ドラマーIN US#1クリスティーン・ロック!

矢野アヤ

第1話 クリスティーン・ロック!

 アメリカ・カリフォルニアでドラムを教える夫の生徒に、22歳になるクリスチーンがいる。習い始めて2年が経つ。

 すでにジャム・セッションのステージでは、親子ほども年の違うミュージシャンたちに混じって、演じ合っている。地元で活動するバンドにも合格し、ドラマーとして活動を始めた。2年で驚くほどの成長だが、クリスティーンの場合、これは奇跡と言っても言い過ぎではない。

 彼女が両親に連れられてドラムレッスンに来た頃の事をよく覚えている。ダボダボのパジャマのような服にボザボザ頭で、ぼーっと練習室に入ってくる。まるで寝起きだ。いつも父親に連れられてくる。ここまではまだいい、困るのはその匂い。シャワーを浴びていないのか、30分間のレッスンが終わると部屋に匂いが充満し、次のレッスンまで間を開けないといけないほどだった。高校を出て以来、引きこもり同様だったのだ。

 ドラムを習うのは初めてだったが、習い始めてからはその有り余るエネルギー全てをドラムに注ぎ込むかのようだった。彼女の中に蓄積された、聞き込んで来た音楽、それらがレッスンという栄養を受けて芽を出し、まるでドンドンガシャンと音を立てて成長しているかのようだ。

 先週のレッスンにクリスティーンは、ショートカットの髪を青く染めて現れた。真新しい黒いTシャツにはドラムがプリントされている。眼鏡も外した。過去を含めた彼女の全てとXXLサイズの体をも武器にしてスティックを握るその姿には、自信以上の、殺気のような意気込みが漲っていた。いつか彼女のビートが多くの若者に希望の種を植えることだろう。全身全霊を込めて奏でる音には奇跡を起こす力が宿る。

 クリスティーンはバンドでの活動をしばらく続けた後、シアトルに引っ越し、プロドラマーとして活動する計画を立てている。クリスティーン・ロック!

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