【完結】奪いたがりの妹と奪われた姉、二人の結婚の結末 ~暗黒微笑系の隣国王子、賢姫を溺愛して「奪っちゃった♪」
朱音ゆうひ🐾
1、いったいどうなっているのだか……?
私の名前はアメリア。
ただいま、パーティ会場で婚約破棄されているところだ。
「アメリア・イヴァリン伯爵令嬢! 貴様との婚約を破棄する!」
婚約者のドムノウ王子が言い放つ。
「貴様は『
賢姫というのは、二つ名だ。
この国では、貴族令嬢は「教養」として簡単な本を読むことはあっても、がっつりと知識を深めたり何かを研究することはない。
貴族男性はそんな貴族令嬢を「自分たちより劣るが、その愛嬌で心を慰めてくれる」と可愛がる。
令嬢側は「賢く振る舞う令嬢は可愛げがない。殿方の下にくだり、殿方を気持ちよく引き立ててあげるべき」という価値観だ。
なので、私が熱心に読書をしたり論文を書いたりしているのを珍しがった学者の先生たちが「アメリアは賢い姫だ」と名付けたのである。そのせいでドムノウ王子には「生意気!」と言われてしまったのだけど。
「アメリア。婚約関係を続けたければ反省して、態度を改めるように。俺様が国王になったら女性の学問を禁止するから覚悟してろ」
会場には「冗談でもそんなご発言はいけませんよ」と王子を
「俺様が気分よく話しているのに口を出すな。俺様は婚約者と会話しているのであって、貴様らに会話に加わってよいとは言っていない。無礼者は許さぬぞ」
雰囲気、最悪……この事態を収拾すべく、私は声をあげた。
「かしこまりました、王子殿下。それでは、婚約指輪はお返しします」
「な、なにっ。貴様、そんなに素直に返さなくてもいいのだぞ」
彼は、小さな頃から「池に落とされたくなければひざまづいて許しを請え!」とか「俺様に逆らうと貴様の家は潰れるんだぞ」とか脅して、私が泣くと喜ぶような性格だった。殴られたこともある。
「貴様がそんな態度なら、本当に婚約を破棄して妹を婚約者にするぞ? 泣いて詫びるなら今だぞ」
「構いません」
ドムノウ王子は、なぜか従者からタンバリンを受け取り、パシンッと音を鳴らしていた。なにをやってるの? 意味がわからない。奇行すぎる……。
と、そこへ、妹のエティーナがやってくる。
「まあ殿下。ただいまのお言葉に二言はありませんね? 言質は取りましたわよ! お姉様と婚約破棄して、わたくしと婚約してくださるのですわね? んふふふっ!」
私と同じ黒髪に紫の瞳をしたエティーナは2歳年下で、昔から私のモノを奪うのが大好きだ。
欲しいものがあれば「欲しい!」と駄々をこねる。
家庭教師を招いてのお勉強は「つまらない、やりたくないの!」と言ってすっぽかす。
勉強をしていないので「お嬢様、試験をしますよ」と言われても何も答えられない。
だが、反省どころか「わたくしを試すなんて無礼ですわ」と家庭教師に文句を言い「傷つきましたのよ。腹立たしくて、許せませんわ」と
両親はそれに対して「そうかそうか、嫌だったね。無理しなくていいんだよ」と言ってエティーナを慰め、ドレスや宝石を買い与えて、家庭教師を処罰する。
そんな日々を積み重ね、妹は「わたくし、何をしても許される存在ですの!」と増長していった。
私が「妹に厳しくしたほうがいいのでは」「家庭教師の先生は、悪くないのでは」と口出しすると、両親は「親に口答えするな。妹にやさしくしなさい。お前はなんて心根の悪い娘なのだ」と私を叱った。
私はそんな家庭に育つうちに「自分が正しいと思うことは、口にしない方がいい。何かを期待しても傷付くだけ」と思うようになった。なので、両親や妹とは、少しずつ、確実に心の距離が離れていった。
私と王子との婚約が決まった後、エティーナは「ずるいわ」と言い出した。
「わたくしは殿下をお慕いしておりますの。でも殿下の婚約者はお姉様なのよね。つらいわ」と言って泣いた。そして、「殿下、叶わぬ恋に苦しむ愚かなわたくしをどう思われますか?」と王子に抱き着いたりしてアプローチしまくった。
ちなみに、妹は胸が大きくて、私は貧乳だ。
王子は豊満な女性がタイプで、エティーナに胸を押し付けられるたびに嬉しそうにしていたなぁ……。
そんな私たちの関係を見ていた周囲の大人たちが「不貞はいけませんよ」と注意しようとすると、エティーナは辛そうに泣く。
「ああ、わたくし、儚くなってしまいたい。生きているのが辛いです」
ぽろぽろと涙をみせると、大人たちはエティーナに優しくなる。
エティーナは泣き顔を覆う両手の隙間から私を見て、私にだけ見えるように舌を出して煽るような仕草をする。計算してやっている……周囲を思い通りに動かすことを楽しんでいるのだ。
人の道も、貴族としての規範も、愛嬌と涙で
消えたものを「これ、忘れていません?」と拾う者がいれば、その者が非難される。
なんてバカらしい世の中だろう。
まさに「私、儚くなってしまいたい。生きているのが辛いです」だ。
「前から思っていましたが、エティーナとドムノウ王子殿下はお似合いだと思います。どうぞ、お二人でお幸せになってくださいませ。私は修道院にでも入りたいと思います……きゃっ?」
挨拶をして立ち去ろうとしたところに、ふわっと爽やかな香りがした。
いい匂い、と思った瞬間、私の肩が誰かの手にぐいっと抱き寄せられる。
近い距離で聞こえたのは、男性の声。竪琴の低音の弦がふるえたような、思わず聞き惚れてしまう美しい声だった。
「王族の言葉に二言なし。こちらのご令嬢は、婚約が白紙になるということでよろしいですね? それでは、私が婚約を申し込ませていただきます」
「なに!?」
会場中がざわっとする。
私に婚約を申し込むと言ったのは、隣国から招かれていたミディール王子だった。
ミディール王子は
陶器のような肌は雪のように白く、清らかな水底にある水晶のような瞳は、何もかもを見透かすような煌めき。
黄金色の髪は、日差しを浴びた麦の穂みたい。
「き、貴様、どういうことだ? 正気か? 裏切ったのか?」
あれっ、ドムノウ王子がタンバリンを叩いてる。
なんか、必死。そのタンバリン、本当になんなのですか?
「なんのことです? 失礼ながら、先ほどから正気が疑わられる振る舞いをなさっているのはドムノウ王子殿下の方だと思いますがね」
衆人環視の中、ミディール王子が浮かべる微笑はどことなく不穏で、「腹黒」とか「暗黒微笑」とか呼ばれるタイプの黒い笑顔だった。
……それに。
「この騒ぎは何事か? わしが許可しただと? なんじは正気か、ドムノウ。わしは許可などしておらんぞ」
なんと国王陛下がやってきて、ドムノウ王子を責めるではないか! いったいどうなっているのだか……?
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