バイオロギング
@d-van69
バイオロギング
とある研究室で、M氏が持ち帰ったばかりの画像を整理しているところにL氏がやってきた。彼はM氏の手元を覗き込みながら、
「それかい?君が発見した新種っていうのは」
そうだよ、とM氏は顔も上げずに答えた。
「聞くところによると、知的生命体だって?」
「相変わらず、情報が早いな」
彼はぎろりとL氏に視線を向けると、
「知能があると言ったって僕たちほどじゃない。ごくごく原始的な知能だ。それだけにやっかいなんだよ」
「どうやっかいなんだい?」
「短絡的な行動をとることがある。つまりうかつに近づくと、興奮して攻撃をしかけてくる可能性があるんだ」
「狂暴なのか?」
「いや、単体でいるときはほぼほぼ大人しいんだ。だが群れるとヤバい。一気に攻撃性が高くなる。この画像を撮るのですらヒヤヒヤものだったよ」
「そりゃ、大変だったな」
M氏はまったくだと言いたげな顔で頷きつつ、
「本当はさ、もっと詳細なデータを集めたかったんだよ。行動範囲はどれくらいなのか、意思の疎通はどのようにするのか、コミュニティはいかにして形成するのか、どんな餌を好むのか、生殖行動はどんなふうにするのか、寿命はどれくらいか……。でも、遠くから写真を撮るのが精いっぱいだった」
「だったら、バイオロギングでデータを集めればいいじゃないか」
「ああ、データロガーだっけ?カメラとかGPSが入った装置。それを生物の身体につけてデータを集めるってやつか」
「最新のデータロガーなら加速度や温度、地磁気なんかも記録できるんだぞ」
「それなら我々が近づかなくても、生物自ら記録を残してくれるから安全ってわけか」
「そう言うことだ」
「でも、あいつらには最低限の知能があるんだぜ。そんな装置を身体につけられたら、おかしいと思って外さないかな?」
「それもそうだな……」と思案顔を作ったL氏は、
「ちなみに、やつら道具は使えるのかい?」
「ああ。それくらいの知能はある」
「だったらさ、データロガーを無理やりつけるんじゃなくて、そいつらが自ら身につけたくなるように仕向けるってのはどうだい?」
「そんなことできるのか?」
懐疑的なM氏にL氏はニヤリと笑って見せると、
「そいつらにとって、データロガーがとても便利な道具だと思わせればいいんだよ。例えば、カメラとGPSの情報をそいつら自身でも確認できるようにしてやるとかさ」
「なるほど。だったらそれを視認するためのディスプレイが必要になるな」
「画面をつけるならそれも活用できる機能を乗せればいい」
「じゃあ、そこに表示した情報をデータロガー同士で交換できるようにすればいいんだ。あいつらのコミュニケーションツールにしてしまえば、誰もがそれを持つようになるかもしれないぞ」
2人はたった今話した内容をもとに、新しいデータロガーの開発に乗り出した。
いつもの研究室で、M氏が集めたデータを整理しているところにL氏がやってきた。彼はM氏の手元を覗き込みながら、
「どうだい。例の新種の生態は」
「まあ、データは集まっているんだけどね……」
顔を上げたM氏は眉根を寄せると、
「ただカメラに映った画像の偏りが激しいんだ。ほとんどが食い物と自分の写真、あと変な動きの動画で占められている」
「へぇ。そんなもの撮ってどうするんだ?」
「AIに分析させたところ、己の承認欲求を満たすため、ってことのようだ」
フン。とL氏は鼻で笑ってから、
「くだらないことにこだわるんだな、このヒトって新種は」
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