第5話


 『元気ですか?皆で一緒にバンドやってますか?ひょっとして、プロになってたりする?それは流石に無いか。そもそもバンドやってるかも分からない。でも、そうじゃなかったとしても皆で仲良く、楽しくやってるよね?それだけは変わってないと信じてるよ』



 「はは……」



 もう、悲しいとか虚しいとか、そんな事も通り越して、ただ、笑えて来た。

 僕は抱えていた封筒を落とす。



 不思議そうな顔で僕を見る松木。

 僕も松木を見て、泣きながら笑った。


 松木に新田の手紙を開いた状態で渡そうと、手を伸ばした。

 松木は怪訝な表情で、それを受け取る。


 「何で僕は、生きてるんだろうな?」


 頭で考える事無く、心から出てきた言葉だった気がする。


 新田の手紙を読んだ松木は、その場に膝を着いた。


 松木は涙を流す。


 傍から見たらさぞ不気味な光景だろう。

 おっさん二人が山中で、一人は膝を着いて泣き崩れ、一人は薄笑いを浮かべ泣いている。

 不気味としか表現しようが無い。

 そして、不細工だ。


 そう、僕の人生は不細工だ。

 多くの人がそうなのかもしれないけれど、それから目を背けたり、立ち向かいながら生きている。


 友人の死が絡んだ事で、少しでも美化し、特別なものにしようとしていた自分に落胆したのも確かだ。


 結局の所、夢を諦め、目標を失い、何となくうだつの上がらない毎日を、ただ生きている。

 それが僕の現状。


 何をする気も無く、何か起こせる気もしない。

 そこを理解しながら、納得できずに……でも、生きている。

 生きていれば……なんて言葉は大嫌いだ。

 楽しい事なんてそんなに無い、殆ど無いと言っていい。

 それどころか辛い事の方が圧倒的に多い。

 僕は、まだ現実に何か期待しているのだろうか?

 新田は現実に絶望したから死んだのか?

 それは、僕等に絶望したって事なのか?


 恨めしさからでも、何でもいい。

 時期を考えて出てきてくれ。

 僕は呪い殺されてもいい。

 徹底的に討論してやるさ……何を考えて自殺なんて選んだのかを。


 そんな事すらも起きてくれない現実を、理解しているからこその考えなのかも知れないが、僕は教えて欲しかった。


 死ってどんな事なのか?そして、生きてるってどんな事なのかを……。


 既に自分の考えている事すら纏まらない。

 混乱している。

 分かっているのは、十五年前の新田が望んでいたのは、皆で笑い合えるそんな未来だったという事だけだ。


 壊した張本人がそんな事望むなよっ!!という怒りが込み上げてきていた。

 新田を苦しめていたものの正体は”現実”なのか?それとも僕等なのか……?

 僕には何も分からない、そう分からないんだ……。


 もし僕等なら、殴ってくれ、全力で。

 心を込めて殴り返すから……。

 死を選んだ事への怒りを込めて。

 僕は放心状態で立ち尽くしていたのだが、思わず……本当に思わず、口に出してしまった。


 「……僕を、殴ってくれ」

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