養蝕

祐川 千

あらすじ ※ネタバレ含※

賞応募のため、以下にストーリー結末のネタバレを含む全体のあらすじを載せております。閲覧の際は、その旨をご了承ください。






振津ナツメ、園藤義理の視点を交互に交えながら、山間地域の神秘に触れる物語。


中学生の振津ナツメは父親の明士の転勤により、母親の間知、弟の檜とともに、東京からX県の我気逢町へ引っ越した。新しい環境に不安を感じていたものの、転校先の学校の級友の素朴な優しさに触れ、環境を受け入れていく。


一方、フリーターの園藤義理は、同じ居酒屋に勤める先輩の紹介で、我気逢町にあるヨシヨシ生体工業株式会社工場内に設けられた保育所の清掃アルバイトを引き受けた。人と会うこともなく汚れも少ない、割のいい仕事だった。


ナツメや檜が町の生活に満足する傍らで、母は身辺の異常を訴え、ヒステリックになっていく。母に詰め寄られた父は家を出て行ってしまい、ナツメと檜は母親の顔色を窺いながら暮らす。だが、同級生の母親の勝手な働きかけから、我気逢町の夏祭り兼中学二年生の立志式を兼ねる行事「式」をきっかけに母子は衝突してしまい、母が家を飛び出す。ナツメは後を追い、公園の池で溺死している母を見つけ、逃げ帰る。しかし、戻った家には、何食わぬ顔で家事をする母がいた。


園藤は保育所の子どもたちの落書きに、子どもとは思えない不審な点を見つける。ちょうどそこへ訪ねてきた友人の老柳青二より、工場のある我気逢町にドッペルゲンガーが出るという噂を聞く。


ナツメは、復学したばかりの級友良々木朱姫葛から、町で噂される水を介して入れ替わる異形の存在を知る。また、これまで仲良くしていた他の級友たちが母の死を祝福したこと、友人としての協調性を強要されたことから、友人たちに不信を抱きはじめる。

乱暴な同級生の鉈打にいたぶられていた檜から小学校の荒れっぷりを聞いたナツメは、我気逢町の中学生以上の人間は人でない何かに入れ替わられており、得体の知れない信仰を抱いているという仮説を立てる。


園藤は保育所の落書きを見て、自分が人知を超えた何者かに監視されていると感じる。アルバイトを紹介した先輩から詳しいことを聞こうとするも、居酒屋の店長から先輩が不審死を遂げたこと、あの町が忌み地であることを聞く。

園藤は翌日に清掃バイトを辞めるが、その後、自分につきまとう影の存在に悩まされるようになる。

ある夜、店長と話をしていた時、自分の飲もうとした湯呑みの水面に、自分の背後にたたずむ人間の影が映っていることに気づき、失神する。困った店長がちょうど連絡してきた老柳を呼び、老柳は園藤からこれまでのことを聞き出すと、園藤の車に人毛でできた人形が入れられているのを見つけ出す。


ナツメは檜と我気逢町を出ようとするが、何度出ようとしても町から出るはずの道が家の近くへ繋がってしまう。自分たちの家を乗っ取ろうとするクラスメイトから逃れ、町を出るため、朱姫葛と手を組む。その日の放課後、脱出の方法を知っているらしい朱姫葛を家へ連れて行き、家が地下水路に繋がっており、知らないうちに人毛の人形(女神)を祀る社を隠し空間に作られて呪いをかけられていたことを教えられる。朱姫葛は、人間と入れ替わる生物が「隣人」と呼ばれていること、良々木一族の先祖が山の奥にいた隣人と契約を交わしたこと、外から人間を引きこんで殺し、隣人と入れ替わらせてきたこと、この町の式は十四歳の隣人が十二歳の人間を隣人にする儀式なのだということを語り、ナツメたちに、脱出を手伝う代わりに自分を隣人の棲み家へ連れていってほしいという。

ナツメは檜とともに朱姫葛の家に仮住まいし、隣人の棲み家へ行って無事帰ってくるための支度をする。


園藤は老柳と仕込まれた人形の正体を探る。やっと何かを知っているらしい神社にたどり着くも、人形をヨシヨシ生体工業周辺の水場に流すよう言われ、追い返されてしまう。


式の日、ナツメは檜を残し、朱姫葛と共に隣人の棲み家を目指す。その道で朱姫葛の口から、彼女の複雑な出生と生い立ちを聞く。棲み家へたどり着いたナツメは隣人に会う。隣人は太古の魔性の生物だった。隣人がナツメにここから逃すことの対価を要求すると、朱姫葛は自分が隣人をこの土地に縛った者の血を引くことを明かし、対価として自分の存在を差し出して、ナツメを逃す。

その頃、女神を還しに来て洗礼を受けさせられそうになった園藤は、鉈打に拉致されそうになっている檜を発見する。そこへ駆けつけたナツメが約束違反をなじると、ナツメの級友たちが鉈打を捕獲し、ナツメに出口を教えて去る。ナツメが昏倒してしまい、園藤たちは姉弟を連れて逃げる。


脱出以来、ナツメは話せなくなり、歩けない時期が続いた。四年経った梅雨の時期、高校生になった檜は、姉が雨の降る景色を見つめて会話している様子に恐れを抱きつつも、姉から離れることを選べないのだった。

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