段平鋳造師~ブロードソードキャスター~は、鋳物師ではなく魔術師でもなく鍛冶師です

大黒天半太

段平鋳造師の出番

 どの国にも属さぬ辺境の荒野に、膨大な魔力とそれの生み出す巨大な歪みとともに、異界からの門が開き、辺境に接するリドア王国の西の端の都市リコイに、異界の軍勢が迫っていた。


 王国騎士団と王国魔法師団に総動員令がかかるのと同時に、冒険者ギルドとそのリドア王国本部を通じて、魔術であれ武術であれ戦闘可能なスキルを有する一定以上のレベルの全冒険者に、国家への貢献・参戦の要請令が走った。あくまで志願制の前提建前だが、事実上の強制徴用ただ働きである。

 求められているのは、いつものようにお気楽で自由な戦闘単位バトルユニットではなく、義勇軍ヴォランタリーとして組織化された戦力と指揮系統だ。


 冒険者ギルドのリドア王国本部総長ギルドマスターであるレナードは、苦肉の策として、地方ギルド単位での義勇軍の部隊編成に踏み切り、王国騎士団と王国魔法師団に、命令系統の一本化知恵と責任は国家負担部隊編成及び維持の費用負担ついでに財布も国家持ちを要請した。

 高レベルの冒険者達は、変則的なものとは言え軍の戦闘部隊に編成され、騎士団・魔法師団と足並みを揃え、中~低レベルの冒険者は、まとめて都市防衛のため、残留する守備隊と一緒にそのまま配置される。

 刻々と変わる状況の中では、精一杯の配置・配慮だと思われた。



 異界・魔界の軍勢は、相応する高レベル魔族の戦士・魔法師が将となり、低~中級とは言え、いくつもの魔物の群れが率いられている。

 率いられた魔物の種類が、亜人兵士の軍団ヒューマノイド・アーミーであったり、特殊な戦闘能力を備えた魔物の一群モンスター・フォース、所謂、飛竜空軍ワイヴァーン・エアフォース竜騎兵隊ドラゴン・ライダーズ等、能力や担当分野が多岐に渡ることで、むしろ統一された戦線をなしていないことが、人類側にとって救いと言うか、付け入る隙と言えた。



 逆に言えば、人類・冒険者ギルド側が編成する義勇軍ヴォランタリーは、少しでも志願した兵員達ヴォランティアの戦力を底上げし、集団として騎士団や魔法師団と戦列を組める肩を並べる状態にならねば、そもそも勝負にもならない。


 王国魔法師団は、義勇兵達ヴォランティア全員を強化するには、支援魔術の使い手が足りていなかったし、王国騎士団は、個人や小単位の隊の戦技・戦術を訓練し指導をする知識・経験・技術ノウハウが足りていなかった。元より、規律に従って編成された部隊と違い、個々の能力の高さを基礎としてそれを生かす方向に特化したチームでは、目的意識も達成目標も異なる。



 そんな中、リコイの冒険者ギルド、リコイ義勇軍ヴォランタリーに差し向けられたのは、一人の魔法師、カチャトーリ・ディオグランデオスコーリタとその弟子達数名だった。




 数年前、当時は刀剣鍛冶師ソードスミスだったカチャトーリ・ディオグランデオスコーリタに、魔法の才能が見つかったのも偶然なら、元職に関連したような、彼が自虐的にショボいと口にするオリジナル魔法、鉱石から金属を熔かし出し、或いは壊れた武器防具を素材として熔かし、魔力で形成した鋳型に流し込んで段平ブロードソードの形にする『段平鋳造ブロードソード・キャスト』を身に付けたのも、同時に得られた魔法や魔法関連スキルが、攻撃系や攻撃強化系が得られず、魔力操作系ばかりだったのも、単なる偶然でしかなかったとも言えるだろう。


 カチャトーリは、自分のその「ショボい」魔法を、いくらかでも実用的にしようと、関連スキルを開発援用した。


 魔力不足を解消するため、無駄になりそうな術式の魔力を強制的に『魔力回収パワー・コレクト』し、雲散霧消しようとする魔力を自らの周りに『魔力集積パワー・アキュムレート』し、自分の限界を越えてもなお『魔力回復パワー・リカバリー』する術式とスキルを編み出し、それらを統合した『魔力再生パワー・リサイクル』によって、個人の魔法師としての限界を越える作業を、質・量・時間ともに展開可能とした。

 

 カチャトーリは、自らの鍛冶師の経験と知識を、魔法師として得られた魔法やスキルに併せて用い、より細かな、或いはより大胆な魔法術式の操作を行い、『段平鋳造ブロードソード・キャスト』の魔法を『段平鍛造ブロードソード・フォージ』にランクアップさせた。

 中途の過程に、『段平鋳造ブロードソード・キャスト』の鋳型に魔力による加圧と金属の高密度化を加え、異世界人の助言を受けて、いくつかの術式を足した。つまり、鍛造するように、鉱石から、或いは屑鉄の山から金属を熔かし出し、鎚で叩くように不純物を除去し、密度と強度を上げる。

 むしろ、弟子達を含めた鍛冶師や鍛冶師見習い達が、通常の鍛造を行えるなら、金属の形を整え、準備をしてやるだけでよい。

 『段平鍛造ブロードソード・フォージ』であれば、さらに自らの魔力の鎚で追加の術式を加えた。弟子達が、望む術式を段平に刻み込むことができるよう、強靭化・鋭利化の強化の術式に追加して、刃に魔力を載せる魔刃化、四大・五行・陰陽の属性を刀剣に纏わせる術式を引き出せるよう、予め本体に埋め込んだ。


 カチャトーリの『段平鋳造ブロードソード・キャスト』の術式は、空中に魔力の鋳型をいくつも同時に作り、カチャトーリの弟子達を含む三十人余りの鍛冶師とその見習い達が待機する鍛冶場へ、それを投射キャストした。


 弟子達をはじめとする鍛冶師達は、自らに割り当てられた炉と金床と自らの鎚で、カチャトーリの術式によって届いた、魔力で精錬され、見えない術式が埋め込まれ、刀剣の形となった金属塊を、一本、また一本と、それぞれの技量に応じた魔剣へと仕上げて行く。


 一本打ち上がる毎に、金属塊は、様々な顔をした魔剣・魔刀となり、或いは魔槍・魔斧・魔杖となり、彼ら鍛冶師の顔は、一端いっぱし魔剣鍛冶師ソードスミスの顔に近づいて行った。


 そうして、カチャトーリは、世界で唯一人の段平鋳造師ブロードソード・キャスターになった。


 僅か三十数人の鍛冶師が二日足らずの間に、打ち上げた段平ブロードソード、百振余り。


 リコイ義勇軍ヴォランタリーの最初の百人隊ケントゥリアは、即製のチームだが本物の魔剣を人数分揃えた、最初の魔剣士隊マジックブレーダーとして、出撃した。

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