神様だけど、異世界転生希望者が多すぎます!

直江 直美

第1話 イケメンにしてください

 ここは現世で人が亡くなったあと、異世界転生を希望したものだけが訪れることのできる神聖な空間。希望の転生ができるよう、神様と面談するのです。今回着任した神様は、日本生まれの女神様。初めての面談のため、少し緊張した面持ちです。

 さあ、早速転生希望者がやってきました。


「異世界転生を希望しています。転生先では世界一のイケメンでお願いします」


 天空の法廷にて神の御前に立った男は、そう宣言しました。審判を下す神様も、困り顔です。


「ええっと、まず本人確認をさせてね。あなたは、この書類によると32歳のとき交通事故により亡くなられたってことでよろしい?」

 神様は机の上にある資料をめくりながら、聞きました。


「そのとおりです」


「実は私も今回から転生係になったから、詳しい訳じゃないけど、あなたのプロフィールだと、異世界転生はちょっと無理かも。最近転生希望者が多くて、なるべく減らすよう指示が出ているの」

 神様は長い前髪を手でくるくる巻きながら、答えました。


 それを聞いた男はガッカリして答えました。

「では、私の願いは聞き入れていただけないのですか?」


「うーん、叶えてあげたいのは山々だけど、最初の要望を詳しく聞かないことには、なんともいえないわね。まず、どんな異世界に転生したいの?」


「まず、魔法が使えるけど、文明はあまり発達していないような……」


「ふんふん」

 神様は男がいった要望をメモしていきます。万が一、異世界転生となった際に、願いを叶えるためです。


「まあ簡単にいえば、ファンタジーな世界観です」


「ふぁんたじー……(まあ、魔法が使えればどこでもいいのかしら)」

 神様は大昔の日本生まれのため、外来語に詳しくないのです。


「前提として、男性が一人もいなくて……」


「ん?それ生態系終わってない?どうやって子孫繁栄しているのよ。その異世界」


「あと女性は胸が大きい方がいいです」


「女性の、しかも胸も普通な私にそれいう?」

 ちなみに神様のお胸はCカップですので、適度な大きさです。


「それと顔は、なるべく整った……簡単に言えば美人がいいです」


「美人って……こう、可愛らしい感じの子?」


「2次元の女の子がいいです」


「2次元……?たしかに現世って3次元よね?異世界って言っても、次元まで違うようなところじゃないのよ」


「ついでに女の子の身長が150cm代だといいです」


「せんち……って何尺?」

 「尺」とは昔の長さの単位のことです。


「150cm が何尺なのかについては、よく分かりません。でも大体僕の肩ぐらいに女の子の顔がある程度が理想です」


 神様は思いました。初めからスゴイ奴担当することになったわね。最近の人間ってみんなこんな感じなのかしら……?


 神様は気を取り直して、質問を再開しました。

「……じゃあ、イケメン?の部分を詳しく教えて」


「はい、まず顔が整っているのは第一ですが……」


「ふんふん(イケメンって顔が整っている、という意味なのね)」


「一目で女性から好かれるような顔にしてください」


「ん?」


「具体的には、モテすぎて相手を何でもいうこと聞かせられるぐらいにしてください」


「発想が怖いわ!その能力って強すぎない?最強じゃん!神じゃん!」


「いや、神はあなた様です。それと僕の身長は今より頭一つ分ぐらい大きくして下さい」


「それだと女の子と身長差かなりあるわよ」


「あと、僕強い男に憧れていますので、筋肉ムキムキにしてください」


「それは転生したあと、特訓でもすればいいんじゃない?」


「筋トレなんてめんどくさい。いやです」


「なんかワガママすぎない⁉︎体を鍛えるぐらい自分で頑張りなさいよ」


「以上が僕の要望です」


「いや、思った以上に注文が多いな!」


「いやいや、これでも大分譲歩した方ですよ」


「これのどこが譲歩したの⁉︎前世で全く恋愛経験がなかった男の欲望の塊みたいな内容だったよ⁉︎」


 男は、図星だったのかしょんぼりしていいました。

「それで、私の願いは叶えられますか?」


「出来なくはないけど……だって、私神様だもん」


「そ、それでは……!」


「待って!初めにもいったけど、異世界転生ってそう簡単にできるものじゃないの」


「はい、聞きました」


「それこそ生前に、その世界で何か実績がないと認められないの」


「その実績とは……どのようなものを指しますか?」


「そうね〜、実績を判断するのは私の匙加減だけど、その世界の発展に尽力したとか、貧しい人たちのために働きましたとか、かな〜」


「うーん、なるほど……」


「それで、あなたは何かある?実績?」


「そういわれると……ないです」


「だったらまた現世に転生して、新しく人生を始めなさい。イケメンで転生した異世界で活躍したい気持ちは分かるけど、まずは自分の力だけで頑張りましょう。次回は自分のためじゃなくて、相手のために考えて行動するように」


「ぐぬぬ……。あ、あの、参考までに教えていただきたいのですが、現世で生き返るなら、どちらに転生するのでしょうか?」


「やっぱり天竺(てんじく)……今はインドだっけ?そこがいいんじゃない?私、日本生まれの神様だからよく知らないけど、釈迦さんがいい所だよっていっていたわ」


(このままでは異世界転生できないどころか、インド送りにされてしまう……!インドはいいところだけど、ここまで来たら異世界に転生したい……!何かいい言い訳はないか……?)


「じゃあ、これにて終わり!閉廷!」

 神様は木槌をバンバンと叩くと、机の書類をまとめ始めました。


「ちょっと待って下さい!」

 突然、男が叫びました。


「わっ!何なのよ!これから帰って、晩ごはんでも食べようと思ってたのに」


「最後に私の願いを聞いてくださった神様へ、お礼を申し上げようと思いまして」


「うんうん、それはいい心がけね」

 思いがけない男からの言葉に、神様もニッコリです。


「この度は神様にお会いできて、至極光栄でございます。まさか、あなた様がこのような美しいお姿だとは夢にも思いませんでした」


「えへへ、そう?」


「はい、神様ってヒゲの長いお爺さんのイメージでした。それが滑らかな銀色の髪!透きとおるような肌!お召し物も着物だし、日本の女神って感じで可愛いと思います!」


「いや〜、やっぱり私って可愛い?照れちゃうな〜。この着物も最近奉納されたもので、結構お気に入りなの!」


 男は思いました。

  (この神様チョロいな)


「いや〜、その可憐な和服まで捧げ物としてもらう神様だから、さぞかし我々下々の人間にもご加護を与えてくださったのでしょうね?」


「え?加護?ええっと……そうね、加護……」


「まさか私には、『相手のために行動するよう』お話されたのに、まさか神様自身が人間のために行動したことがないなんて、そんなことがあるはずないですよね」


「えっと、ええっと……」


「普段からご加護を与えて下さる神様なら、私の願いなんて簡単に叶えて下さると思うんです。だってほら、あなた様のように美しくて、可愛くて、品もある神様なら!」


「ま、まあ、そこまで言うなら叶えちゃおうかな〜。最近ね、加護を与えるなんてしてないからね。ほんと最近だけね」


「はい!異世界では心を入れ替えて頑張りますので、どうぞよろしくお願いします!」


「じゃあ、今回だけ特別!魔法が使えて、女性の比率がちょっと多いぐらいの異世界にイケメンで転生するってことで」


「ありがとうございます!(まあ、現世よりマシか)」


「じゃあ呪文を唱えるわよ。ちちんぷいぷい!異世界〜♫転生〜♫」


「うわ、呪文ダサ……」


 こうして、男は無事異世界転生できましたとさ。


追記:男から異世界の指定が特になかったため、古代メソポタミア文明のような異世界へ転生となりました。




 

 

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