残滓

喜島 塔

第1話「夏夜」

 爆音とともに、次々と色とりどりの花を咲かせ、夏の夜空に吸い込まれ消え逝く花火。 その刹那の夢に、夏月なつきは、一縷の望みをかけた。


 夏月が、雅也まさやと一緒に花火を観るのは、今回で三度目だ。


 一度目は、雅也と付き合い始めた頃。

 二度目は、雅也に別れを告げられた時。

 そして今日……


「綺麗ね……」

「ああ……」


 今しがた打ち上げられた枝垂れ柳に照らされた彼の端正な横顔は、憂いを帯びていた。


「少し、歩きながら話をしないか?」

「ええ……そうね……」


 夏月は、やっとのことで声を絞り出した。 次々と打ち上がる大輪の花に狂喜乱舞する人々を掻き分けながら、ふたりは、虚ろな表情で歩みを進めた。


千春ちはるが……帰って来るんだ」

「そう……無事、生まれたのね……おめでとう…… それで? 私は、どうすればいいの?」


 一縷の望みが消えて逝くのを、夏月は確信した。


「こうして二人で会うのは、今日で最期にしないか?」



 ――世界が崩れ落ちる音がした。



 雅也は、夏月にとって“すべて”だったのだ。

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