不倫は脳でする時代!!

「これ」


さくちゃんが見せてきたのは、見慣れないアプリ。


「今の時代、不倫は脳でする時代よ」

「不倫?脳……?」

「わからないよね。ちょっと待ってね」


さくちゃんは、また鞄を漁っている。


「あった、あった」


さくちゃんが出してきたのは、ワイヤレスイヤホンかと思ったら、ただの耳栓だった。

しかも、片耳だけ……。


「これ何?」

「どっちかの耳に入れてみて」

「わかった」


意味がわからないまま私は耳栓を右耳に入れる。


「外で使うのは、何か違うから!一瞬だよ!」


さくちゃんは、スマホのアプリを操作すると耳から声が聞こえてくる。


『桜、愛してる』


声優さんの声?

すると右目側に映像が映る。


『桜、愛してるよ』


こ、これって?!


「もう、終わり」


さくちゃんは、スマホアプリを止めたのは私が驚いた顔をしたからだ。


「さくちゃん。さっきのって、中学の時に好きだった下山先輩?」

「そうなの」

「どうなってるの?」

「下山先輩が、私に会ったわけじゃないよ。ただ、先輩の情報をアプリに調べてもらっただけ」

「アプリに調べてもらう?」


さくちゃんは、私の言葉に隣に座る。


「そう。こうやって、SNSのアカウントを検索して、スクリーンショットを取るでしょ」

「これって小牧こまき君?」

「正解!高校の時は、男子のアイドル美海みなみちゃんと付き合ってたよねーー」


ニコニコ笑いながら、さくちゃんはさっきのアプリにスクリーンショットを送った。


【2分だけお時間をいただきます】


アプリ画面には、不倫なんて想像できないぐらい川が流れている映像が映っている。


【調べました。こちらの方を5人目に登録しますか?】


「これで、イエスを選択するとさっきみたいなのが現れるってわけ」

「声とかは?」

「AIが骨格診断して、その人に似た声を作り出してるのよ。だけど、実際に脳内不倫相手の一人に会った事があるんだけどね。本当にそっくりな声でビックリしちゃった」

「すごい……」

「でしょ?みくちゃんもやってみる?」

「で、でも、夫に悪いから」

「何言ってんの。脳内だけだよ!嫌ならすぐに解約すればいいんだから」


さくちゃんの言葉に【脳】だけならいいよねって気持ちになった。

だって、本当に不倫するわけじゃないんだから……。


「じゃあ、アプリを紹介しといたから!」

「ありがとう」

「みくちゃん、連絡先交換しよ」

「あっ、うん」


【リンリン】

今流行りのメッセージアプリ【リンモ】。

私は、さくちゃんと連絡先を交換した。


「あっ、帰らなきゃ!習い事に連れてかなきゃいけなくて。とりあえず、1ヶ月無料だから使ってみなよ!1ヶ月使えば、内側から変わってくるよ。じゃあ、これ払っとくからバイバイ」

「あっ、うん。バイバイ」


さくちゃんは、バタバタと急いで店を出て行く。

私は、コーヒーに砂糖とミルクを入れながら送られてきたアプリを開く。


不倫は、今や脳内だけで完結する時代なのか……。

アプリっていう手軽さが、不倫というハードルを低くしている気がする。

それに1ヶ月無料のせいで余計に手が出しやすい。



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