一章 魔女に首輪は付けられない(2)

 ◇


 ディーン大陸の下半分を占める皇国、その首都イレイルの形は三日月形に近い。大陸の端に位置し、海外との交易及び皇国経済の心臓部としての役割を果たしている。

 九つの区からなり、左方に海、中央に高層ビルの立ち並ぶビジネス街、上方に内陸部へ続く丘がある。捜査局本部から車で二十分程度の、その丘まで上ると都会の喧騒は嘘のようになくなり、代わりに高級住宅街が現れる。

 目的の建物は街の外れにあった。

 教会のように見えた。見えたというのはうっそうと蔦が巻きつき、外壁は剥がれ、廃墟も同然だったからだ。しかし指定された場所はここである。事前に知らされていなければ気づかなかったかもしれない。

 もっとも外観がいくら荒れていようが、勤務にはさほど影響はないだろう。ヴェラドンナは第六分署は『地下』に存在すると言っていた。機密保持の観点からというらしいが、実際には疑わしい。

 教会内部に入ると足が止まった。

 講壇の壁、その左端にドアがあった。荒れ果てた教会に無理やり設置したかのような、鉄のドアだった。

 その時声が聞こえた。

「ローグ・マカベスタ捜査官ですね」

 少女のような声だった。どこかにスピーカーがあるのか、音が響く。

「……ああ、そうだ」

 ローグの声を拾ったのかすぐさま返事があった。

「その場でお待ちください。本人確認を行います」

 そう声がするが、誰も出て来ない。これもまたどこかにカメラでもあるのか。

 言われるがままに待っていると、突然、講壇側のドアがスライドしていく。音もなく滑らかに壁に収納され、数メートル先に昇降機があるのが見えた。

「本人確認を完了しました。中へお入りください」

 声の指示に従って講壇へあがった。鉄のドアがあった場所まで行くと、今度は昇降機のドアが開いていく。内部は人一人乗るには随分広いし、壁も床も天井も白かった。まるで荒れた外界と隔絶されているように見えた。

 指示はもうない。

 一度だけ振り返ると、昇降機へ乗り込んだ。

 しかしドアが閉じていくにしたがって息苦しさを覚えた。納得済みだと思っていたが疑念が蘇る。地下。そんなところで働くなんてあり得ることなのだろうか。デスクワーカーならまだわかる。だがローグは捜査官だ。閉じ籠りっぱなしというわけにもいかないだろう。

 それにしても浮遊感は長く続いた。一体どれだけ降下しているのだろう。途方もない時間を過ごしたかのように感じていると、急に視界が開けた。

「到着しました」

 女の声に従って昇降機と地面の境を越えると、その先には広々とした空間があった。

 丸テーブルと椅子がいくつかあり、何人か座っている。吹き抜けになっているので、他の階の様子も確認できた。フロアごとに瀟洒な扉が並び、ガラスのフェンスが通路を囲っている。蔦もないし、塗装の剥がれもない。

 予想外にまともな、署の様子に目を奪われていると、ローグは気づいた。

(他の捜査官はどこにいる?)

 いくら急いでいるからと言っても、誰かしらは署内にいるはずだ。しかし見える範囲で『大人』はいなかった。

 ヴェラドンナは何を考えているのか。立ち止まっていても仕方がないので、歩を進めると、ホールの中央で眼鏡の少女が待ち構えていた。肌は青白く目元には隈、顔立ちは整っているが病的な印象だ。

「ようこそ第六分署に、ローグ捜査官。私はリコ・ライナと申します。ここの事務員です。ご用件があれば何なりと」

 そう少女は述べ、お辞儀をしたがローグはこの事務員の、ある一言が気になってしょうがなかった。

 ローグ捜査官。

 署長ではなく、そう呼んだのだ。

「……ローグだ、こちらこそよろしく。いくつか尋ねたいことがあるんだが……」

「何でしょう」

「ここは本当に第六分署なのか?」

 ローグはそう言って、ホールを見回す。

 椅子に座っているもの、壁に寄りかかって本を読んでいるもの、上階のフェンスに体をもたせかけているものもいる。一周する間に数えてみれば十二人いた。そしてその十二人は全て少女だった。魔術犯罪捜査局で働く人間のようには決して見えない。

 しかしリコは頷くと、

「ええ、第六分署で間違いありません」

「署長と言われてきたんだが……他の捜査官は? 全員出払っているのか?」

「第六分署において捜査官の権限を持っているのは、あなたお一人です。そういう意味では署長ということで間違いないと思います、ローグ捜査官」

 リコは言い切り、無機質な目で見つめてきた。

 いよいよ目眩を感じた。

「……それではここにいる人間は?」

「囚人です」

「囚人だと?」

 署内になぜそんなものがいるのか。一瞬のうちに聞きたいことが山ほど生まれる。が、ローグは抑えた。代わりに最も重要だと思われることを訊いた。

「……俺は局長に言われて来た。〈奪命者〉の捜査をするためだ。犯罪者の面倒を見るためじゃない。本当にここで捜査はできるのか?」

 低い声音を作ってみせてもリコは動じず、

「問題ありません。囚人でありますが彼女たちは特別です。紹介をします。近くに行きましょう」

 スタスタと少女たちの前へ進んでいく。

 渋い顔をしながらローグは、その背中を追っていく。まるで決められた段取りをなぞっているみたいにスムーズだ。いっそう不信感が強くなる。

 やがて二人は、丸テーブルを一人で占領している少女の前で止まった。紹介すると言っているのに少女は瞼を閉じてしまっている。寝息のようなものも聞こえた。しかしリコはそれでも構わないとでもいうように、口を開いた。

「彼女はミゼリア。精神干渉系魔術を得意としており、人間を『人形』に変えてしまいます。識別名は〈人形鬼〉。過去に皇族を手にかけた例があり、その時には周囲の近衛、全てが彼女の人形になっていたそうです」

 肝心の少女は脚を組みながら頬杖をついている。身じろぎ一つしない。白いジャケットに白いスカートを着て、長い白髪をテーブルや脚に垂れ下がらせたままにしている。

 白の印象が強い以外は普通の少女だった。何もおかしくはない。

 されど胸騒ぎが止まらない。ローグはこの感覚を知っている。普通の少女。そう、そのはずだったのだ。しかし過去を想起し始める頃には既に遅く、

 ゆっくりとリコの言葉が耳に入ってくる。

「そして、特例管轄措置による斬首期限は六千年。貴族評議会が認定した――」

 心臓の音が強くなり、

「十三番目の魔女です」

 最後の言葉で不安が確信に変わった。

「……今なんて言った?」

 掠れた声が出た。

 リコが首を傾げ、

「私は、何か間違ったことを言ってしまったのでしょうか? 捜査官育成校の教育課程で教えられる情報と相違ないはずですが」

「……それは知ってる」

「では何か問題がおありでしょうか? 魔女ミゼリアについて」

「……魔女は〈アンデワース〉にいるはず……どうしてこんなところにいる?」

 リコは左手を、吹き抜けの上層に向けて差し出し、

要塞監獄アンデワースですね。ご安心ください。ここも〈アンデワース〉の一つです。他と同様に、大規模な防護魔術と撹乱魔術がかけられております。加えて最新鋭の監視システムも導入し、外部からの侵入は不可能です」

「……だからそういうことを言ってるんじゃねえ」

 自然とローグの語勢が強くなる。

「なんでこんな平然と魔女が野放しにされてるんだ……!」

 この事務員は本当にわかっているのか? 魔女がその気になればすぐ、「ローグも含め」消し去れるというのに。

 魔術が民衆に広まる以前から、魔女たちは皇国に存在していた。魔術そのものと融合し、不老となった正真正銘の化け物たちだ。前触れもなく現れ、そのいずれも皇国に災厄といってもいいほどの害を与えた。

 魔術で街を形も残らず蒸発させた魔女もいるし、十万人が死傷した暴動の原因となったものもいる。一晩で数千人が攫われた事件もある――魔女の存在は決して嘘ではない。

 しかし――

 どれだけ奴らが危険であるか、現在の国民は理解すらしていないだろう。何せ「悪いことをすると魔女がやってくる」と子供を𠮟りつけるためのおとぎ話に変えてしまうくらいなのだ。遥か遠い時代の出来事として受け止めている。

 眉根に力が入ったその時だった。

「お目覚めでしょうか、ミゼリア」

 リコの言葉にハッとすると、ミゼリアと呼ばれた少女が瞼を開けかけていたのが見えた。長いまつ毛が幾度も上下し、やがて完全に瞼が開かれた。

「しまったなあ、もうこんな時間か。少々潜りすぎていたよ」

 そう独り言のように呟くと、少女の顔がこちらに向けられた。

 深々とした蒼の瞳だった。

 一瞬、瞳の中に自分が吞み込まれていくような錯覚に陥った。広大な海の真ん中で誰かに助けを求める続けるような、どうにもならないという無力感。

 視線が囚われていくのを振り払おうとすると、今度は人形のように作り物めいた顔を認識した。端整な顔だった。首元のチョーカーは肌と調和し、長い白髪が照明を反射し、煌々と輝いている。世が世なら多くの人に崇められていたのかもしれない。

 だが、気がつけばローグは後ずさっていた。

「恐れる必要などないよ、同じ人間なのだから」

 白い少女が澄んだ声でにこりと笑いかけた。あまりに気安く放たれたのでしばらくの間、呆然とした。そして徐々に羞恥と怒りが湧いてきた。

「……人間だと? お前たち魔女は――」

「まあ、待ちたまえ。自己紹介を先に済ませようじゃないか。私はミゼリア。国の虜囚さ。君の名は?」

 そう遮られ、歯噛みする。

「……ローグ。ローグ・マカベスタ」

 少女はまたにこりとする。

「ふむ、ローグ君。君はこの第六分署配属となったわけだが、感想は何かあるかい? 例えばそうだな、ヴェラドンナの奴を崖から突き落としてやりたいとか」

 言葉を飲み込むのに時間がかかった。

「……おい、何で魔女のお前が局長を知ってるんだ?」

〈アンデワース〉では、魔女は外の情報を一切与えられず、文字通り死人のように過ごすはずだ。しかし、これではヴェラドンナが目の前の魔女――ミゼリアと知り合いであるかのようだった。

「む」

 形のいい眉をひそめ、白い少女はリコの方を向いた。

「リコ。この哀れな新人にはまだ何も知らされていないのかい?」

(知らされていない?)

「お、おい」

 とローグが声を出すも、リコの方も少女と向き合ったまま首を傾げ、

「そうなのですか? てっきり私はヴェラドンナ局長から、何もかも教えられてから来たのだと思っておりましたが」

 二人で何かしらの了解があるように話し合っている。やがて結論を付けたのか、リコがこちらへ相対した。

「行き違いがあったようです、ローグ捜査官。今から第六分署のことをお伝えします。第六分署とは大罪人の〈魔女〉とともに捜査をするチームなのです。ですから捜査官にはこの方たちの指揮をし、事件を解決していただきたいのです」

 一瞬呼吸が止まった。

 魔女と捜査? 正気か?

 大体どうしてヴェラドンナはそんな大事なことも教えずに――

 ローグはすぐに思い当たった。難航している殺人事件、さらにあの上司は『上』からせっつかれている。実力主義の捜査局ではちょっとしたことが命取りになる。であれば、使いやすい駒がいれば使うのは当然ではないのか。自分に中々靡かない駒であればなおさらだ。

 昇進の話に乗らなければ、この状況に至らなかったのだろうか。ローグは自身の選択を後悔した。

 視界が暗くなりかけた時、リコが口を開いた。

「矢継ぎ早で申し訳ありませんが、宜しいでしょうか?」

 苦虫を噛み潰したようにして、頷いてみせる。

「……まだ何か問題があるのか」

「ヴェラドンナ局長から指令を頂いておりまして。本当は一段落ついてからお伝えしようと思っていたのですけれど」

「……頼む」

「『はぁいローグ! 元気ぃ? 愛しのヴェラドンナよぉ?』」

 リコが突然極甘な声を出した。

「な、なんだそれ」

「ヴェラドンナ局長からの指令内容です。口頭で伝えろと仰っていたので」

「ああ……もう突っ込まねえ……」

 リコが続ける。

「『今回そっちの魔女たちを指揮して〈奪命者〉の捜査をやってもらいたいの。実はぁ、そこの第六分署には前任者がいたんだけどぉ、魔女の機嫌を損ねちゃったの。でも捜査に穴をあけるわけにはいかないしぃ。だから私、考えたのぉ。期待のエース、ローグ君ならなんとかできるかもしれないって。いいこと、ローグぅ? なるべく早く事件を解決しなさぁい。できなかったらぁ……‥………一生そこで魔女と乳繰り合ってなさぁい。あ、会議の時間~じゃあねぇ~』……以上が内容となります」

 そう言い切るとリコは「本日より第六分署署長としての勤務をお願い申し上げます。ローグ捜査官」とお辞儀をした。

 頭の中で、ありったけの罵倒をヴェラドンナへ送った。

 今のローグだったらヴェラドンナを殴ることだってできそうだ。それだけの理不尽さを味わっている。

 見れば白い少女が微笑みかけてくる。

「落ち着いたかい?」

「ああ、落ち着いた」

 と皮肉を言ってみせるが白い少女の微笑は崩れない。

 その時「またこのパターンか」と魔女たちの中から声が聞こえた。同情的な色が入っていたような気がした。ということは以前にもこのような形で第六分署に来たものがいるのか。視線が僅かに魔女たちに向いた。

 ローグの様子を見てとったのか、ふむ、と白い少女が頷き、

「まあ、大抵は君のように望まずここに追いやられてくるのさ。さすがに何も知らないで来たというのは初めてだけどね」

「……」

 余計にあの局長に対する怒りが募る。

「……お前の方は色々と知っていそうだな」

「もちろんさ。何しろここ最近は私が『担当』しているからね」

「『担当』だと?」

 聞き返すと白い少女は、

「平たく言えば捜査活動における相棒さ。君にも当然覚えがあるだろう? ここでは立候補制でね、今のところは私がやらせてもらってるんだ」

 そう言いながら椅子から立ち上がった。長い髪がふわりと巻き上がり、それを目で追っているうちに手が差し出されていた。

「よろしく頼むよ」

「……ああ」

 手袋を外し、白い少女の手を取った。血など通っていないかと思っていたが意外に温かい。ローグの体温よりは低いが、確かに生きている。『人間』というのは嘘というわけでもなかったようだ。

 冷静に考えれば捜査に制御不能な魔女を入れるわけがない。ローグは徐々に緊張が緩んでいくのを感じた――魔女の中からその声が聞こえるまでは。

「ミゼリアー? そいつはいつ殺すの?」

「は?」

 咄嗟に少女から手を離した。殺す?

「……どういうことだ?」

「すまないね。彼女は人を怖がらせるのが好きなんだ」

「よく言うよー。前の奴も自殺させているくせにー」

 また声が飛ぶ。

 白い少女は嘘がバレた子供のように笑った。

「はは。結果的にそうなってしまっただけだよ。殺したくて殺したわけではない」

「嘘つけー」

「恥を知れ」

「性格悪いぞー」

 魔女たちが囃し立てているが、ローグは信じられない気分だった。捜査官が自殺するだって? どんな酷い状況でそんなことが起こるのか。

 ローグはリコに向かい合うと、

「無理だリコさん。殺人鬼と仕事なんてできない。局長に連絡させてくれ」

「ご安心ください、ローグ捜査官。彼女たちには安全装置がついています。首元をご覧ください」

 リコに言われるがままに白い少女を見ると、その首には黒のチョーカーが巻き付いていた。ホールを見回せば少女だけでなく、他の魔女全員の首にも同じものがあった。

 再び顔を向けるとリコが、

「これは〈首輪〉です」

「〈首輪〉?」

「魔道具の一種です。三つの条件のどれかを満たすと、即座に着用者を死に至らしめます。一つは直接的に殺人行為を犯すこと。もう一つは許可された範囲を出ること、範囲は皇国領土内です。これは体の一部分が出てしまった場合にも適用されます。最後の一つですが――」

 と白い少女が会話に割り込み、

「規定以上の魔力を検知した場合だね。おかげで私たちは子供程度の魔力しか使えないんだよ」

 と言って、何が面白いのかくつくつと笑う。

「ちょっと待て。それでも手が使えるんだろ? だったら、魔術が使えなくても問題ないじゃないか」

 ペン先、ナイフ、自身の歯、――手が使えるからにはいくらでも手段はある。それにチョーカーの見た目をしているからには耐久力にも期待はできない。少女の力でも破壊は容易に見える。

「お言葉ですが捜査官」リコが言った。「〈首輪〉は決して外れません。着用者の死を感知しない限り、その役目を果たし続けます。それまではたとえ『魔剣』の類を用いようと破壊されることはありません」

「厳しい話だよ」

 うんうんと白い少女が頷いている。

「だからって安心しろって言うのかよ」とローグは言い、白い少女を睨む。

「というかお前、さっき捜査官を自殺させたとか言われてたな?」

「ああ、そうだとも」

「それは人を殺したことにならないのか? なんでお前は死んでない」

「ちょっとした言葉でも人は死ぬことがあるよ、ローグ君。思いもよらない言葉が引き金になることだってある」

「はぐらかすな」

 声を低くすると、白い少女は、さも当然かのように、

「自殺を勘定に入れてしまったら、捜査局は私たちを活用することができなくなる。私たちを殺せるのだったら自殺なんて苦でもない人たちはたくさんいるからね」

「それが理由だってのか?」

「おや、不満なのかい?」

「当たり前だろ。誰が魔女と働きたいと思うんだ」

「悲しいなあ。もう嫌われてしまった。私はこれから仲良くやっていこうと思ってたのに」

「嘘を吐くなよ魔女」

 ローグが言うと白い少女はウインクをしてきた。

「いやいや本当だよ。君のような人は好きだよ」

 心の中で舌打ちする。

「俺は頼まれてもゴメンだね」

「そうかい? 私の顔立ちはそう悪いものではないと思うんだが」

 白い少女は自分の顔を指し、言った。

「そんなこと関係あるか」

「手厳しいねえ」

「何が手厳しいだ――」

 言い返そうとするとリコから声がかかった。

「お時間はよろしいのでしょうか。事件解決を急ぐようにと、ヴェラドンナ局長から指令を受けていたはずですが」

 思わずハッとするが首を振る。そもそもこれは公平な条件ではない。

「……魔女がいるなんて知っていたら俺はここに来なかった」

 そう言うとリコは僅かに首を傾けるのみだった。

「そうでしょうか? 先ほどは随分打ち解けていたように見えました」

「……」

「ヴェラドンナ局長はナバコ島への手配は既に済んでいる、と仰っていました。今日中にでも島へ向かうことができると」

 言葉に詰まる。結局従うしかないのか。ここから逃げたとしても待っているのは島行きだ。捜査官としては最悪の場所。しかし少なくともここは違う。『捜査』はできる。

 ローグはリコたちに背を向けた。魔女と一緒に行動することになろうが、やることは決まっている。いつも通りやれば良い。靴裏で床を叩きながら息を吸うと、声を張り上げた。

「お前たち! ブリーフィングをやるぞ!」

 しかしホール内で返事をした魔女はいなかった。皆変わらず好きにしている。まるでローグの声など届いていないかのように。

「おい! 聞いているのか! 〈首輪〉が付いているんじゃないのか!」

 声量を大きくしても魔女たちは動く気配すらない。それどころか嘲笑われているような気すらした。

 呆気に取られていると白い少女が左隣に来て、

「ローグ君。私たちは捜査局に協力してあげてるだけなんだ。強制されようが気が乗らないものは動かないよ。〈首輪〉が付いていようが付いてまいがそれは変わらないんだ」

 そう言い放った。

「くそ……」

 最悪なところに来てしまった。

「まあ気を落とすなよローグ君。この私と一緒に捜査できるんだよ? きっと楽しいよ?」

 白い少女が馴れ馴れしく肩に手をおいて来るので、その手を振り払った。

(……くそ)

 もう一度心の中で呟いた。

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