捜査部・ライアンの事件簿

石山コウ

第1話 霊界の音 1

――どうでもいい。


 俺はため息をついた。俺の目の前には端末から出力されているスクリーンがある。そのスクリーンから、色んなつぶやきが書かれている。



~ ~ ~


→静かな夜に不気味に聞こえた。チリーン、チリーン。どこからともなく辺り    に響く音に俺は恐怖で逃げた。絶対、幽霊にちがいない。


→彼氏とホタルを見に行った。でも、聞いちゃったんだ。リリリン、リリリンて。そんとき、二人して「呼ばれている」と叫んで逃げた、逃げた。あれは、霊界のお迎えにちがいない。


→僕、この世とあの世の境目を知っている。時々、鐘っぽい音が聞こえるんだ。あの音を追って帰って来れた人はいない。きっと、あの世にハマったにちがいない。


~ ~ ~



 3800年のテクノロジーが発展した時代に幽霊騒動が日常茶飯事だなんて、捜査部に入るまで知らなかった。


 俺はオーテッドの捜査部に所属している。オーテッドの捜査部といえば、悪い人を捕まえるとか、不正や悪事を暴くとかのハードボイルドなものを想像していた。けど、そんなのはほんの一部で、実際は地味だ。何しろ、ネットでつぶやかれている言葉を分析して、正体を探っているからだ。例えるなら、……そう、スパイだ。まあ……、オーテッドなら合法かな。


 何といってもオーテッドは、電気インフラおよびデータ生命体集約管理機構:Organization of the electric-infrastructure and data-life-human centralizing control (通称:オーテッド(orted))という大きな組織だからだ。ネットもオーテッドで管理されているから、俺がしていることは当然とも言える。


 オーテッドのスゴイところは発足からずっと暴動を起こされたこともなく、信頼ある組織と認識されているところにある。それは、悪い人の摘発であったり、不正や悪事を暴き続けているからだ。


 いつまでも不正や悪事をそのままするなんて許されない。俺は、そんな気持ちから捜査部に入ったのだが、実際とのギャップがあまりにもありすぎる。まさか、言葉の分析だなんて、思いもしなかったからだ。俺だって悪い人を摘発したり、不正や悪事を暴きたいのに、やっていることがみみっち過ぎる。……なんて思っても、何も変わらない。言葉の分析は捜査部の基礎中の基礎であり、そこから不正や悪事の暴くキッカケになることもあるから、日々の地味な仕事に精を出すしかないのだ。


 俺は沈みかけたモチベーションを入れ直し、AIがまとめた資料を目に通す。起きた事象、状況と共に、場所の風景を見ていく。丈の長い草むらに流れの緩やかな池、鬱蒼うっそうとした木々……、こりゃ、ホラーで見かける雰囲気だな。まあ、騒ぐ気持ちもわからんではないが、3800年の技術にも引っかからない正体に不思議なものを感じた。


 例えば、俺が使っている端末は一般的な物で、大きな服ボタンぐらいのサイズから光を出して形作られる、光のマッピング技術がある。四角いスクリーン状だけでなく、プログラム通りにアイドル会場の再現、見ている風景をそっくりそのまま再現できるのだ。(ちなみに、俺は再現した風景の中にいる。近くで流れる水の音や、風に吹かれて鳴り響く草の音が聞こえる)


 端末だけでなく、視界にはAVR(augmentation virtual reality(通称:AVR))という目に映る視覚に変化を与える技術があり、持っている端末と同期が可能だ。もし、何かあれば反応し、教えてくれるはずだ。


 なのに反応しない。だから、幽霊であったり、霊界、あの世、そして、正体を探る指令。こんな幽霊騒動であっても、複数人が同じ場所で似たようなものを聞くのは何か仕掛けがあるかもしれない。だから、オーテッドは正体を探れと指令を出したのだろう。


 まあ、俺にとってみれば、くだらない正体じゃないことを祈る。この手は早とちりや勘違いが積み重なって大騒動に発展していることもあるのだ。



 そんな不安を感じつつ、俺はそのポイント近くまで移動した。そこは、事前に端末で見たホラーのような雰囲気ある風景が広がっていた。鬱蒼うっそうとした木々に、丈の長い草むらが見えていた。そんな場所に俺ともう一体、鳥型のサポートロボット『ティモ』と一緒にいる。ティモは俺専用のサポートロボットであり、捜査部一人一人に支給されているロボットだ。


「ティモ、ポイントまで案内よろしく」

「ライアン、案内、必要ある? 資料からの地図は、そこを突き抜けた先だよ」


 もちろん、ライアンは俺の名だ。


「いやいや、俺より耳がいいだろ。何か聞こえないか? チリーンとかリリリンとかの音は?」

「音? …………あ、聞こえる」

「そうか。そこまで案内してくれ」

「オーケー。こっち」


 俺はティモの後をついて森の中に入り、音の出所へ向かった。

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