kalei do scope②

「ただいま、ソフィア」


 ソフィアがその声を聞いたのは実に三年ぶりだった。


「お帰りなさいませ」


 主はやけに疲れた顔をして扉を開けると、そのまま椅子に座り込んだ。


「今回はどちらへ?」


 ソフィアは主の好きな紅茶の葉でお茶を淹れながら、世間話程度に尋ねる。


「ん? あぁ。今回はモルガナ国にあるとある田舎町にね。久々に長居してしまったよ」


 主はソフィアから受け取った紅茶を一口啜ると、深々と息を吐き出した。


「確かにそうですね」


 主は今までも家を空けることは良くあった。しかし、長くても一年ほどで、今回は今までで一番の長さだった。


「何かお気に召すことでも?」


 ソフィアは主の後ろに立つと、置物のように、じっと彼女の緋色をした髪を見つめた。


「んー? お気に召すって程じゃ無いけど、ちょっと良い出会いがあってね。金髪のくるくるした髪の、面白い少年がいたよ」


 主は愉快そうに笑うと、勢いよく紅茶を煽った。別に、主が家を空けるのは心配していなかった。一度結びを行ったことで、彼女が死ぬまでソフィアの身体が滅ぶことは無い。それが分かっている以上、自らの身体に何も無ければ主には何事も無いことは分かっていた。


「そうですか」


 ソフィアの言葉に、主は苦笑いを浮かべた。


「寂しかったかい?」


 主はくるりと振り返ると、自らの使い魔を見た。彼女の魔法で、大きなものの少女と同じくらいになったその使い魔は、表情こそは無表情だったが、何処か拗ねているような印象を受けた。


 寂しかった、のだろうか。ソフィアは主のいない生活を思い出していた。することは主が居るときとほとんど変わることは無い。庭の手入れをし、家を掃除し、料理を作る。ただ、それが自分のためか、そうでは無いかだけの違い。


 確かに、主がいない間は、家ががらんとしていたように思う。けれど、それだけだった。


 だからこそ、ソフィアには分からなかった。


「分かりません」


 ソフィアはそう正直に答えると、一礼をして自らの寝床である屋根裏へと続く階段を登っていく。主はそんな彼女を見て、年頃の娘を見るような、そんな視線を向けた。

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