時空を超える百科事典少女

藍春希

第1話 百科事典がタイムマシンになった日

私は松本晴香、高校二年生。図書館で百科事典を借りた私は、友達と映画を観る予定だったが、その前に学校の課題に必要な古い歴史の資料を探さなければならなかった。インターネットでは見つからないような本が欲しかったので、一番分厚い百科事典を手に取った。重くて持ち運びにくかったが、なんとか借りることができた。


急いで図書館を出て自転車に飛び乗った。時計を見ると、もうすぐ友達との待ち合わせ時間だった。遅れると怒られるかもしれないと思い、ペダルを漕いだ。信号は青だった。渡ろうとした瞬間、突然赤に変わった。ブレーキをかけたが、間に合わなかった。私は信号柱に激突した。痛みと衝撃が走り、そして、意識が遠のいた。


気がつくと、私は見知らぬ場所にいた。周りには、茶色や灰色の木造の家や土塀が並んでいた。着物や袴を着た人々がにぎやかに歩き、馬や牛が引く荷車が行き交っていた。空には、黒い鳶が旋回して飛んでいた。どこかで、ゆっくりと鐘の音が響いていた。私は、信号柱にぶつかった衝撃で夢でも見ているのだろうと思ったが、それは違った。私は、本当に、別の時代に飛ばされてしまったのだ。


私はパニックになった。どうしてこんなことになったのだろう。私は、どうやって元の時代に戻れるのだろう。私は、この時代でどうやって生きていけばいいのだろう。私は、涙がこぼれそうになったが、我慢した。


でも、私はすぐに気を取り直した。泣いていても仕方がない。この時代で生きるためには、知識が必要だ。私は、百科事典を開いた。そこには、江戸時代の歴史や文化、風俗や習慣などが詳しく書かれていた。一生懸命にそれらを読んだ私は、少しずつ自分の置かれた状況を理解し始めた。


百科事典が教えてくれたことは、私にとって貴重な知識だった。私は、その知識を頼りに、自分の外見や言葉遣いを変えた。現代人の特徴を隠しながら、この時代の人々と触れ合うようになった。彼らとの出会いを通じて、私は様々な人間関係や生き様を知った。私の人生は、大きく変わっていった。


ある日、私は町で武士と町人の対立に巻き込まれた。武士は、町人に対して横暴な態度をとっていた。百科事典で得た知識を頼りに、武士に向かって怒鳴った。


「やめてください、その暴力は!」


武士は私をにらみつけ、周りの人々も静まり返った。武士が私に近づいてきたとき、私は緊張しながらも、知識を武器にしようと決意した。


「私は松本晴香と申します。この横暴な振る舞いは許せません。江戸時代に生きる者として、正義と誠実さが重要であるべきだと思います。」


武士は私を見つめ、興味津々の表情を浮かべた。そのとき、武士の顔を見て驚いた。それは私の学校での先生であった。


「先生、どうしてこのようなことをなさるのですか?」私は問いかけた。


先生はしばらく黙っていたが、やがて深いため息をついて口を開いた。


「晴香さん、私は武士としての役割を果たしているが、その中で葛藤しているんだ。この時代の体制や慣習に疑問を感じていることがある。でも、武士としての責務もあって、なかなか抜け出せないんだ。」


先生の言葉に、私は驚きと同時に先生の内面の複雑な心情を感じた。控えめながらも真剣な表情で応えた。


「でも、それって…おかしいんじゃないですか? 私が知っている歴史では、武士は正義や誠実さを大切にし、人々を守る存在だと思っていました。」


先生は微笑みながら頷いた。


「それは確かにそうだ。しかし、時代が変われば価値観も変わる。私たち武士も例外ではない。ただし、私は自分の信念に忠実でありたい。」


先生の言葉に、私は敬意と共感を抱いた。私たちは、異なる時代の日本を知る者同士だが、何か共通するものを感じた。私は、先生ともっと話したいと思った。

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