ドラマーIN US#8ミッコさんの愛

矢野アヤ

ミッコさんの愛

 ミッコさんは、10歳上の友人。同じく四姉妹の二女で、在米約40年。

 ロスアンゼルス郊外で、一人息子とその家族と一緒に住んでいる。元ご主人のドンは、近くにある麻薬中毒患者の更生施設に住み込みで働いている。彼自身も患者として住んでいた所で、今は、カウンセラーとして入居者の更生を助けている。

 ドンは牧師でカウンセラーでもあり、ネイティブ・アメリカンのコミュニティーにある教会で働いていた。優しく、繊細な感性の持ち主の彼に、ぴったりの仕事だと思った。そんな夫を信頼し共に働くミッコさんとドンは、とても仲の良いご夫妻だった。

 10年近く前のこと、ミッコさんが帰国中にドンが行方不明になった。警察が発見し、麻薬中毒と判明、施設入所に至った。

 ドンは20年近く前に掛かった肝臓病の治療で、痛み止めとして大量のモルヒネを、数ヶ月単位で何年にも渡り投入されていた。治った後は仕事にも復帰していたが、いつからか、隠れて麻薬を使うようになっていたそうだ。麻薬の中毒者には、このパターンがとても多い。アメリカでは痛みを完全に取り除こうと、大量の麻薬が使われる。

 死に場所を探していたドンは、警察に見つかり、何かが吹っ切れたのか、これからは女性として生きると告白したのだった。隠れて麻薬を使う月日が、彼の精神を追い込んだのだろうか。元々そのような傾向や嗜好があっても、折り合いを付けながら過ごしている人も多い。どちらで生きるかを、選択できると言う人もいれば、できないと言う人もいる。

 あれから数年。女性になった経緯はあまり語らないそうだが、すべてを受け入れて、愛することをミッコさんは選んだ。それでもドンはいい人で、大切な人だからと。

 「こないだ、数年振りにドンと会って、映画に行ったの。そしたら、ピンクのカツラを被って、ミニスカートで来たのよ!スネ毛の処理とか全然できてないのに。それに、どう見てもおじさんなのに、トイレに入ろうとしたら付いて来ちゃって、あなたはあっちでしょって追い出したけど」と、さもおかしそうに笑って話すミッコさん。ドンを想像して、おかしいやら切ないやら。ミッコさん、あなたは偉大です。

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