第7話 信仰豊かな街へ、出発進行! Part7

「ずいぶんと面倒な事をしてくれましたね。おかげで、私の計画も

大幅に崩れてしまいましたよ」


ニケニケは、街の人々に見せる顔とは別人のような

顔つきでハラユキ達を睨みつける。


「計画だと?人身売買の件か?」

「そうだ。人身売買は儲かるからな。同時に、多くのお布施が手に入る。

奴と手を組んだのは正解だった。私はもっと金を集め、この街を大きくする。

いずれば腕のある者を多々集め、世界最強国家にするのだ。

そして、私は最強国家の女王となる。

何せ、私はこの街では神だからな。いずれは、世界の神となる」


神の名を語る外道。それがニケニケのようだ。

だが、ニケニケの部下は、もうほとんどいない。

特に、右腕であったゴルゴンはすでに息絶えている。


「おい、ニケニケ。お前の野望もこれまでだ。

もう後は無い。大人しく投降すれば、命までは奪わんぞ」


しかし、ニケニケは不敵な笑みを浮かべる。


「愚か者め」


すると、ニケニケは杖を取り出した。

その杖の先には、ターコイズのクリスタルが付いていた。


「あ、あれはクリスタル!?やっぱり持っていたのか」


そして、その杖の先が光出す。


「我が部下達よ、そのゴミ共を始末しろ。」


すると、死んだはずのゴルゴンが立ち上がった。


「う、うぐああああああ」


しかし、ゴルゴンは完全に蘇ったのではなく、

ゾンビのような状態で復活していた。

他の死んだ部下達も、同じような状態になっていた。


「な、なんだコレは!?」


ゴルゴンがじわりじわり、ハラユキ達に迫ってきた。

その間に、ニケニケは地下室へ繋がる隠し階段へと逃げていった。


「やばい、ニケニケが逃げるぞ」

「・・・オリビア。ニケニケを追ってくれ。ルミーラは、トキアを連れて

神殿から抜け出してくれ。このゾンビもどき共は俺が引き受ける。

こいつらを俺に引き寄せるから、その隙に行ってくれ」

「わ、わかりました。トキア、行くよ!」

「は、はい」


ルミーラとトキアは、逃げる準備をする。

オリビアは、ニケニケを追いかける準備をする。


「よし、ゾンビ共、こっちへ来い!」


そして、ハラユキは前後左右に腰をクネクネする。

そのキモい動きに反応するかのように、ゴルゴン達はハラユキに

向かって進んで行く。


「よし、今だ!」


その隙をついて、ルミーラとトキアは神殿の入口へと走って行った。

そして、オリビアはニケニケが逃げた地下通路へと進んで行った。


「うまくいったな。よし、こいつらは俺のギャグ魔法で吹き飛ばしてやる!!」


ハラユキは魔法を唱えだした。


「太陽めがけて屁をしたら、怒った太陽ぷんぷんよ♪

オナラで火力は猛アップ!お日様顔ごと突撃ボ~ン!」


そして、太陽のような熱い火の球が、ゴルゴン達目がけて飛んでいった。


「ぐおおおおおおおお」


ゴルゴン達は燃えさかり、全員その場でくたばった。


「良かった。これで終わった」


ハラユキは思わず、その場に腰かけた。


「ゴルゴンは倒したけど、オリビアの方は大丈夫かな?」


ハラユキは体力も使い果たしたので、ニケニケの方は

オリビアに託す事にした。


一方、ニケニケを追いかけるべく、ニケニケが逃げた地下道を

走り続けるオリビア。


「ん?あそこに光がある。もしかして、そこから出たのか?」


光が差し込む方へと向かうオリビア。

そこへ行くと、出口らしき所がある。


「よし、出てみるか」


出た先には、大きな川があった。

その川で、小舟に乗ろうとしているニケニケがいた。


「逃がさんぞ、ニケニケ!」


オリビアは持っていた短剣を小舟に向かって投げる。

そして、小舟に穴が開き、ニケニケは慌てて陸に上がる。


「まさか、ここまですぐに追ってくるとは」


ニケニケに、少し焦りを感じる。


「覚悟しろニケニケ。先ほどおとなしく投降すれば許したが、

貴様はおとなしくするタイプでは無いと分かった。

ここで始末する。どの道、もう逃げ道も無いしな」


しかし、ニケニケは笑みを浮かべる。


「くくく、私にはこのクリスタルがある。小舟はすぐ修復出来ますよ」

「修復だと?」

「ええ。このクリスタルは、物を修復する力を持っているのです。

まあ、死んだ生き物に使うと、ゾンビ状態になりますが」

「なるほど、その力を使って盗賊どもが壊した街も戻したのか。

しかし、ずいぶんとおしゃべりだなニケニケ。

最後に美しい私とお話でもしたくなったか?」

「面白い方ですね、あなた。どうです、腕も立つみたいですし、

私と手を組んでニッケン教を再建しませんか?

あなたなら、ゴルゴンより高い報酬を出してもいい。

冒険者なんて、つまらないでしょ?

命を賭けて闘っても、はした金しか貰えないのですから。

悪い話ではないと思いますよ」


オリビアは落ち着いた顔で言う。


「そうだな。確かに割に合わない職業かも知れん。

お前の言う通りだ。

だが、気持ち悪い宗教団体に入り、人を売り飛ばすようなマネだけは

したくないのでな。

たとえ収入が低かろうと、お前を始末する方を取る」


オリビアは剣を抜き、かまえる。


「そうですか、それは残念です。

では、あなたにはここで死んでいただきましょう!!」


ニケニケはクリスタルを光らせる。


「なんだ、小舟を修復する気か?」

「いいえ、私のコマを作っているだけです」


すると、川の中からゾンビがわらわらと出てきた。


「な、なんだこれは!?」

「この川には、かつて私に逆らった愚か者どもを殺し、

その死体を川の底に沈めていたのですよ。

いざ逃げる時、まさにこのような状況になった際の

手駒になってもらうためにね」


卑劣極まりないニケニケ。

こんな奴が神を語っていたと思うと、実に腹立たしい。


「お前は、どこまでゲスなのか」

「くくく、かつてこの街で平和に暮らしていた者達だ。

貴様にこいつらを殺せるか?」


人質兼殺人ゾンビ。

もはや打つ手は無いかと思えた。

しかし、オリビアは容赦無くゾンビ達を切り裂いていく。


「あ、あなた、街の人々に対して情は無いのですか!?」


オリビアは、フラットな表情で言う。


「貴様に殺され、挙句無理やり部下として使われる。

こんな悲劇な事は無い。

このまま貴様に使われるのは、あまりにも可愛そうでな。

だから、私の手で楽にしてやっているのさ」


一応、オリビアの優しさである。

あくまで、優しさです。


「くっ、まだまだ!」


ニケニケはクリスタルを光らせる。

何度も蘇ってくるゾンビ達。

それを、何度でも切り裂くオリビア。

何度もゾンビを倒していると、修復が追いつかなくなったのか

ゾンビは復活しなくなった。


「そ、そんな・・・」


ニケニケの足は震えている。


「終わりだな、ニケニケ。あの世でみんなに謝って来い。

そして、地獄で永遠に苦しめ」

「ま、まてオリビアとやら。私は街の人々にはまだ神として

崇められている。それを利用し、共に幸せになろうではないか。

なにも無理に討伐の仕事なんてしなくても、私と共に来れば美味しい思いが出来る。

そう、あなたの思いのままだ。

なんなら、あなた好みのイケメンでもたくさん用意してやろうか?

どうだ?ん?」


そして、オリビアの剣がニケニケの心臓を貫く。


「ぐ、ぐぼ・・・」


ニケニケは口から大量の血を吐き、涙を流しながら倒れ、息絶える。


「私の話を聞いていなかったのか?

私は性格は良い方では無いが、腐ってはいないのでな」


ニケニケが持っていたクリスタルを取得し、

ハラユキの元へ戻る。

ハラユキが無事にゾンビ達を倒し、その場で腰かけて

休憩している状態を見て、少し安堵の気持ちになった。


そして、オリビアが一言。


「くさい」



ハラユキとオリビアは、ルミーラの家に行った。

そこには、ルミーラとトキアが無事に待っていた。


「ありがとうございます。お二人のおかげで、ニッケン教は滅びました。

これで、レイも報われます」

「ありがとう、ハラユキさん、オリビアさん。

ニッケン教にさらわれた時は、もうダメだと思ったけど、

ハラユキさんが来てくれたのを見た時、とても嬉しかったです!

ちょっと臭かったけど」


ニオイの事は触れてほしくなかったが、無事であれば何より。

ハラユキは、事件が片付いた事に喜びを感じた。


「ルミーラ、トキア、これからどうするんだ?」

「実は、その事でトキアと話をしていました。

教団は滅びましたが、街の人々はパニックになり、もはや街として機能していません。このままだと、私たちにも危害が及ぶ可能性もあります。

そこで、トキアのおじいさんのいる村に行こうと思います。

そこなら、平和に暮らせそうなので」

「そうか、それがいいな」

「私のおじいちゃんなら、ルミーラさんも受け入れてくれると思うの。

とても優しいおじいちゃんだから。

おじいちゃんの村へ言って、一緒に農業やるの」

「いいね、美味しい野菜とか、たくさん作ってくれよ!」


ハラユキとオリビアは、ルミーラの家の向かう途中、街の様子を確認していた。

確かに、街の人々はおかしくなっていた。


泣き叫ぶ者、

怒りを露わにする者、

なぜか笑っている者、


今まで心から崇拝していたニッケン教団が壊れたことにより、

人々の心も壊れてしまったようだ。

もう、修復は不可能だろう。

トキアの両親もどうなったのか分からない。

その事もトキアに聞こうと思ったが、おじいさんの家に

行こうとしているトキアは、とても楽しそうだった。

その状況で、水を差すような事を言うのは避けた方が良いと判断した。


街から少し離れたところまで行き、そこで二人と別れた。


「あの二人、これから新しい生活が始まるんだな」

「そうだな。ただ、今までと違って、ごく普通の生活をしていくんだ。

ごく普通の、当り前な生活を」


普通である事は、ある意味一番幸せな事なのかも知れない。

そんな事を考えながら、ハラユキとオリビアはシャルゴラドを後にした。

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