第3話 からかわずにはいられない。
俺は家に帰っていつものルーティンである、星霜 冷の配信を見た。
学校から帰ってきて直ぐに、ASMRの配信を見るこのルーティン。
なんだか懐かしくて、中学時代を思い出す。
中学時代は俺はモテなくても、星霜 冷がいるからなんて自分で慰めてたっけ。
中学のクラスの一部の顔のいい女子も、こんな可愛い声の持ち主はいない。美少女は意外と声がブスという研究結果を作ってやる!なんて息巻いて。
今回もその例だと思ったんだけどなぁ、、、
あの、銀髪美少女の、雪本 雪菜がまさかまさか星霜 冷なんて。俺の中学時代の自由研究は完全に否定されたって訳だ。
『はぁ、、マジで萎える。リスカしよ...』
それにしても、星霜 冷、やはりいい声だ。今日はメンヘラ地雷系女子のシュチュエーションボイスか。
『ねぇ、君、なんで私を愛してくれないの……私はこんなにも愛してるのに』
清楚系なキャラを演じることが多かったのでまた珍しいタイプの星霜 冷のボイスを聞けるのは嬉しかった。声だけ良いだけじゃなく、ちゃんと演技も上手いのが星霜 冷の魅力の一つだ。
まさに、うざったくもかわいいそして少し怖い愛の重いメンヘラ地雷系女子のリアルを再現している。
ふと、雪本 雪菜の顔が浮かんで俺は、頭を抱えた。いかんいかん。あくまで俺は演じている、変態な事を、いい声で囁いてる演技の上手い星霜 冷のことを好きなんだ。別に雪本のことを好きなわけじゃない。
別に演じてる本人があいつだろうなかろうと、、、いや待てよ。
あいつはどんな気持ちでコレを演じているんだ?
あんなクールそうで、清楚で可憐でそしてクラス一渡辺によると、学校一の美少女が。メンヘラ地雷系女子を演じるASMRをヨウチューブに投稿しているんだ。
もしかして見かけによらず、雪本は相当なド変態むっつりスケベなのかもしれないなと思った。
仕事だと割り切って将来声優を目指す近道のためにやってるとかそういうのなら分かるが、楽しむために
とにかく!その真意を確かめようと思った。
次の日の学校にて、
あっという間に授業は終わり、下校時間になった。
今日の授業中にもあいつは女子からもいろんな噂をされていた。
それに雪本とはただ、物憂げに視線を教科書や本へ下ろしていて、ただただこじんまりと自分の席に座っていた。
俺はそんな雪本目線を送ったが、彼女は一向に目を合わせなかった。
「おーい、充!帰ろうぜー!」
渡辺が元気よく俺に駆け寄ってきた。
「いやごめん。今日もお前、先帰っててくれ」
「どうしたん?なんかやることでも?」
「野暮用だよ。先生に雑用頼まれた」
俺は渡辺にサラッと嘘をついた。
「そうかのか。そりゃあ気の毒だな。手伝ってやろうか?」
渡辺は意外といいやつだ。そんな渡辺に嘘をついたのは少し良心が痛まなくもない。
「いいよ別に。俺一人で十分」
「お前がそう言うなら。じゃあ、またな!」
「おう」
渡辺が去ったのを確認して、俺は、雪本の席の近くまで駆け寄った。
雪本は昨日とはうってかわって下校せず、席で本を読んでいた。
俺はさりげなく、周りにバレないようにコツンと雪本の指先で机を叩いて、そしてそれに気づいた雪本と目を合わせ、目配せをした。
そうして俺は、教室を出ると、雪本の椅子が引かれる音がした。
俺は中庭へと向かった。昨日、雪本の正体を知った場所だ。
雪本は俺のあとをついてきていた。
「なんですか?」
中庭へ着き、雪本はここに人気がないことを確認すると、そう口を開いた。
「いや、、なんでお前は、その声を隠すのかと思ってさ」
「私の勝手ですよね」
雪本は素っ気なくそう言った。
「いやそれはそうなんだけど、やっぱ秘密を知ったからには気になるじゃん」
「説明しなきゃダメですか?」
「ダメだな。気になって夜しか眠れなくなる」
「夜眠れればいいじゃないですか!はぁ、まぁ私がこの声を隠してるのは、前言った通り活動のためで」
「そうは言っても、お前も俺がファンって言ってたこと驚いてたし、どうせファンいないと思ってたんじゃねえの?」
「念には念を、ですよ。それに私だって今や登録者数5万人いるんですから」
「自慢か?」
「自慢じゃないです!」
「あ、あと……」
「あと?」
「その……昔、声でからかわれたことがあって」
口をもごもごとしながら彼女はそう切り出した。
「なんというか……中学時代、クラスの女子から声が五月蝿いとか言われてそれで声を思うように出せなくなって、もうああいう思いはしたくないんです」
「ふぅん?」
「だから、自分のありのままの声を出せるASMRの世界にハマって、その声でみんなが喜んでくれて、嬉しかったんです」
「なるほどねぇ。それで始めたんだ。ASMR」
「や、やば。私、クラスの男子に何言ってるんでしょう。忘れてください」
雪本と慌てて顔の前で手を振る。クールないつもの表情は崩れていた。
「いや、忘れない。俺はお前の声、星霜 冷の声を、一度も五月蝿いとか不快だと思ったことない。むしろ逆だ、俺が生きてる中で一番好きな声だ」
俺はなんの恥ずかしげもなくそう言う。
「そ、それは……ありがとうございま」
雪本は少し頬を赤く染めていた。
「まぁでも!そういうことがあったにせよ!お前は、中学時代からあんなド変態なASMRを始めたんだろ?とーんだドォ変態だなァ?」
俺は雪本を煽るようにからかうようにそう言った。なんかからかい甲斐があるんだよな。
「は、はァ!?五月蝿いですね!私がド変態な、わけ!」
「なわけ?」
「あるかもしれません……」
「へ?あるの?」
急に雪本は、自信なさげに下を向いた。
「どうせ私は、、」
「どうせ私はむっつりスケベだと?」
「ムッツリスケベ言わないでください!」
「ムッツリスケベの雪本さんか。いやー見た目と名前からは想像がつかないまさにギャップ萌え、ゲインロス効果。これこそ真のムッツリスケベだ、あっはっは」
俺は陽気な調子で雪本をからかった。
「ムッツリスケベ連呼やめてくださいよ!」
「まぁでも、、私はクズでノロマでビッチで、変態で、声だけの、むっつりスケベ異常性癖オワコンオタクASMR配信者ですよ……」
「自虐ネタ多すぎない?」
「自虐ネタ、好きなんです」
「ああそう。まぁなんでもいいや俺じゃ、帰るわ」
「え?急に素っ気ないですね」
「なに、お前、こうやっていじられるのが好きなの?」
「違いますよ!なんか脅したりするためにここに連れ出してきたのかと思っただけです」
そんなことするわけないだろ。俺がそんなことをするやつに見えるってのか?まぁ見えなくもないか。雪本からしたら。
「いや別に?単純に質問して、お前をからかいたかっただけ」
「そ、そうですか...それは良かったですよ、はは……それじゃあさようなら」
雪本はそう引き攣り笑いをして、俺と別れた。
こいつをからかうのは面白いなと思った。普段から俺は興味のないことには全くもって不真面目で怠惰で自堕落で自主性なんてものは欠片も無く何もしないのだが、興味のあることについては全く逆だ。
俺は完全に今、雪本の事について、興味津々だった。
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