untitled

@rabbit090

第1話

 なんか、どうでもいいことを考えてしまう。

 無理をして苦痛を食んできたのは、それが必要だと思っていたからだった。

 「わたし、悪くないから。だから、明日からは何もしない、いいでしょ?」

 すねたようにそういうのは、もう成人したババアだってことに気付かない、子どものような女だった。

 失礼だけど、彼女はいつもそうやって、僕のことを利用している。

 まず、金づるとして、いい加減にしろよっていう言葉が僕には無くて、つい、うん、と言ってしまうのだった。

 「分かった、僕がやるから、寝てていいよ。」

 そう言うと、彼女は笑い、穏やかになる。

 僕は彼女の、父親だ。

 

 「ちょっといい加減にしてくださいよ、うちの子、殴ったんですよ?」

 「…はい、申し訳ありません。」 

 「それに、いつもヒステリーっていうか、そういうの、他の子の悪影響なんですよ、だから!」

 その人は、ちょっと興奮気味になりながら、僕の娘を罵り続けた。

 でも、真っ当だ。全てが真っ当なのだ。

 だから、

 「言い聞かせます。」

 「無理でしょ!」

 みんな、分かっていた。僕の娘がおかしいってことに、気付いていた。

 でもどうしようもないんだ。

 僕の娘は、僕の娘ではない。

 僕の、元妻の、娘なのだ。

 僕は、彼女のことが好きだった。だから娘のことも、受け入れていた。けど、彼女は、娘を殺していた。

 精神的に、身体的に、とことん、追い詰めていたのだ。

 そして、僕は彼女の元から、娘だけをさらい、そしてなんだかんだと揉めた挙句、結局僕の庇護下に、娘は置かれることになった。

 それはまだ、娘が小学生の頃だった。

 でも、

 「パパ、パパ。」

 泣きながら、もう成人した今になっても、僕を求めてくる娘に対して、無視、という選択肢は無かった。

 どんなにダメでも、僕にとっては、”娘”でしかなかったから。


 「お前、自分の子じゃないのに、すげえな。」

 「まあ、そうかな。」

 「そうだよ、だって俺独り身だし、すげえ楽だよ?」

 「はは。」

 「それより、仕事は?また変わったの?」

 「ああ、何か、最近やる気が起きなくてね。気を使うとか、笑うとか、難しいんだ。」

 「お前、それ、病気なんじゃないか?」

 「そうかも。」

 なんて、飲み屋ではよく昔からの友人と話をする。

 この友人は前に働いていた会社の同僚で、すでに管理職として地位を築いていた。

 かく言う僕は、そういう道を、断った。

 娘のせいではない、僕は、女性が怖くてたまらない。

 けど、会社員の時、そのことに絶望していた僕の前に、娘の母である、彼女が現れた。僕は、とにかく自立した女性が嫌いだった。だって、僕は自立なんてできていないから。

 でも、彼女は、ずっと子供のようだった。

 だから僕は、彼女のことが好きになった。

 でも、でも、それでも僕は、彼女のことでさえ、ある一定の距離から抜け出すことができなかった。

 けど、その娘は違ったのだ。

 彼女から虐げられ、必然的に僕に助けを求める小さな女の子、僕は、震えが止まった。

 「僕が父親でいいの?」

 「…選べないから。」

 子供っぽい癖に、妙にませていたその子は、それだけを口にした。 

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