第7話 信仰豊かな街へ、出発進行! Part2

二人はシャルゴラドに着いた。

見たところ、特におかしな点は無い。

むしろ、かなり平和で穏やかな空気が漂っていた。


「ここで、本当に人身売買が行われているのだろうか?」

「あまり大きな声で言うなハラユキ、聞かれると面倒だぞ。」


周りを見渡す限り、人々は普通に生活をしている。

やはり、どう見ても平和な街にしか見えない。


「とりあえず、ニケニケに関する情報を聞き込みしてみるか?」

「そうだな。ニッケン教に関する情報を、少しでも聞いてみるか。」


その時、一人の女性が2人に近づいてきた。


「あの、すみません。もしかして、旅の方ですか?」


その女性が、2人にたずねる。


「まぁ、そんなところです。何か?」

「私、実はこの街で案内人をやっておりまして、よろしければ

この街をご案内しましょうか?」


一瞬考えたが、ニケニケに関する情報が聞ける可能性もあったので、

話に乗る事にした。


「では、案内お願いしますね」


3人は街の中の色々な名所を案内してもらい、まるで旅行に来たような気分になった。

一通り案内してもらった所で、その女性にさりげなくニッケン教について聞いてみる。


「ところで、この街はニッケン教という教団があると聞いたのですが、

有名なんですか?」

「ええ。それはそれは、素晴らしい教団ですよ。

教祖のニケニケ様は、みんなの憧れる教祖様ですよ!」


目をキラキラさせながら、女性は熱く語り出す。


「そ、そうなんですね。この街では、みんなニッケン教を慕っているみたいで。」

「当然です!ニッケン教はこの街を救ってくださっているのです!

ニケニケ様は、私たちの神そのものなのです!」

「へ、へぇ~」

「どうです、お二人も、ニッケン教に入信しませんか!?

絶対に後悔はさせませんよ!」


もちろん、入信したくはない。しかし、入信する事で

敵の本拠地に潜り込むチャンスも考慮した。


「そ、そうだね。ちょっと興味あるね。」

「じゃあ、さっそく!」

「ま、待って。まだ入ると決めたわけじゃないから。」

「どうしてですか!善は急げですよ!」

「いや、まだ俺たちはニッケン教の事よく知らないし、それに

ニッケン教が悪い宗教団体という可能性だってあるし、

色々検討してからじゃないと入信する気には、」

「・・・今、何とおっしゃいました?」

「いや、だから色々検討を」

「そこじゃねーだろこんボキャーーー!

テメー今ニッケン教の悪口言いやがったなああああ!!!」


先ほどまで穏やかな笑顔だった女性は、

悪魔のような怒り顔でハラユキを睨みつけながら怒鳴りちらす。


「あ、あの、案内人さん!?」

「野郎ぶっ殺してやらーーーー!!!!!!!!!!!!」


女性は、ナイフ突き出し、襲いかかってきた。


「いかん、逃げるぞハラユキ」


2人は猛ダッシュで逃げ出した。

すると、豹変したその女性が、大きな声で叫び出す。


「ニッケン教に仇なす不届き者が現れたぞ!奴らを許すな!」


すると、穏やかな雰囲気の街の人々が、同じように豹変する。


「許さぬ!仇なす者は許さぬ!」

「仇なす者は殺せ!」

「殺せ!殺せ!」


街中が、魔界のような空気になり、全ての人が襲いかかってくる。


「う、うそだろ!?」

「まさか一斉に襲ってくるとはな。とりあえず、全力で逃げるぞ!」


ただ、逃げるにしても街中どこへ行っても、悪魔のような顔をした人々が

2人を襲いかかる。

出来る限り逃げ続けたが、うっかり行き止まりに入ってしまうという、

よくあるピンチパターンに陥ってしまった。


「やばい、もう逃げられそうにない・・・」

「最悪の場合、街の人と戦わねばならない。」


しかし、街の人々に危害を加えたくは無い。


「どうすれば・・・」


すると、横にある家の壁の下にある隙間から、少女が顔を出して話かける。


「はやく、こっちへ!」


少女が助けてくれそうだが、信じて良いか分からない。


「オリビア、どうする?」

「仕方がない、この子を信じて入ろう」


2人は、少女に誘われるがまま、その隙間から家の中に入る。


「やつらが消えたぞ!」

「探せ!見つけ出して殺せ!」


人々の怒りは、収まる気配が無い。

とても外には出られる状況では無かった。


「助けてくれてありがとう。君は?」

「私の名はトキア。この家の一人娘よ」


この家の住む、14歳ぐらいの少女トキア。

見た感じ、この子は洗脳されている感じが無い。


「君は、私達を襲わないのか?」

「大丈夫ですよ、私はニケニケに洗脳されずに済みましたから」

「どうして、君だけ?」

「私は、体が弱かったので療養で遠い親戚の家に6年ほどいました。

体の方も良くなり、地元に帰る事が出来るようになったので戻ってみると、

みんなの様子がおかしくなっていたんです。」


やはり以前は普通の街だったようだが、その間にニケニケの影響で

街が変わってしまった様子だ。


「なぜ、みんな変わったんだろう?」

「それは、昨年起こった事件が原因の1つです。」

「事件?」

「はい。極悪山賊のラブリーデストロイ団がこの街を攻めてきたんです。

その結果、街は多大な被害が出ました。そして、この街はその山賊団に支配される結果となったのです」

「そうなのか。しかし、ヒドい軍団名だな・・・」


トキアも聞いた話での内容のようだが、それはかなりヒドイものだった。

多くの男性は殺され、若い女性は慰み者にされ、もはや絶望という状況だったようだ。


「それはむごいな・・・」

「ですがその時、ニケニケが現れて、山賊達を一人でやっつけたそうなんです」

「ひ、ひとりで?」

「さらに、この街の復興も、ニケニケによって復興したそうです。

だから、ニケニケはこの街の神様として崇められています。」


どうやら、能力などで洗脳されたワケではなく、このような経緯から

人々の心を動かし、神格化したのがニケニケという存在のようだ。


「だが、その話だけだと、ニケニケは別に悪い奴には思えんな」

「ですが、ニッケン教のお布施は異常なほど高く、街の人々はギリギリの生活をしています。

しかも、街に近づく人々にもお布施を要求し、逆らう場合は街の人みんなで圧をかけるんです」

「よく今まで問題にならなかったな・・・」

「きっと、教団がうまく隠ぺいしたんだと思います」


今までニッケン教の被害者となった人が多々いるのだろう。

表向き平和でも、マインドコントロールされている街の人々は、

自らの意思でニケニケのために動いている。

非常にタチの悪い環境だ。


「そういえば、君の家族は?」

「父と母がいますが、二人とも信者になり、深く信仰しています。

ただ、ニケニケの気に入った服を作った事もあり、神殿によく呼ばれています。

だから、家にはほとんど帰ってきません。」

「君の父と母は神殿で何をやっているのだ?」

「お布施の、お手伝いをさせられています。私、それがすごく嫌で・・・

何度も止めようとしましたが、下手に止めようとすると、私にすら暴力を振るい、

鬼のような形相で私を叱るんです。で、仕方なく私も信仰しているフリをしていますが。」


この街では、ニケニケを信仰しない者は家族でも容赦が無いようだ。

トキアが不憫でならない。


「とりあえず、ニケニケを何とかした方が良いかもね。」

「ニケニケは、街の中央にある大きな神殿にいつもいるはずです。

そろそろ、一斉お布施の時間なので、姿も見せるはず。」

「一斉お布施?」

「はい。神殿にみんな集まり、一気にお布施を集めるイベントみたいなものです。」

「なら、神殿に行こう!」

「まてハラユキ、街の人々はあの状態だぞ。このままでは街を歩く事も出来ん。」

「確かに・・・」


1度見つかれば、また一斉に襲ってくる。

見つからずに神殿に行くのは不可能。

厳しい現状だった。


「そう言えば、トキアの家って服屋さんなんだよね?」

「はい、この街では、一番大きな服屋です。」

「・・・これは使えるな。」


ハラユキとオリビアは、これを利用する事にした。

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