超短編練習
トリスバリーヌオ
第1話 超短編集
・痩せた男だ。漫画で見たことがある。肋骨の浮き出た血色の悪い肌と、獣の牙みたいに飛び出た犬歯、暴行されたあとのように乱れた服。ただ漫画とは明らかに違う点がある。それはバンパイアと人間の差なんてものではなく、とても単純だ。彼は美しくない。
・道端でばったりと遭遇した猫のように慌てて、彼は扉から出ていった。
時計の秒針が一周すると先程とは真逆で、ゆっくりと笑いながら戻ってきた。
・恥ずかしげな顔をしながら廊下に立っているトカゲのような老人は、教卓での説教が終わったのを見て、微笑みながら教室の中へ入ってきた。
・だらしない教師は教卓の後ろでブツブツと緑の壁に話しかけていた。
誰もついてこないのは私達が原因でもあるが、彼のボケた老人のような行動がそうさせているのかもしれない。
・米粒より小さな点が自転車道に障害物でも作るかのように立ちふさがっていた。
・改行されたその文章の中には一郎、二浪、三郎と書かれており、私の未来を言い当てていた。
・解答欄にあるたくさんの縁取りされた四角が私に「お前は馬鹿だからわからないだろ?」と言ってくる。
・鏡から見える裸の横腹は洗濯板のように細く、骨が浮き出ていた。
初めて人間の絵を描いた時にこんな体ができてしまったと思い出した。
それでも少しの望みを込めて煽情的なポーズを取るが、何かが踊り狂っているようにしか見えなかった。
・赤いうさぎの被り物は、ふかふかとした足で草をすり潰しながら、まつ毛と布がぶつかりそうなくらいまで近づいてきた。
・青色のポッカリと口を開けたカバンは、持ち主の性格を表しているようだった。
・月曜日を火曜日の日程で進める事を示している文字の下に、かすれた黒いなにかがあった。
目を細めて見れば「深」にも見えるし「果」にも見える。
手を上げて「それは何!」と声を上げれば「か!」と帰ってきた。
・自分の尻尾をぎゅっと握り「にゃふ!」という間の抜けた声を出した。
会議中のうざったい暗い雰囲気をどうにか変えようとしたが、焦げた肉は戻らない。
・配布されたタブレットで漫画を読んでいる男がいた。
あくまで授業を聞いているように取り繕っているが、チロチロと蛇のように目が忙しなく動いていた。
・ペンを握るとグリップに触れている中指の第一関節が「痛い!」と叫んだ。
グリップにティッシュを巻いて優しく握ってみたが「痛いよ!」とまた叫んだ。
・斜め右前に置かれている二人の黒板消しは、片方がボロボロになっていて、もう片方がある程度はきれいに保たれていた。
まるで男と女だ。
・未完成なみかんが食道を通っていきました。
味はあまり良いとは言えないものでしたが、それでも喉を通るあの感覚は、なんとも言えません。
それでも未完成なみかんは未完なので、正道というわけではなく、民間療法的立ち位置といえるのです。
・おにぎりの色がすこし緑色だったことを思い出します。
服の隙間から見えるぷっくり膨れたオヘソの下、ズキズキと痺れて、突っついてみたら、ずちゃっ、ぶじゅって、変な音がしました。
時計の短針がひとつすすんだところで、オヘソの割れ目から黄色いヌメヌメがたれて、下着を汚しました。お母さんにごめんなさいしないといけません。
・髪の毛をかき上げたのです。
茶色のざらざらの質感でした。
当然といえば白ですが、それでも妙にざらざらしていました。
サラダのバジルのザラザラではなく、筆の先のざらざらでした。
・お辞儀をするとぺろっと服の隙間に肌色が移りました。
といっても黒い肌でしたが。
・ドからシまでの低い音が一斉に踊り始めます。
・頭から肋骨が浮き出た男は、その角を腹にこすりつけて、鼻をカクンと鳴らした。
茶色の肌に突き刺さりそうなくらい充血した肉のマメに、べろをじろじろとこすりつけているのを知って、じりゅと汁が出たのを見て、のこぎりのような歯をつきたてた。
・裸足だ。裸足だ。雑炊の中に妖精が転がっていた。
どろどろの米を口に含んで、頭に小さなタオルを載せている。
箸でつっつく。
霧たったフカフカのベットにいると勘違いしているみたい。どろどろに湿った羽をパタパタ動かしていたし。ちっちゃなぐずぐずのキャベツを布団のようにつかんでいたから。
・歯車の間に挟まった黄色のヘルメットを憎らしげに眺めていた。
蒸気機関がぎしぎしとヘルメットを潰しているんだ。
・体をくねくねと動かして、脇のくぼみをぺこぺこさせています。
リラックスとデトックスがマッチして、クールにミートするのですからです。当然です。
・ポケットの中の小人は嗚咽を漏らしていました。
サラダ味のジュースを口からポロリしてますし、10個の穴からジュースをこぼしていますし、ポケットが野菜臭くてたまったものじゃありませんし、あれだけポケットの薬を食べるなと注意しましたし、バツとして宙返りをするのは楽しくて嬉しいです。
・川底に50円硬貨が積もっています。
釣り竿で釣り上げました(昭和の香りがするとは驚きですが)。
・尿をかけられていた。
耳をつたいぽろぽろ落ちるそれは、黄色い、甘い匂いがした。
・足の付根を舐めるように愛撫し、にっこりと見上げた。
恥じらっている顔は愛おしい。
・ずりずりとたれてくる帽子のつばが、肩から膝までずり落ちていった。
・ロビーラウンジで土をすりつぶしている女が居た。野球の帽子から飛び出るまんまるの目玉は金魚みたいにころころ忙しなく動いている。どこか人間味のない骨格を眺めて、変に笑った。
・バケツの底には海が広がっていた。とても青くて人っ子一人いない静かな場所だった。頭が抜けたらもっといいのだが。
・湿気たパンのカビをちぎって犬に入れていた。美味しそうに食べる姿は彼女の鼻がひしゃげているから。残った部分を口に入れた。不味かった。
・ロンドン塔の中層で男と女が見つかった。重ねるように手を繋いで居た彼女らは不思議と笑っていたらしい。
・小瓶の中に種がある。母もそれを知っているし、父も知っている。ただいつ目が出るのかは誰も知らなかった。電球の光にほそぼそと当てられるそれは、玉虫色に光っていた。
・くるくるとヘソの周りをペンでなぞる。ソフトタッチで繰り返すそれに耐えかねて女は叫ぶように飛びあがった。
・腹にできた谷間に、手を差し入れた「ぶびゅ」と音を立てて入っていった。
ダイエットをしなければならない。
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