外へ出るのに10日かかったんだと」


「くっ・・・他、の生徒・・・受験者達は、ひッ―――――――!」


痙攣に続く失禁、官能のハンマーで後頭部を何度も打撃されるかのような酩酊に押し流される。


「生きながら煮えたらしい。目や耳から沸騰した脳を迸らせて」


「あっ!ハッ、煮えッ・・・!」


怪奇異常で凄惨な現場のイメージが快感中枢を煮立たせ、頭蓋の中で煮こぼれる鍋のように沸騰した絶頂に何度も脳を白濁させられ―――――――――――



気付いた時には、ベッドにマスターの姿は無かった。


ベッド横の小さなテーブルからいい匂いがする。

身を起こし目をやると、木皿の上で厚いアバラ肉が湯気を立てていた。


「いい香り・・・」


甘く香ばしい油の匂いに目の覚めるようなスパイスが鼻腔を刺す。


美味しく頂き、酒で割った果汁を飲み干すと短い文の描かれた粘土板に気づいた。


「店・・・いる・・・なにが?あ、開店か。で、何が居る・・・あ」


字は魔法語以外は特定の単語しか読めないので、昨晩の情事により明瞭なれど今一つ回らないアタマをひねり続け、助け手になりそうな女の子の話をしていたことを思い出す。



酒精が回りアタマとカラダが覚醒すると、高い下着を穴に詰め立ち上がる。

椅子の上に不器用に畳まれた長衣を巻き付け、ドアの横の杖を取ると扉の無い部屋を出、明るい階下へと降りてゆく。


階段の手すりに手を置きながら、視界に広がってゆく酒場に気になる男・・・ではなく、件の少女の姿を探る。


カウンターのマスターと目が合い、木皿とカップを部屋に置いたままなのを思い出す。


マスターのサインに片目を瞑って答えると、急いで食器を取りに上がり、降りて賑々しい卓の間を泳ぎカウンターへ。


「ごちそうさま。おいしかった」


「なに、ボナには負けるさ」


「もう」


マスターを肩を掴むと顔を寄せる。

照れているのか向けてきた頬に軽くキス。子供か・・・


パラパラと客席から上がる冷やかしに笑顔と手振りで答え、暗い小声のイヤミは聞き流しつつ、マスターの視線が指すテーブルへと向かう。


誰もいない・・・いや、いた。

乾いた藁のような猫っ毛の頭髪がテーブルにアゴを掛けて大きなゴブレットを呷っている。



・・・ホントに子供じゃない。

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