第2話 え? 魔法少女? やんなきゃダメ?

 私が困惑していると、彼女は更に話を続けた。


「私の存在は認識阻害魔法で普通の人には見えないし、見えてもすぐに記憶から消えるの。そうならないのは魔法少女の素質がある人だけ」

「はぁ……」

「と言う訳で仲間になって!」

「ええーっ! 嫌です」


 いきなりのスカウトに面食らった私は、すぐに拒否の意思表示をした。何で仲間に誘ってきたのか意味が分からなかった。

 一方、魔法少女は私が断ったのがよっぽど意外だったのか、無茶苦茶目を大きくして口もあんぐりと大きく開けていた。そのリアクションに私の方がドン引きだよ。


 そうして、しばらく沈黙の時間が流れ――。どうやら話は終わったようなので帰ろうとしたら、彼女が強い声で私を呼び止めた。


「秘密を知ったあなたは敵に狙われてしまうの。危険な目に遭ってしまうんだよ」

「じゃあ守ってください」

「敵も襲ってくるのに守りきれる訳ないでしょ。今ここで記憶を消してあげてもいいのよ?」

「じゃあそれでお願いします」


 私は魔法少女に向かってペコリと頭を下げる。多分そんなにうまく話は進まないんだろうけど、自分の意志を伝える事は大事だ。これで私はちょっとだけ優位に立った気がする。後は……出たとこ勝負だね。鬼が出るか蛇が出るか――。

 私が頭を上げると、目の前の彼女は顎に手を当てて考え事をしている。やっぱりそうだ、素直に帰す気はないんだな。目線を下げると、ミルミと呼ばれていた猫も渋い顔をしている。うーん、次はなんて言って私を引き止める気なんだろう。


 少しの沈黙の後、魔法少女は顔を上げて瞳をキラキラと輝かせる。何かいい作戦を思いついたっぽい。その自信満々な様子にちょっと引く。

 彼女は顎に人差し指を当てて、顔をそらしながら目線だけを私に向けた。


「でもなー。間違って他の記憶も消しちゃうかもなー」

「えぇ……」

「魔法少女になってくれたら、記憶も消さずに済むんだけどなー」


 そう言い放つ魔法少女の顔はいやらしい笑みを浮かべていた。確かにどこまでの記憶を消すのかは彼女のさじ加減ひとつだ。ある意味、私の記憶を人質に取られていると言っていい。家族の記憶や友達との記憶が消されてもヤバいし、今まで勉強してきた授業の記憶とかも消されたらテストがやばいよ。

 こう言われてしまっては、私にこの状況からのがれる選択肢は選べない。魔法少女、なんて卑怯な手を……。仲間が欲しいからってここまでする?

 視線を外すと、お供の猫が大きくため気を吐き出していた。お前も苦労しているんだな。


 覚悟を決めた私は、この先で待っている運命の難易度を図る事にした。


「魔法少女って、危なくない?」

「全然? いつも楽勝だけど?」

「私に出来るかな?」

「出来る出来る。このあたしにだって出来るんだよ。全然大丈夫だから。ね? 一緒に街を守ろ?」


 ここまで言われたら、ちょっといいかなとも思ってしまう。魔法少女は満面の笑みで手を差し出してきた。これ、握ったら契約完了的な流れかしら? とは言え、大事な記憶を消されてしまう訳にはいかない。

 私はバトルが楽勝だと言うその言葉を信じ、伸ばしてきた手を握った。


「よ、よろしく……お願いします。先輩」

「よし、これであなたは今日から仲間ね!」


 魔法少女は目をキラキラと輝かせてブンブンと手を派手に揺らす。ちょ、痛いんですけど? 私が表情を歪ませると、すぐに手を離してくれた。謝ってはくれなかったけど。ちょっと失礼じゃない?

 手を離した勢いで彼女はクルンとその場で一回転。そこで変身が解けて私と同じ学校の制服に身を包んだ姿が現れる。えっ、もしかして同じ学校の生徒だったの?


「じゃあ自己紹介しよっか、あたしは熊野まるむ。あなたは?」

「村上ミカです。先輩、よろしくお願いします。て言うか、その制服……」

「そう、ミカと一緒よ。あたし、2ーA」

「え? 同級生? 私は2-C」


 どうやら私とまるむは同級生だったらしい。隣同士のクラスなら合同で体育とかするから馴染みもあっただろうけど、もうひとつ離れていたから知らなかった。彼女って目立つ生徒でもないみたいだし。あ、そこは私も一緒か。

 同じ学校に通っている事が分かった時点で、私達はすぐに打ち解けあった。先生の話とかで盛り上がったり。気がつけば、私達はすっかり仲良くなっていた。


「そうだ。ミカに変身カード渡さなくちゃだね」

「カードで変身すんの?」

「そうそう、そこら辺の説明はミルミがしてくれるよ」


 まるむはそう言うと、お供の白猫に視線を移す。私もつられて同じようにすると、いつの間にか猫の頭の上にカードが空中に浮かんでいた。浮かんだカードはそのまま私の目の前まで移動する。手に取ると、浮いていた力はすっと消えた。

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