騎士になった私は、聖女様を守るために命を懸けることに

スカイ

第1話

私は聖女になりたかったけれど、やむをえない事情で聖霊の力を失った。

でも、聖女になったらなったで、きっと今よりも多くの人が死んでいく。


「..............私は、どうしたらいいの?」


「僭越ながら................」


どこからか現れた白百合の騎士が、膝を折って頭を下げる。


「私にはよくわかりませんが、アリシア様は国を愛しているから聖女になったのでしょう?」


「...............え? いや、えっと............はい」


確かにそういう動機だったけれど..............愛しているかどうかは、今でもよくわからない。


「では、聖女として国を守り、国民を守ればいいのではありませんか?」


白百合の騎士は笑みを深くし、私に手を差し出してくる。


「私が全身全霊を以てお守りいたします。どうぞアリシア様は、アリシア様が為すべきことを為してください」


私は──おずおずとその手を取った。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


(テレーシズ)


王都に帰ってきてから騎士になったのはいいけど、やることはあまり変わらなかった。朝起きて訓練して仕事して寝る。

つまりこれまでと変わらないということ。

ーーせっかく、アリシア様と一緒にいられるのに...............っ!


「私はアリシア様の騎士なのにぃ~っ!!」


「朝からやかましいな」


騎士宿舎の談話室で歯嚙みしていると、背後から声を掛けられた。


「.......なんだテレーシズか。騎士になったんだな」


「そっちこそね、クォーツさん」


幼い頃より少し背が伸びて、顔つきが精悍になってきた気がするクォーツは、不機嫌そうにソファに腰かける。


「ここは談話室だ、座ったらどうだ?」


「立ったままでいいわよ」


「..........座れ」


「.....はい」


私がしぶしぶ腰かけると、クォーツはやれやれとため息を吐く。何よ、そっちから声を掛けてきたくせに...............。


「それで? なんでお前が騎士になんかなったんだ?」


「............それはこっちのセリフでもあるのよ。あなたこそ、てっきり騎士にはならずに領地を継ぐのかと思っていたのに」


アリシア様以外の異性とは碌に会話もしたくないけれど、私はぐっと我慢する。


「オレは元々騎士にはなるつもりだったんだ。..........まぁ、色々あったからな」


「そう.............。それで? あなたはこれからどうするの?」


私が尋ねると、クォーツは少し考えてから答えを口にした。


「オレは、アリシア様の側近になる」


「へぇ...........?」


私は思わず凶悪な笑みを浮かべてしまう。

アリシア様の一番近くにいるのは私でありたいけど、正直クォーツなら認めてやってもいいかなという気持ちもあった。

彼の覚悟がどれほどのものなのかを、知りたかったから。


ーーだけど。


「それでアリシア様と結婚か.........。」


「は? なんでそうなる?」


「なんでって........だってアリシア様は聖女なのよ?王都を救った聖女が伴侶となれば、あなたも王侯貴族の仲間入りじゃない」


アリシア様を娶ったクォーツには、きっと重鎮たちがすり寄ってくるはず。

その中で自分だけが選ばれるような優越感に浸りたいのに、横からぽっと出の方にかっさらわれるなんて、真っ平ごめんよ!

「オレは、アリシア様と結婚するつもりはない」


「......はぁ? じゃあなんで側近なんて目指すのよ」


クォーツは真剣な顔で私を見つめる。なんだか胸の奥がドキッと跳ねた気がした。........ん? ..........ドキッ? なんで?


「お、なんだいるじゃないか」


私が混乱していると、談話室に白い光を放つ鳥が入ってきた。クォーツの相棒の白百合だ。


「何か用かしら?」


『騎士団長から手紙が届いてる』


「あ、ありがとう」


私はお礼を言って手紙を受け取ると、そこにはただ一言──『アリシア様を助けろ』とだけ書かれていた。...............はい?


「..........何これ?」


私が目を点にしてクォーツを見ると、クォーツは何とも言えない表情をしていた。


「助けろって.........どういう事?」


「............王都に魔族が侵入したらしい。しかも王宮にだ」


「ええっ!?」


魔族が王都に侵入したってだけでも大事件なのに、王宮!? なんでそんな所に.........っ!


「しかも、アリシア様を連れ去ったそうだ」


「え?」


クォーツの言葉に、私は耳を疑った。

アリシア様が連れ去られた? なんで? そんなの、そんなのっ...........絶対におかしいじゃない!


「お前の聖霊ならアリシア様の居場所がわかるんじゃないか?」


「そ、それはっ」


私は言葉に詰まる。私だって何度も試した。

でも、聖霊の力はもう失われてしまったのだ。もう一度力を取り戻すまで、どれだけかかるのかなんてわからない。

それどころか、二度と戻らないかもしれないのだ。


「アリシア様を助けたいんだろう?」


「...........でも、もう無理なのよ!」


私は泣きそうになりながら叫ぶ。


「私.......もう精霊の力はないの」


今までひた隠しにしてきたことを打ち明ける。でも、クォーツは私をじっと見つめてきた。


「だったらもう一度力を取り戻してもらえばいい」


「え?」


何を言ってるの? そんな簡単に言ってくれるけど、それって物凄く大変な事なのよ!?

私が動揺していると、クォーツはさっさと荷物をまとめ始める。


「どこに行くのよ!」


「決まってるだろ。アリシア様を助けに行くんだよ」


「あ..................」


そうだ.............そうだよね! 騎士になったんだもの!助けに行かないと!


「クォーツ、私も一緒に行くわ!」


「いや、お前は騎士団に行け。オレは先にアリシア様の所に行くから」


クォーツはそう言うと、さっさと出て行ってしまう。...............でも、確かにその通りだわ。

王宮なら騎士がたくさんいるし、私が行ったところで足手まといになるだけかもしれない..............。


「..............よし!」


私は気合を入れると、荷物を纏めて騎士団本部に急いで向かったのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


※(メノウ殿下視点)


「いやぁ、凄いことになってるなぁ...........何年ぶりだろうなぁ。」


僕は王宮の惨状に思わず苦笑してしまう。王都に侵入した魔族に襲撃されて半壊した王宮は、今や大騒ぎになっていた。


「殿下!」


「あ、クォーツ」


廊下を歩いていると、僕を見つけて駆け寄ってくる騎士がいた。白銀の髪を持つ彼女は.............あぁそうか、彼女はもう騎士じゃないんだったな。


「お久しぶりですね、クォーツ」


「え、えぇ............」


ぎこちない返事をしたクォーツが気になったけれど、それよりも僕は、今の現状が気になっていた。


「王都が大変な事になっているね..........。大丈夫だった?」


「..........はい、私は怪我はありません」


僕はクォーツをじっと見つめる。

彼の表情には今までのような精彩がなかった。

アリシアの護衛を任せていた時は、あんなに生き生きしていたのに。


「僕でよければ協力するけど?」


「...............いえ、お気遣いなく」


そう言ったクォーツはすぐに立ち去ってしまう。僕はその後ろ姿をずっと眺めていたが──突然その場に跪いた。


「...............殿下っ!!」


「どうした? 今は非常事態だ、廊下で跪くのは感心しないな」


「申し訳ありません!...............やはり、一刻を争う事態です、どうかお力を貸していただけませんか!?」


僕はゆっくりと立ち上がる。...............こんな時に姿を現すなんてね。やはりあのお方が仕組んだことだったのだろうか?


「話は後だ。行くぞ」


「................はっ!」


僕は、クォーツを連れて廊下を歩き出すのだったーー。

私は騎士になって初めて王宮に来ていた。

とはいっても、王宮内を見学したことはなかったので、造りはよくわからない。

ただ、ここにアリシア様がいる事だけはわかる。


「.............どうやって侵入したのかしら?」


アリシア様と一緒にいた所から王宮まではそれなりに距離があるし、いくら魔族といえど誰にも気づかれずに王宮内に入り込むのは難しいと思うのだけれど............。


そんなことを考えていると、後ろから声を掛けられた。


「テレーシズ!」


振り向くと、クォーツと隣に殿下が立っていた。

クォーツは私に向かって手を差し出す。私はその手をじっと見つめたけれど──触れる事は出来なかった。

だって、私はもう騎士ではないから。


「ごめんなさいクォーツ。私、もう騎士じゃないの」


「.................っ!」


するとクォーツは、その表情を険しくさせてきた。どうしたのだろうか?


「お前は親友だろう? だったら頼む! 力を貸してくれ!」


「............何を言っているのよ?」


突然何を言い出すのかと思ったら.........。アリシア様が大事なのはわかるけど、いくら何でも非常識すぎるでしょう!


「魔族に連れ去られたんだぞ!? 放っておけって言うのか!?」


「私だって同じよ。でも、私にもやらなくちゃいけないことがあるの」


そう、私はもう騎士じゃない。アリシア様のお傍にいる資格を失ってしまったのだ。でも、だからこそ行かなくちゃいけない.............!


「じゃあねクォーツ、私もう行くから」


「待て! オレも一緒に.........っ」


すると突然クォーツが胸を押さえて苦しみだした。.............なに? どうしたの?


「..........っ! .........テレー......シズ.............」


途切れ途切れの声を必死に聞き取っていく。


「ほん、とに.............おまえが........すきだっ.........た......」


「え?」


クォーツは最後に笑ってみせると、そのまま倒れこんでしまった。

私は慌てて傍に駆け寄り、その体を支える。

クォーツは苦しそうに顔を歪めて気を失っていた。.............一体、彼に何があったのだろうか? クォーツのことは気がかりだけれど、でも、今はずっとここにいる場合ではない。

それよりも早く、アリシア様の所へ向かわないと!

彼を安全な場所に移動させ、最低限の治療を施した後に私は立ち上がると、王宮の中を駆けだした──。




『聖女様~っ』


「聖女様! どうかお助けください!」


私は王宮に駆けつけると、早速騎士たちに引っ張りだこになった。

まさか私がこんなにも必要とされていたなんて..........。でも素直に嬉しい。

そんなことを考えていると、不意に聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「こらアリシア! 何やってるのよ!」


「え? あ、ローナ!?」


振り返ると、そこには調合師で私の友人であるローナが立っていた。なんだか怒っているみたいだけど..........私

、何かしちゃったのかしら?


「..........別にいいわ」


ローナはそう言うと私の手を握り、そのまま歩き出す。え? あの..........どこに行くの?


「ちょっと、ローナ? 私急いで........!」


「いいからこっちに来なさい!」


ローナは私をどこかに連れて行こうとする。でも私はアリシア様を助けないといけないのに............! 私が困惑して走り続けていると、不意に声を掛けられた。


「お2人は、どうしてここにいるのですか?」


振り返ると、そこには魔法使いのティアがいた。彼女は不思議そうな顔で私とローナを見つめていたのだけれど、私は思わず叫ぶように口を開いていた。


「騎士団に入ったの!」


私はあっさりとその言葉が出た。

ティアはじっと私の顔を見つめてから、口を開く。


「今行かないときっと後悔します」


「っ!」


私は思わず息を呑んだ。それは私が今まさに悩んでいた事だったから──。


そんなこんなで先程、騎士団達が王宮の中を歩いていたらクォーツが倒れているのを見たので、急いで彼を王宮の一室に連れて行き寝かせたのだという。

目を覚ます様子がなく、意識のない彼はどこか苦しそうな表情で魘されているという報告が入った。



「大丈夫かしら?」


「わからないけど............彼についてはここで出来ることはないわ、私は最善を尽くしたつもりよ。」


私はそう言うと、立ち上がった。

いつまでもクォーツに囚われてはいけない、アリシア様を助けに行かないといけないのだから。.............-本当は胸が痛むのだけれど。

すると、ローナが私の手を掴んできた。


「待ちなさい」

「ローナ................。」


振り返ると、真剣な目で私を見ている彼女と視線が合う。なんだか怒っているみたいだったけれど.................何故?


「何をそんなに急いでいるの? アリシア様を助けるって言ってたけど.................」


「そうよ、それがどうかしたの?」


私が首を傾げると、ローナは呆れたようにため息を吐いた。.................どうして私は呆れられているの?


「アリシア様が心配なのはわかるけど、だからってあんたが一人で行ってどうなるっていうのよ」


「...................で、でも」


「いいからちょっと落ち着きなさい!」



私は思わず息を呑んでしまった。だって、ローナが怒鳴ったから。

彼女は一体どうしたというのだろう? そんな私の考えを見透かしたのか、ローナは自嘲するように笑う。


「私もあんたと同じ気持ちになったことがあるからよ」


「え...............?」


ローナの意外な告白に私は驚いてしまう。..............そっか、ローナもクォーツが心配なのね。私だってすごく心配だし............でも!


「それでも私は行かないと!」


「................はぁ。このわからず屋! ちょっと来なさい!」


「きゃっ!?」


ローナは私の手を引っ張って歩き出した。私は転びそうになりながらも彼女について行くしかなかった──。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


着いた場所は騎士団の本部だった。こんな所に来て何をするんだろう? 私がそう思っていると、ローナが私に向き合ってくる。


「今から私はテレーシズに嫌がらせをするわ」


「..................はい?」


何を言い出すんだと思ったら、ローナはとんでもない事を言い出した。え、嫌がらせ? なんで!?


「私の聖女様に対する想いを馬鹿にした罰よ! 聖霊の愛し子を独り占めだなんて、羨ましいじゃない!」


「えぇ.............?」


そんな無茶苦茶な.............っ! いや、でも私も今まで散々ローナやアリシア様を羨ましがってたから人の事言えないけど...............!


「いい? 今から私はテレーシズをこっぴどくいじめるわよ。それが嫌なら、今すぐアリシア様を助けに行けばいいわ」


「.............ローナって時々すごく子供っぽくなるわよね」


私が思わず苦笑すると、ローナは頰を膨らませてそっぽを向いた。可愛い.............っ! もう本当に可愛いわねこの子! でも、やられっぱなしっていうのはちょっと悔しいかも.............。だから私はニッコリと笑って口を開いた。


「わかったわ。でも私、結構強いよ!」


私は聖霊の愛し子としての力を失った。でも、そうなったからってアリシア様の傍から離れようとは思わない。

だって、アリシア様がいないと私は生きていけないんだもの。だから──


「今から私も、ローナに嫌がらせをしてあげる」


「上等よ!」


そう言って私たちは笑い合ったのだった──。




「ちょ...............っ! なんで当たらないのよ!?」


私は息を荒らげながら叫んだ。するとティアは余裕そうな笑みを浮かべてくる。なんだか無性に腹が立った。


「そっちこそ、その程度なの?」


「っ! もう怒ったんだから!」


私は勢いよく駆け出し、ティアに斬りかかる。でも剣は簡単に避けられてしまった。そして私の背後から彼女の声が聞こえてきた──。


「遅いわね」


「................っ!?」


驚いて振り返ると、そこには冷たい笑みを浮かべたティアがいた。嘘でしょ............見えなかったんだけど...........-!? 私は呆然とその場に立ち尽くしてしまったが──不意に声が聞こえてくる。


「これでわかったでしょ? あんたが一人で行ったって無駄だって」


「................そうね」


私は素直に頷く。確かに今のじゃ足手まといにしかならなかった。でも.........諦めるわけにはいかない!


「それでも、助けに行かないといけないの!」


「もう..........テレーシズ、あなたまだそんな事を言ってるの?」


ティアが呆れたようにため息を吐く。確かに今の私では足手まといにしかならないけれど............でも.............! 私が必死で考えていると、不意に声を掛けられた。それはティアだった──。


「..............わかったわ。なら私も一緒に行く」


「え?」


私は驚いてしまう。だってティアが私に協力してくれるなんて思いもしなかったから..............。でも、嬉しい。


「ありがとう! ティア!」


私が笑顔でお礼を言うと、何故か彼女は驚いたような表情を浮かべて固まってしまった。え? 私何かおかしな事言ったかしら...........?


「わ、私は別に.............」


「どうしたの?」


私が首を傾げると、ティアは慌てた様子で首を振った。そしてゆっくりと口を開く。


「何でもないわよ! .......ほら行くわよ!」


「えぇっ!?」


突然怒ったように歩き出した彼女を追いかけて、私は走り出す。


「待ってよ〜っ!」


──そして私たちは、王宮の中を駆けだしたのだった。


王都に現れた魔族の襲撃は騎士団によって鎮圧されたが...............被害は大きかった。王都の一部が破壊され、大勢の命が奪われてしまったのだから...............。


(それでも私は行くわ!騎士として、助けなきゃいけない命があるのだから。)


私が王宮の廊下を駆けていると、前方から騎士が数名向かってくるのが見えた。


「テレーシズ様っ!!」


私に気が付いた騎士たちは途端に剣を抜こうとするが──私が両手を広げて制止するとその動きを止める。


「どうして止めるのですか?」


「................いえ、何でもありません」


訝しむように私を見た騎士達だったが、すぐに私に背を向けて行ってしまった。..............なんだったのかしら? 首を傾げながらも私は王宮の奥へと進んでいくのだった──。

ローナと一緒に王宮を飛び出した私は王都の中を走っていたのだけれどーー唐突に背後から声が聞こえてきた。


「テレーシズさん?」


私はゆっくりと振り返って彼女ーーアリシア様の姉である、アリア様と目を合わせる。

すると彼女は、ハッとしたように目を見開いてから笑みを浮かべた。


「無事だったんですね! もう心配しましたわ!」


「あ、ありがとうございます..............?」


私は戸惑いながらもお礼を言うと、アリア様はハッとしたように私の両腕を掴む。

え? 何!? どうしたの!?


「すみません、私ったら!」


そして慌てた様子で私の両腕から手を離すと、一歩後ろに下がるのだったーー。

.............本当にアリシア様によく似てらっしゃるわ。



私たちは王宮の中を駆けていたけれど、途中でアリア様とばったり出会ったのだ。

どうやら彼女も私たちを探していたらしいのだけれど..............どうしてだろう?


「何はともあれ、ご無事で何よりですわ」


「ありがとうございます」


私は首を傾げながらもお礼を言うと、アリア様は安堵の息を吐いて笑みを浮かべた。

...............でも、なんだか様子がおかしい気がするんだけど.............気のせいかしら?

私がそんなことを考えているとーー突然後ろから声をかけられた。

それは聞き覚えのある声で.............私が、今1番会いたかった人の声だった。


「アリアお姉様?何をしていらっしゃるんですか?」


振り返ると、そこにはアリシア様が立っていたのだ! 私は思わず叫んでしまう!


「アリシア様っ!!」


私の大きい声に驚いたのか彼女は目を見開いていたけれどーーやがて、安心したように微笑んでくれた。


「心配をおかけしてごめんなさいね」


そう言って彼女は頭を下げる。良かった...........本当に無事で良かった............っ! 私がホッとして息を吐くと、アリシア様が何かを思い出したように口を開いた。


「そう言えば、貴女はどうして王宮に? それにその格好は............」


そうだ! 私まだ騎士の恰好をしてたんだった!着替えないと...........そんなことを考えていると、アリア様がアリシア様の前に進み出る。

そして彼女の手を握り締めた。


「アリシア、この者たちと一緒にいては危険ですわ!」


「....................え?」


アリア様の言葉に、アリシア様が呆然としている。え!?!確かに私も驚いているけれど、一体どういう事なのかしら.............!?

困惑する私とローナを見て、アリア様はさらに続けた。


「私は知っているんです............王宮の中に魔族がいるのを」


「魔族ですか? そんなまさか..........」


私が冷や汗を流しながら答えると、アリア様は真剣な表情で首を縦に振った。え? まさか本当に魔族がいたの...........? でもどうしてアリア様がそんなこと知っているのだろう。


私は思わず固まってしまう。

アリア様って............あのアリア様よね? この人、本当に............?

私が呆然としていると、アリシア様がゆっくりと口を開く。

その表情はなんだかとても冷たいものだったけれど...........それだけじゃなくどこか怒っているようにも見えた。


「その話を詳しく聞かせて下さい」


「わかりました」


そして私たちは王宮内の一室に場所を移して、話を聞くことになったのだけれどーーそこには信じられない光景が待っていたのだ!

これは夢なのかしら.............?

私は呆然としながら目の前の光景を眺めていた。

そして目の前にいる人物ーーそれは間違いなくアリア様なのだが、その恰好は普段の彼女とはかけ離れたものだった。

まるで別人のような容姿に変わってしまった彼女の姿..............。そして、彼女によく似た一人の女性............?


「貴女は一体誰なんですか?」


アリシア様が尋ねると、アリア様(?)はまるで面白いおもちゃでも見つけたかのように笑ったのだったーー。


「私はアリアよ?」


私の問いに彼女はあっさりと答える。

しかし、その表情にはどこか優越感のようなものが感じられた。まさか...............本当にあのアリア様なの!?


「.................どういう事ですか!? アリア様は何処へ行ったんですか!?」


私は思わず声を荒げてしまう。すると、彼女は妖艶な笑みを浮かべて私を見たーー。


「悪いけど、教えるつもりはないわ」


そう言って彼女は笑みを深める。私は思わず息を吞んだ。この人.............本当に私の知ってるアリア様なの...............? いや、そもそも人間なのかすら怪しくなってきたのだけれど..............っ!


私が戸惑っていると、アリシア様が口を開いた。


「................貴女は魔族なんですか?」


アリシア様の問いに、彼女は嬉しそうに笑って答える。


「そうよ? でも悪い魔族じゃないのよ?」


そう言ってアリア様はクスクスと笑った。

この人の正体は.................本当になんなんでしょう...............?私が戸惑っていると、アリシア様は不思議そうに首を傾げた。


「なら、どうして私を狙うのですか?」


「あら、それは貴女が聖女だからに決まってるじゃない」


アリア様はそう言ってクスクス笑う。...............ちょっと待って? それってどういうことなの?私が困惑していると、彼女は口を開いたーー。


「私はね、アリシアと違って魔族と人間のハーフなのよ。」


アリア様はそう言うとニヤリと笑みを浮かべたーー。

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