杉並メルヘントリップス

 瞼の裏側に浮かんだ

 逆しまの曼荼羅

 ひとつだけ

 幾何学の配列を無視している

 堂々と浮かんでいる模様

 その違和感

 知らない

 誰かが

 すぐ隣に座っている

 定食屋の

 不快感

 部屋まで

 あの阿佐ヶ谷の

 部屋まで

 ちゃんと

 無事に帰れるのかという

 絶望感


 Uberのバイクを顔面から受け止めて

 曲がった鼻柱が指し示す方角に走る

 吹き出した血は北北西


 喉が乾くとか

 目が赤くなるとかではない

 そんな通過儀礼など当に通り越して

 あの頃

 あの頃……

 捜していた

 ただ捜していた


 「……」

 これらの三点リーダーの間に

 多次元の宇宙があると信じていた

 その空白を彩るのは

 君の荘厳な意志と

 静謐な室内音楽


 オッペンハイマーが

 富士そばで

 朝蕎麦を啜っている間に

 脳髄にABBAAB→→←んのコマンドを入力して

 隣のオヤジの陰茎をもぎ取って爆散する朝焼け

 そんな時に限って

 天使は微笑んでくれない


 今夜

 Uberのバイクを顔面に刺青出来るか?

 君は?


 帰りたい

 帰りたい故郷

 帰りたい

 帰りたい我が家


 大量の

 中古セカンド・ハンデッド

 割引ディスカウンテッド

 粗悪ブルシット

 思い出の品々メモリー・スタッフ


 メルヘンの通り道に仕掛けた火薬

 猥褻な空想の陳列罪

 夕方五時のチャイム

 もう夏が終わる

 眠たくてたまらない

 眠たくてたまらない

 眠たくてたまらない

 眠たくてたまらない


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