*12*

 4年が経ち、きららは22歳の新卒の教師、有理香は県立さくらが丘高校に通う18歳の3年生となった。

 夏休みはきららにも有理香にも時間のある素晴らしい季節だ。

(いつもよりは、という程度でありきららは受け持っている書道部の顧問としての活動が、有理香は英語部の活動があった。)

 ある日、きららは優海から夕食に誘われて機織家へ向かった。

 そこで夕食をいただいた後、優海は有理香と並んできららに話を向けた。

「有理香から、きららさんと家族になりたいと相談されましてね。一昔前であれば養子縁組という方法がまず取られたでしょう。そうなれば、私が親、きららさんが娘という形で、有理香ときららさんは法律上の姉妹……。それも一つの方法です。……ですが。」

「……ですが?」

「今の世の中には、養子縁組という“親子”や“姉妹”というある種の序列を伴うつながりではなく、パートナーシップ制度で家族になる人たちもいるようです。養子縁組もパートナーシップも、それぞれに利点と欠点はございます。今後同性同士の婚姻が法律的に認められても、養子縁組を一度した者同士は婚姻が出来ない……など。……ですがそもそも。」

「そもそも?」

「きららさんは成人して少ししておりますが、有理香は成人したばかりでございましょう。……ですので、今後2人でどう歩むか考えてくださいな。もしも2人で考えて、養子縁組で姉妹になりたいというのであれば、私は喜んできららさんを娘として迎えます。……まあ、貴女達が恋人同士なのは承知ですので、一歩引きたいところではありますけどね!」

 聞いていてきららは情報を整理するのに必死だった。

 いつの間にこの人は同性間での家族構築の事情にこんなに詳しくなったのだろう。

 有理香が成人したからそのうち調べなければいけないと思っていたけれど、忙しく手が回らなかった。

 有理香は有理香で、成人したと言えどもまだ高校生だ。

 しかも受験を控えている。

 合格すれば春から大学生だ。

 男女間での婚姻だとしても不可能な年齢ではないが、決断をさせる時期ではない、あまりにも早すぎるときららは考えていた。

「……有理香。」

「きらら。私はきららと家族になりたい。……でも。まだお母さんの元を離れての生活はできない。私が大学に合格したら、きららと2人で暮らしたい。そして私が大学を卒業して働くようになったら、きららと本当の家族になりたい。……だから、私が大人になるまで待っててほしい。」

 きららの返事なんてもう決まっていた。

 そこまで考えられてる時点で、ずいぶん成長しているわ。

「もちろん待ってるよ。どんな形にするのかはその時に2人で考えよう。制度とかも変わってるかもしれないし。……楽しみにしてるわ。」 きららの答えを聞いて、有理香はさらに活力を増した。

「ありがとう! きらら! その日を楽しみに私頑張る!」

 きららは有理香の傍に行き手を握る。

「ずっと傍にいるよ。」 

 母親にも負けないくらい逞しくなった教え子にして恋人をいつまでも支えたい。

 有理香の傍にずっといたい。

 きららの願いを、今度は有理香が叶えようとしている。

 時間はかかるけど叶えられない願いではない。

「私も楽しみにしてるよ。」


 ほとんど将来を誓ったに等しい娘とその恋人のやりとりを、優海は見守っていた。

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