上っ面善人は箱庭学園戦記で、チート国家日本の箱庭を得て無双するようです ~世界の命運を決める学園で、もらった箱庭がチート国家日本でした~

純クロン@弱ゼロ吸血鬼2巻4月30日発売

第一章

第1話 上っ面善人


 俺は王城で社交界のパーティーに参加していた。


 これは金があることをこれみよがしに見せつけるク……素晴らしいパーティーだ。


 そこで俺は同年代の太り気味な男と話をしている。


 こいつは俺と共通点が多い。同じ十六歳な上に、しかも去年に領地をついだ貴族であることまで同じだ。


 だがひとつだけ極めて大きく違うことがある。


「おお、エンド騎士家の新しい領主か。いやはや小さい領地で大変そうだ、しかも周囲の領地から土地を狙われてると聞くがねぇ」


 男は余裕そうに軽い口調で告げてくる。


 同年代で領主になったのも同じタイミング、だが俺が同じようなノリで返すことはできない。


「本当に大変です。先日も四方の領地から攻められまして……我が身の不徳の致すところです。アルベン子爵領は平和そうで羨ましいことです」

「まったくだね。君の統治が悪いから、周囲から攻め込まれるんだろう」

「いやはや、耳が痛いです。アルベン子爵領の平和にあやかりたいものです」


 俺はアルベン子爵に対して、ニコニコと張り付いた笑みを浮かべる。


「領主が無能だから問題が起きているのだろう。笑っていられる立場かね?」

「確かにその通りですね。おっと、少々失礼します」


 言外に催してきたような雰囲気を出して、アルベン男爵の側を離れる。


 そして顔繋ぎのために他の貴族たちにも話しかけていく。ちなみに全員が格上、というか俺以下の格の家は存在しない。


 なにせ我がエンド領は国で一番、いや世界で一番狭い領地と有名なのだ。流石に世界で一番狭いとは思わないが、国で最小なのは間違いない。


「エンド家の跡継ぎか。そんなみずぼらしい服を着て……まったく我が国の貴族の品を落とさないで欲しいものだね」

「エンド家? まだ潰れてなかったのか」

「領主が代わった瞬間に揉め事を起こすとは、同じ貴族として恥ずかしいにもほどがある。王に爵位を返上しないのかね? 私なら恥の上塗りはしないがな」


 貴族たちになにを言われようとも、俺は愛想笑いを浮かべて頭を下げ続けた。


 そうしてパーティーは無事に終わり、俺は急いで帰りの馬車へと乗り込む。


 執事に命じてすぐに出発させて、馬車の中は俺一人だけになる。だがまだ気を抜くことはできない。


「旦那様。パーティーはいかがでしたか?」


 馬車の御者台に乗った執事が話しかけてくる。こいつは親父の代から俺に仕えている男で、今年で四十ほどになる。


 俺の顔は見えていないはずだが、心の声が漏れないように笑っておこう。


「素晴らしいパーティーだったよ。自分の至らなさが痛感できるからね」

「相変わらず旦那様は殊勝ですね。領民からも慕われておりますよ、善い領主様だと」


 執事は俺の上っ面の顔を褒めてきて、さらに話を続ける。


「旦那様が気に病むことはありませんよ。他領地が攻めてきたのは、前領主様が急に亡くなって混乱したタイミングを狙ってきただけです。旦那様に非があったわけではありません」

「いや俺が凄まじいカリスマや才能を見せつけておけば、他領主も警戒して攻めてこれなかっただろう。それに他の貴族たちも、騒動を見れば言いたくもなるだろう。つまり俺が悪い」

「それはいくら旦那様が優秀でも無理だとは思いますがね。ですがそういう旦那様だからこそ、領民たちも従えるというものです」


 心にもないことを口にすると、執事は俺のことを善人だと勘違いする。


 ……俺は少し性格が悪いという自覚がある。


 友人が金を儲けたと聞けば歯噛みし、立身出世したともなれば内心激怒してしまう。


 英雄が活躍した話には羨望ではなく嫉妬を抱くし、そもそも成功者の話など聞きたくもない。


 他人の幸せを素直に祝うのは無理だ。妬みすぎて呪いそうになる。


 赤の他人のことで喜んでる奴は、全員演技だと思っていたくらいだ。少し前までは。


 性格を直したいと思ったことはあるが、どうやって直すのか見当もつかない。そもそも人の性根などそうそう変わるものじゃないし……。


 なので自分が嫉妬深いクズ気味の人間なのは理解して、頑張って隠し通して生きている。


 具体的にはどんな言動をすれば他人に好まれるのか、逆にどうすれば嫌われるのかを学んで実践している。


 まず基本的に全てのことは自分に責任があると言っておく。他人に責任をなすりつけるよりも、自分が悪いと言った方がウケがいい。それがどれだけ理不尽なことだったとしてもだ。


 なので先ほどの執事との受け答えでもそう告げておいたし、言葉だけではなく行動でも自分の責任として改善するように動くつもりだ。


 だが実際にそう思えているわけではない……なぁにが俺の統治が悪いだ! クソが! 


 ならお前らが俺の代わりに統治してみろよ! 俺が継いだ時点で借金まみれな上に、周囲から攻められた時の戦費でさらにズタボロの領地をよ! 


 特にアルベン子爵、お前の金使いの荒さと失政は知ってるんだよ! それでもたまたま親から継いだ領地が豊かで、誤魔化せてるだけだろうが!


 ズルい……! 妬ましいっ……!! 恨めしいっっ……!!! 俺があいつの立場なら、もっとうまく領地を経営できる自信がある……!!!!


 そもそも俺の領地は土地がダメな上に、魔法の発動に必須な魔素も少ない。そのため魔法があまり使えず、暮らしがかなり不便だ。


 他の土地だと畑に水をやるのに魔法の道具を使うが、俺の領地では人力だからな……どうにもならない。


「旦那様? どうされましたか?」

「いや。どうすれば自分の悪いところを直して、領地の経営を改善できるか考えていた。特にアルベン男爵からはよい話を聞かせてもらってね。ははは」

「流石は旦那様です。しかしお疲れでしょうしお休みになられては?」

「そうするよ、ありがとう」


 悪く思われないためには必ず礼を言うことだ。自分に責任を見出して、他人に感謝しておけば大抵善人に見られる。


 ……俺の嫉妬や怨みの炎は凄まじく大きく、間違いなく領主になど向いてない人間だ。


 なので決して表には出さない、出してはいけない。上っ面では善人を演じ切らなければ、弱小貴族が他貴族に嫌われたら終わりだ。


 俺は親しい人物から、『人の皮を被った怨霊』とか言われたこともあるくらいだからな。気を付けないとヤバい。


「そういえば旦那様、今日は神の日でしたね」


 必死に自分に心の中で言い聞かせていると、執事がなおも話しかけてくる。


「……神の日か。何も起きないし結局大ウソだったってことだろうな」


 神の日。それはこの世界に伝わるおとぎ話だ。


 百年に一度、神によって学園が開かれる。そこでは様々な国の王や領主。あるいはその子供たちが集められるそうだ。


 ようは土地持ちの者たちが集められて、その学園で世界の命運を決める戦いが行われるという話。ただし学園なので十代しか参加できないそうだが。

 

 土地を持っていたり継ぐ予定の者たちには、その土地を縮小した箱庭が与えられる。その箱庭をやりくりして学園を生き残り、他の者の箱庭を奪っていくとか。


 その戦い次第で世界の地図が塗り替わるとかなんとか言われている。


 実際のところ、ほとんど誰も信じてはいない。大抵の人が五十歳で死ぬのに、百年前のことなど誰も知らないしな。


 おとぎ話にしては妙に具体的なルールがあるが、たぶん誰かが悪ふざけで作ったのだろう。


 あまりにもバカげた話、なのに国などはその日に向けて色々と動いていた。例えば各領主に命じて、今年に十五歳以上になるように跡継ぎを作らせたりだ。


 まるで本当に神の日が起きるかのようにだ。


 だがいくら何でもあり得ないだろ、この世界の魔法使いを全員集めてもそんな奇跡の一片も起こせない。


「ははは、そうですな。所詮はおとぎ……」


 急に執事の言葉が止まった。はて? なにかあったのだろうか?


「どうした?」


 だが執事から返事はない。思わず絶句するほどのことが起きているのだろうか。


 それに揺れが止まっている? ということは馬車を停止させたのか?


 妙だなと思いつつ窓から外の景色を眺めてみると、周囲の風景が流れて行かない。つまり馬車は停止した……?


「ん? 鳥が空に止まってる……?」


 少し遠くの空で、鳥が微動だにせずに空に浮いていた。


 翼をはばたきもせずに、まるで氷漬けにされたかのように静止している。なのに落ちてない。


 いくらなんでもこれはおかしいと、慌てて馬車から飛び出して周囲を確認する。御者台の執事は手を振り上げてこれまた止まっている。


 馬も走っている仕草の一部を絵で切り取ったかのように、前の二足を上げたまま銅像な姿勢を保持していた。


 いや馬車だけではない。近くではトンボも空に止まっているし、近くを歩いていたであろう人すら立ったまま動かない。

 

「な、なんだこれは……!?」


 まるで世界そのものが止まったかのような。


 そう思った瞬間、空から光の柱が落ちてきて……。

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