賞味期限切れ高校生、世界一の大富豪になる

キングリチャード

第1話賞味期限が切れそうで焦る








これは俺が成功者になるまでのすべての過程である



1月18日

朝目を覚ますと、体中がバキバキに傷んできた。昨日の体育のせいだろう。準備体操に加えて腹筋やら腕立て伏せが加わるからそれが地味に体にくる。このまま布団に埋まりたいという欲求に支配されそうになる。


しかしそのタイミングで母が俺を起こしに来た。そうなると仕方なく起きようという気になってきた。いつもこの時間に起こしに来るけれど今日は自然と目が覚めていた。


筋肉痛で痛む体を起こしながらトイレに向かった。ドアを開けようと手を伸ばす。手首をひねって回してみたがガチャンッと音が鳴り跳ね返される。どうやら家族が先に入っているようだ。


わざとらしく足音を立てながら洗面所に向かっていった。いつものルーティンの通りネットと洗顔材をとり水を軽く加えて泡を立てる。


顔をそれで覆い、軽く洗う。顔についた泡を水で洗い流すと今度はワセリンを軽く手に取って顔に薄くのばしていく。保湿完了。これがいつものスキンケアだ。髪を軽く整えて教科書をカバンに入れて準備完了。


今から学校に行くことになる。玄関で靴を履いていると母が俺におにぎりを渡してきた。賞味期限が今日だからと言ってコンビニのおにぎりを渡された。おとなしく受け取って外に出る。


ヒンヤリとした風が心地いい。学校までは歩くと30分程度。時間に余裕がないときには母が車で送ってくれたりもするが普段は歩いて通っている。朝の風を受けながら登校するのはあまり苦ではなかった。


母から受け取ったおにぎりだが、今は食べる気がないのでカバンにしまっておくことにした。母が賞味期限が今日だと言っていた。俺はその言葉をぼんやりと思い出しながら学校へと歩いていく。


賞味期限かあ。なんだかわからないけれど、おにぎりがかわいそうに思えてきた。賞味期限を過ぎてしまえば食べられることなく無くなっていく。


その期限が今日なんだとふと思った。そういえば俺の高校生の期限ももうすぐ切れるな。高校3年生の1月。3月にはもう俺は高校生ではなくなっている。


俺の学校ではほとんどの生徒が就職を選ぶ。就職に強い学校として有名な学校で俺も就職を選んだ。高校を卒業してすぐに入社。何物にもなれず、ただただ働いて給料をもらう。


そんな未来がすぐそこまで来ている。そう時々考えてしまう。いい企業に内定した。大企業だ。


内定したときは俺も家族も大喜びした。他から見れば順風満帆に見える。でも本当にこれでいいのか?このまま同じ給料をもらって安定して家族をもってそれで幸せなのか?自分が自分に問いかけてくる。何かしたい、有名になりたい、大金持ちになりたい。自分が答えている。



いつもこんな感じだ、ふとした瞬間にいつも考えている。このまま大企業でそこそこの暮らしをする。それもいいだろう、幸せだろう。でも何か足りない、友人と話していても何かが違う。みんな現状に満足していて俺と同じような奴は一人もいなかった。こんなものか、友人を見下してしまう自分がいる。


そういう俺は何物でもなく何も成し遂げていないのに。野心はある野望はある、ただ何をしたらいい?俺には何ができる?答えはでない、いつもいつもここで行き止まりだ。なにか、なにかやらないと何も変わらない。それはわかっているのに何もできない自分が歯がゆかった。

何かきっかけを探していた。


昼休み

俺が学校で一番よくつるんでいる奴の家でBBQをしようという話になった。誰を誘うかや何を食うかなど会話はかなり盛り上がった。俺もこいつらとつるむのは嫌いじゃない、むしろ好きだ。こいつらと一緒にいれば将来誰かに話せるような何か面白いことが起きるかもしれない。


そう思って友達との付き合いには積極的に参加している。ここでも意識だけ高い自分に嫌気がさしそうになる。楽しいのは楽しい、こいつらと過ごす時間は幸せだ。


学校が終わって家に帰る


今日の学校もそこそこ楽しかった。風呂を済ませて布団に入る。今日会ったことが頭の中で再生される。BBQかあ。楽しみだなあ。そこそこの人数になるから今までとは違った雰囲気で新しい何かが起きそうでワクワクしていた。


時計を見る。1月18日。卒業まで2か月を切った。今なら何かをやる時間はある。まだ何者かになれる。しかし卒業したらどうだ?時間は限られて自由はなくなる。残り2か月。俺は焦っていた。なにか起きろと心の中で叫びながら。



その日俺は壁に文字を書いた。何か変化が欲しくて、なにかしないといけない気がして、でも大したことは何もできないから、俺は壁に大きく(日本で一番有名になる、俺のことを知らないと言わせねー!)と書いた。


まるで小学生が書いたのかという文章だ。自分でも笑ってしまうくらいには残念な出来だ。でもこの行動で何かが変わる気がした。今日からこの壁の文字が俺の目標だ。途方もない道のりへ踏み出した感覚になり、胸が大きく高鳴った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る