シーグラス
堕なの。
シーグラス
寄せては返す海の音に目を覚ます。空は白み始めているが、両親の起きる気配はない。
少しだけ悩んで外に出ることにした。たかだか数分離れたところで、何かが起こる訳でもない。外は冷たい風が吹いているため厚着をして、近くのビーチへと向かうことにした。
人気のないこの時間、綺麗なビーチと昇ってくる朝日が混ざりあって、私の心は澄んでいく。
足元にあったシーグラスを陽にかざせば少しだけ辺がキラリと輝いて、普段の姿ですら綺麗なシーグラスがことさら美しく見えた。
ステンドグラスのような透明さではなく、少し濁った透明さを持ち合わせるこれはたしかに人の心を引きつける。何年も波に飲まれて、それでもこうして自分の手に渡ってきた感動。そんなことを一々考える訳ではない。だが、その姿に何かを感じるから美しく感じるのだろう。
太陽はすぐに顔を出して、煌々と輝き始める。私はシーグラスをポケットに入れて部屋に戻ることにした。ころんと可愛く転がって私のポケットに落ちるそれは、どこか温かみを持っていた。
両親が起きないようにそうっと扉を開ける。電気がついていて、そこでようやく起きていたことを知る。
「ただいま」
そう言ってリビングに行けば一目散に駆け寄られた。心配の表情を見て、しまった、と。
「どこ行ってたの?!」
ごめん、口だけ動いて空気を震わすだけだった。
「心配したのよ」
キツく手を握りしめて、心配させたのだとその言葉を自分に言い聞かせた。お母さんの目は、本当に安心の色でいっぱいで、罪悪感に苛まれる。
「次からは、ちゃんとどこに行くか言ってからにしてね」
「はい」
困ったような顔をして、頭を撫でられた。気恥しさを覚えた。もうそんな歳ではないと言うのに。俺は、もう歳頃の男の子と言う奴なのだから。
「ポケットにある石は捨ててきなさいね。あなたに似合うものは他にもあるわ」
「はい」
やはりお見通しだったかと、ポケットのシーグラスを窓から投げ捨てた。
また、少しだけお別れのようだ。いつになるか分からないけどちょっとだけ待っててね。私。
シーグラス 堕なの。 @danano
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