泣く者は一人だけ
椿野れみ
最愛の貴方へ
ねぇ、貴方。
貴方は、私が望んだ事に「駄目」って言った事が一度もないわよね。
あれが欲しい、これが食べたい、あそこに行きたい、こうしたい。
そんな私のわがままを、貴方は嫌な顔せずに「良いよ」って。自分の希望を出す事もしないで、私の望みばかりを優先してくれたわよね。
それだけじゃないわ。貴方は、私の全てを肯定してくれたわよね。
私の容姿は色々とコンプレックスがあって、コンプレックスの塊かって言う位だったのに。貴方は「そんな事ない」って否定してくれた。寧ろ「可愛い」とか「素敵」とか、私の悲観以上にプラスの事ばかりを言ってくれたわよね。
そのおかげで、私ね、コンプレックスに思う所が一つも無くなったのよ。
外見の話だけじゃないわ。私の性格、私の歩んできた人生だって、貴方は包み込んでくれたわよね。
友達が居ない事を伝えた時だって「こう言うのは、駄目だって思うんだけどさ。寧ろ、僕が君を独り占め出来て嬉しいって思っちゃったよ」って言ってくれて。
両親を早くに亡くして居ない事を伝えた時だって「君は本当に頑張って生きてきたんだね。打ち明けてくれてありがとう。これからはご両親の分まで僕が幸せを注ぐよ」って言ってくれて。
子供が出来ないってなった時だって「君に全力で幸せを注ぎなさい、二人で時間を大切に紡ぎなさいって言う神様からのプレゼントじゃないか」って言ってくれたわよね。
どんな事を伝えても、貴方は私を優しく包んでくれる。
貴方に何度救われた事か、貴方の温かい愛に何度喜びを抱いた事か。
嗚呼、私は本当に幸せ者だって思うわ。
でも……でもね、今は違うの。
今は、貴方のその優しさが残酷に感じる。
ごめんなさい、とても酷い事を言っていると分かっているわ。贅沢だと言う事も分かっているのよ。
でも、こうなってしまうと、貴方の優しさがとても痛いの。
私はもう嫌なのよ。この痛みに耐える事も、貴方の愛を利用して貴方を縛り付ける事も、貴方に辛い思いばかりをさせる事も……本当に、嫌なのよ。
えぇ、そうよね。「そんな事ない」って、貴方は言うわよね。
でも、私はそう思っているのよ。
私の想いは変わらない。勿論、貴方の思いも変わらない。
絶対に平行線になる、そう分かっていたからこうするって決めたのよ。
私達は長く一緒に居たわ。いいえ、居すぎた位なのよ。
もういい加減貴方は私から離れるべきで、私も貴方から離れるべきなの。
「だからってこんな事をしなくても良い」 ?
いいえ、貴方。こうすべきなの。私がこうするのが、私達の最善なのよ。
私一人が楽になれるからじゃないわ。貴方も楽になれるのよ。
だって、私なんかに縛り付けられる事が、もうなくなるんですもの。ようやく自由になれるのよ?
だからお互いの為に、こうするの。
……分かってくれなくても良いのよ。
分かってくれなくても私は責めないし、貴方はそう言い続けると思ったわ。
でも、だからこそ私は、こんな直前で打ち明けたのよ。
もう決まっている事なの。
あぁ、ほら言ったそばから。お迎えが来たわ。
貴方。最後の最後まで、本当にわがままでごめんなさい。
私なんかに、温かい愛を注いでくれてありがとう。私なんかを優しさで包み込んで、色々なものから護ってくれてありがとう。
心から愛しているわ。
さようなら、最愛の貴方。
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