第7話 信仰豊かな街へ、出発進行! Part4
オリビアの悲鳴が飛ぶが、縛られているハラユキには、助けられる術が無い。
「や、やめろ!オリビアに手を出すな!! やめろおおおおおお!!!」
その時、どこからうっすらと煙が漂う。
「なんだ?」
その後、すごい勢いで煙が辺り一面を覆った。
そして、街の人々が苦しみはじめた。
「うわぁー!目がしみるぅぅぅ!」
「いてぇー」
マスク男も、そしてハラユキも目の痛みを訴える。
「ぎゃー、いてぇーー!!」
ハラユキが痛みでもがき苦しんでいると、
突然すごい勢いで何かに引っ張られていく。
「うわぁー!」
体中地面にぶつけられているうちに、ハラユキは気を失った。
街から煙が消えた時、ハラユキとオリビアの姿は無かった。
「さがせ!草の根分けてでも探せ!」
街はパニック状態だったが、やがては落ち着きを取り戻す。
「ニケニケ様、とりあえず神殿の中へ」
教団の人間が、ニケニケを神殿の中へ入れる。
街の人々と教団の者が、ハラユキとオリビアを探し始めた。
一方、神殿内に入ったニケニケとマスク男が会話を始める。
「ニケニケ様、どうやら2人以外にもネズミが紛れ込んでいるようですな。
早く対処しておいた方が良いかと」
「そうね。私に逆らう者は早く始末すべきよ」
「ところでニケニケ様、街の中に、怪しい市民が他にも1人いるのですが」
「話を聞きましょう」
ニケニケとマスク男は、何かよからぬ事を話し合っていた。
「では、その方向で事を進めましょう。お願いしますよ」
「お任せください。この手の事は、プロですから」
マスク男は不敵な笑みをうかべ、何かを実行する様子だった。
とても、嫌な予感がする・・・
ハラユキが目を覚ますと、そこには見知らぬ天井があった。
「ここは?」
周りを見渡すと、誰かの家のようだった。
しかし、記憶に無い風景である。
「気がついた?」
女性の声がした。
「あ、あれ、君は!?」
目の前に現れたのは、この街を案内をしてくれた発狂女性だった。
「あの時はごめんね。私はルミーラ。あなたたちがニケニケを討伐に来た冒険者では
ないかと思って、近づいたの。
ただ、確信を得られなかったのもあったし、ちょっと様子を見るために
発狂したフリをしたの。そしたら、身のこなしとか明らかに一般人では無かったし、
うまく身を隠せたのを見て、冒険者かなと思ったの。
それから、あなたたちの様子を見ながら、近づく機会をうかがってたの」
彼女は、洗脳された人を装い、ハラユキとオリビアを試していたようだ。
そして、ニッケン教に捉えられた所を目撃した際、
目のしみる煙幕を撒いて助けたようだ。
「そうだったのか。ありがとう、助かったよ。けど、あの煙幕は何?」
「・・・私の、かつての恋人が作った煙幕なの」
「かつての恋人?」
「ええ・・・」
ルミーラは、とても悲しそうな目をしている。
とても、辛い過去があった様子だ。
そして、ハラユキはふと気付く。
「そういえば、オリビアは!?」
「オリビアさんなら・・・」
すると、ドアをノックする音が聞こえる。
「目が覚めたか、ハラユキ」
見たところ、元気そうなオリビアがいた。
「オリビア、大丈夫なのか!?」
「大丈夫だ。ルミーラが助けてくれたおかげで、色々と無事だ。
ルミーラは煙幕を使った後、馬で私たち二人を運んでくれたようだ」
オリビアはマスク男に辱められそうになっていたが、
すんでの所でルミーラに助けられた。
「しかし、おどろいたな。いつも勝気で男勝りなオリビアが、
男に襲われそうになると女の子みたいな悲鳴を上げるんだな。
俺はずっと、ゴリラの子だと思ってたから」
「ハラユキ、グーとパーどっちが好きだ?」
選ぼうとしたところ、グーとパーの両方をいただいたハラユキ。
「ハラユキ、とうとうお別れの時が来たようだ。そして、お別れは
ハラユキの死をもって完了とする。
安心しろ、首をゆっくりギーコギーコしながらお別れしてやる」
ハラユキの顔面は蒼白だ。
さっきの件で、けっこうイラついていたオリビア。
「す、すみません、ちょっと場を和まそうと思って言ったつもりだったんです。
お願いします、命だけは助けて!」
ハラユキはジャンピング土下座しながら謝罪する。
「まあ、今はそんな事をしている場合では無いしな」
オリビアは、ため息を吐きながらハラユキを許す。
ただ、時間に余裕がある時だと、本当に首を斬られたのではと
顔が青ざめるハラユキであった。
「ところでルミーラ、君はニケニケと敵対しているという事でいいんだよね?」
「そう。私は、恋人の仇を取るために、この街に潜んでニケニケを始末しようと考えているの」
「恋人の仇?」
「私の恋人、レイは花火職人だったの。ニッケン教が開催する月に1度の
イベントで花火を使うから、それでひと儲けしようと思い、この街へやってきたの。
けど、レイが花火について交渉しに行こうとした際、偶然見てしまったの。
ニッケン教が、さらってきた女の子を売り飛ばそうとしていたところを!」
「なんだって!?」
思わぬところで、ニッケン教の悪事について情報を得る事が出来た。
元々、その疑惑から始まったクエストだったので、これは有り難い状況だ。
「そして、レイはその現場を目撃した事の口封じのため、ニケニケ達に殺されたの」
「どうして、奴らに殺されたと分かったの?」
「レイは、売買現場を目撃した際、その状況詳細を書いた紙を伝書鳩を使って私に送ってきたの。
彼、伝書鳩を使って色んな所と商売のやり取りしていたから。
けど、その後すぐに見つかったのか、レイは二度とここへ戻る事は無かったわ・・・
幸い、私に情報が漏れている事はバレ無かったみたいだけど」
「そうだったのか」
「だが、これではっきりしたな。やはりニッケン教は人身売買をしている。
そして、レイが残した奴らの悪事に関する詳細があれば、これでニケニケを
討伐する事が可能となる。
そして何より、あのマスク男を絶対に、絶対に始末せねばらなん!!」
個人的恨みもこもっているようだが、
どちらにせよ討伐は必要だ。
「なら、私も強力するわ。私が改良した、目のしみる煙幕も使えるかもしれないし」
「そうだね。ルミーラの力も貸してほしい」
3人は結託し、ニケニケの討伐を実行するべく
作戦を立てる事にした。
「さて、どうやって神殿へ侵入するかだよね」
「ルミーラ、さっき言っていた月に1度のイベントというのは何だ?」
「それは、ニッケン教が開催するお祭りみたいなものです。
神殿の広場にて行われるの。
このイベントで、街の人々をより信者化するような感じですね」
「これ、使えないか?祭りで人々も神殿に集中するし、
その隙をついて神殿内に突入するというのは?」
「それは、難しいと思います。何せ、入口は正門しか無いですから。
その周辺は警備が厳重だから、とても侵入出来るとは思えない」
あのマスク男もいるような警備。
とても、正面から侵入は不可能。
「何とか神殿の中に潜りこむ方法だけでも無いものか」
2人は色々考えてみるが、良い方法が思いつかない。
「そうだ、あの場所なら潜りこめるかも」
ルミーラが何かを思い出したように話し出す。
「何か方法はあるのか!?」
「実は、神殿にて溜まった汚物を放出する場所があるんです。
そこは、ここより西のタルル川という、海につながる大きな川があります」
ハラユキは何か嫌な予感がしたが、話を聞き続ける。
「その放出する場所は、毎月1回だけ門を開け、汚物を放出します。
そこを開けるのが、イベントの最中になるんです。
そこから潜りこめば、神殿の中に入る事は可能です」
確かに、入りこむ事は可能だ。しかし、そこに入るのには勇気がいる。
「えっと・・・つまり、とっても臭い所から潜り込めと」
「・・・そうなりますね」
オリビアが立ちあがり、ハラユキに目がけて言う。
「よしハラユキ、お前なら大丈夫だ!
お前はお笑い芸人だ、汚れてナンボの種族だろ!」
偏見でハラユキを鼓舞するオリビア。
「何言ってんだよ!オリビアだって汚れるんだぞ!」
オリビアは言う。
「ん?いつ私が行くといった?」
「は!?」
「美しい剣士の私が、そんな汚れた事をするわけにはいかないだろう。
大丈夫だ。とりあえず潜り込んで、ギャグ魔法を手当たり次第ぶっ放してこい。
お前が暴れてパニックになっているところ、私とルミーラが正面から侵入する」
さすがのハラユキも頭にきた。
「ふざけるな!俺は絶対にやらねぇからな!!!」
そして、オリビアの温かく堅い拳が、ハラユキの腹部に入る。
「ぐええええええええええ!!」
「ハラユキ、最近ちょっと立場を勘違いしていたようだな」
ハラユキは、大粒の涙を流しながら作戦を了承した。
その頃、トキアの家では、父と母が帰宅していた。
「トキア、あなた、最近変わった事は無かったかしら?」
「えっ、何の事?」
トキアの両親が、トキアを疑うような目で見て来る。
「ウソをつくなよトキア、お前が怪しい2人と一緒にいるのを目撃した情報があるんだ」
「あなた、まさかニケニケ様を裏切るつもりじゃないでしょうね?」
両親の顔が、怒りに満ち溢れている。
「ち、ちがうわ。誰かの見間違いよ」
震えながら、トキアはそう答えた。
すると、家に誰かが入ってきた。
「トキアはいるか」
神殿の使いの者が4人入ってきた。
「トキア、貴様が例の2人組と一緒にいた事は分かっているんだ。
貴様は神に仇名す不届き者、これより神殿まで連行する」
トキアは使いの者に掴まれ、無理やり連れて行かれる。
「い、いや、やめて!お父さん、お母さん、助けて!」
しかし、両親は一切止めようとせず、冷たい目で見送るだけだった。
「いやあああああ、助けて、ハラユキさん、オリビアさん!」
トキアの叫びも虚しく、神殿へと連れて行かれた。
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