僕らの終末日記~ゆめにっき~

猫のゆき

終焉、そして目覚め。

始まりは1枚のディスクだった。


特徴の無いくすんだ白いおもて面に対して裏面は光の当て方によって様々な色を反射している。

中心に穴の空いた円形、厚さは爪と変わらないぐらいだろうか。

初めて見る形状、用途もよく分からない。

だが、目の前にある巨大な装置と共に使用するであろう事はなんとなく予想がついた。

いつの時代のものなのかも、いまだに使えるのかも不明だ。

そこで、1番目立つところにあるボタンを1つ押してみる。

キュイーンと甲高い音を立てながらも、どうやら装置は作動したようだった。そして、押したボタンのそばにある横長の薄い棚のようなものが手前にせり出してくる。

そこにはちょうど手元の円盤が収まるような窪みがある。

おそるおそる円盤をそこへ嵌め込む。

するとせり出していたそれは何事もなかったかのようにスーッと元に戻っていく。

ザザッと少しのノイズの後、装置上部に映像が流れ始めた。


「……はじめまして。おはよう。いい夢は見れたかな?……」

映像は一面に広がる平原、空は紅く、無数の白い光が地面へと降り注いでいる。

「これを見ているということはきっと我々人間の時代は終わってしまったことでしょう……」

そんな光景が広がっているにも関わらず落ち着いた男性の声がゆっくりと話を続ける。

「我々は敗北した。何に…?と言われると難しいが…、世界に、だろうか。」

映像は紅い空を映すように上を向く。

「私の知る空は蒼かった。太陽は赤かった。」

映像の中心には黒に輝く光が佇んでいる。

「今この目に映る何もかもが出鱈目で夢でも見ている気分だ」

しばらくの沈黙の後、視線を下げるように映像は再び光の降り注ぐ平原を映す。

「もしこの映像を見ているのならどうか…」

再びの沈黙。

「どうか、我々を忘れないで欲しい」

その言葉と共に映像は終了し装置は円盤を手元に差し出した。


「これがこのギルドの起源の物語です」

そういって受付の女性は手元の本を閉じ後ろにある装置を指差す。

「そしてこの装置が人間の時代を映す遺物アーティファクトになります。世界中から集められたアカシアの年輪の映像をここで見ることが出来ます」

女性は今度は気の遠くなるほどに高い天井を見上げて話し始める。

「この建物はアカシアという大樹をそのまま加工したものであり、今もなお成長を続けています。そこから名前を取ってディスクは『アカシアの年輪』と呼ばれています。そしてこのギルドの名前も」

「アカシックレコード…」

つい口から言葉が溢れた。女性はこちらへ向き直り説明を続ける。

「そう、かつて人間の時代に全ての記錄が集められる場所と呼ばれていたものから取って『アカシアの記錄庫アカシックレコード』と名付けられました。このギルドの目的は世界中のアカシアの年輪の収集、そして真に記錄庫レコードを完成させることです。どうでしょう、何か質問はありますか?」

「いえ、大丈夫です」

事前にある程度のことは調べて知っていたので特に聞くことも無さそうだ。

「そうですか、それでは改めまして」


「ようこそアカシアの記錄庫アカシックレコードへ」

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