第4話 未知との遭遇

「———此処なら流石にバレんだろ」


 全速力で走ること数分。

 俺は人の少ない場所と言えば、必ず名前が上がりそうな森にやって来ていた。


 森といっても物凄い大きな森じゃなく、住宅地にポツンと取り残された様な狭い森だ。

 ただ、周りの家は基本空き家だし、そもそもこの場所はお化けが出るとか何とかで人があまり近寄らないので、まさに魔力を使うのに打ってつけな場所というわけだ。

 それに俺の家からも然程遠くもないものポイント高い。


「よし、早速やってみるか」


 俺は心の中で【俺の身体で耐えられるギリギリの出力で身体強化して】と願うと……全身が普段より濃い膜のような青白いオーラに包まれ、身体が最初に発動した時以上の熱を帯びる。

 上手く身体強化が発動した証拠だ。

 更に言えば願いを細かく指定すればその分自由に出力を変えることが出来ることも判明した。


「よっと……おとと……あぶねあぶね」


 俺は軽く跳躍して十メートル程ある木の枝に飛び乗ったが、慣れていないせいか一瞬バランスを崩して落ちそうになってしまった。

 何とかバランスの取り方のコツを掴むと、何処まで身体能力が上昇したのか、試しに漫画やアニメでよくある枝渡りを実践してみる。


「よっ、ほっ、やっ……と」


 この森は木が数メートル間隔で所狭しと生えているので、比較的簡単だった。

 ただ簡単と言っても、俺が載っても折れそうにない枝があるのは高さも距離もバラバラだったのでそれだけは難しかったが。


 いやぁ~~身体強化様々だな。

 俺の身体能力じゃ絶対こんなの出来ねぇし。

 というかそもそも、何もなしで十メートルも人間がジャンプ出来るわけないだろ。

 出来る奴は人間じゃねぇ。


 なんて木の上で考えていた時だった。

 

「ギュギュ……!!」

「……何だ、この声……?」


 突然森の奥の方から奇妙な鳴き声が聞こえてきた。

 それは猿とか猫とかカラスなどとは比べるまでも無く違った。


 

 そう、まるで……スライムを握り潰した時に鳴る不思議な音に似ていたのだ。



 多分アレを何倍にもすれば、今俺が聞いた音と殆ど同じになるはずだ。

 ただ、逆に言えば、そんな音を俺が聞こえるには何倍にも音を大きくしなければいけないということであり、そんな馬鹿なことをする暇な奴は流石にいないと思う。

 

「いや、俺の耳が良くなってるから聞こえてるだけか?」


 そう言えば今現在進行系で身体強化を発動している最中なので、もしかしたら俺が聞いた音より実際は小さいのかもしれない。

 定かではないが、俺の身体強化は聴力も大幅な強化をしているはずだ。

 先程まで気付いてなかったが、風の音、木々のざわめき、微かに聞こえる数匹の生物の呼吸音———。

 

「———呼吸音……? ———うわっ!?」 


 俺が違和感を覚えた瞬間。

 一瞬視界の隅に何か触手の様なモノが現れたかと思うと、突然俺の立っていた幅三十センチはありそうな枝が折れて、枝と一緒に俺も地面に真っ逆さまに落ちる。

 ただ、普段よりも回転の早い頭のお陰で状況が把握できたため冷静に地面に着地することが出来た。

 七~八メートルくらいの高さから落ちたわけだが、身体強化のお陰で足が痺れるわけでも怪我するわけでもなく無傷である。


「あ、危ねぇ……何だよ急に———ッ!?」


 俺が独り言を呟いている途中、視界に再び現れた触手の様なモノを知覚する。

 それと同時に咄嗟に頭をズラして避けると、ついさっきまで俺の頭があった所を半透明な触手が通り過ぎていく。

 しかし直ぐに動きを止め、逆再生の様に暗闇の中へと戻っていった。


「…………いや、は?」


 俺はこの瞬間に起きた意味の分からない事の数々を受けて呆然と声を漏らす。

 しかしそれも仕方のないことだと思う。


 いや……触手って何?

 この世界に人間を捕らえれそうな触手を使う生き物なんて存在しないんだが!?


 俺は一先ず近くに落ちてた先程折られた枝を持つと、ゆっくりと触手が戻っていった方向へ向かう。

 身体強化によって視力も強化されているお陰で、月明かりの遮られた真っ暗な森の中でも普段より遥かに見やすかった。

 どれくらいかと言われれば……真昼に少し薄暗い所に行った時くらい。


 つまり、結構はっきり見える。


「あー、クソッ、何でこんなとこに来たんだよ、俺……」


 今更ながらに興味本位で家を飛び出すんじゃなかったと後悔する。

 正直未だに何がなんだかよく分からず、今直ぐ逃げ出したいくらいには怖い。

 ただそれと同時に、先程の触手の正体を暴きたいとも思っており、今は寧ろそっちの感情のほうが大きかった。


「やっぱさっきの鳴き声もあの触手の奴の声なんかな……」


 なんて思いながら枝を構えて進んでいると……再び『ギュギュ』という鳴き声が俺の耳に入ってきた。

 全身が粟立ち、一気に警戒度を上げて息を潜めながら先に進む。

 すると……。

 

「ギュギュ……」

「ギュギュギュ……」

「ギュギュギュッ!!」


 少し開けた森の中心にある小さな園具のない公園に三匹のスライムがいた。

 

 いや……何、は?

 え、マジでスライム?


 あまりにも非現実的な目の前の光景に、思わず自分の目を疑う。

 しかし何回見たところでスライムが公園に居るという奇妙な光景は一切変化することはなかった。

 俺はそんな光景を、近くの木の陰に隠れて見ていたわけなのだが……。



「———ギュルルルルルッッ!!」

「ギュギュギュ!?」

「ギュギュギュ!!」

「バレてるマ!? うわっ!?」


 

 何故か一瞬であっさりバレました。


「クソッ……戦うしかねぇのかよ……!!」


 俺はそう毒づき、苦虫を噛み潰したような表情で木陰から飛び出すと……全速力でスライムに向かって枝を振り下ろした———。



 

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