第210話 情報屋②


 「では、三大貴族と序列を関連付けて教えよう」

 「助かります」


 ミリカやマスター、リリーナよりもロロウさんの方がこれに関しては詳しいはず。

 そう思う俺は耳を傾ける。


 「まずはこの地区を統治しているルガヴィフ家のことだ。公爵のルガヴィフ・リドラー様は争いを好まん温厚な人柄で、人望も厚い。この国唯一の表ギルドもこの地区に存在する。それ故、ここが最も安全と言われておる」

 「えっ? この国に裏ギルド以外のギルドがあるんですか? 確か女王の手で潰されたって聞きましたが……」

 「ほとんどは潰されたが一つだけ許された。何故と聞かれても分からんぞ。あの女王の心を読み取れるわけないのでな」

 「……なるほど」

 「話を戻すが、リドラー様の護衛には、序列五位聖騎士ガイルと序列七位魔物使いのパトラがついておる。ちなみにこの序列は七位までしか存在せん」


 ……ふむ。

 裏ギルドと聞いていたから、罪人たちだけの烏合の衆だと思っていたがそうではないのか?


 「質問いいですか?」

 「あぁ」

 「その序列五位の人って裏ギルドに所属しているのに、聖騎士って言われてるんですよね? 何か由来とかあるんでしょうか?」

 「由来はただ教会に属しておった者だからだな。清く正しくを信条としている肝の据わった奴だ」

 「……ふむ」


 ロロウさんの表情から察すれば、この地区を治めているリドラーも裏ギルドの人も根っからの罪人というわけではなさそうだ。

 でも、序列が七位までしか存在しないのに七位と五位か。少し力不足に思えるが、そこは表ギルドの力で補っているんだろうか?

 まぁいい。次だ。


 「じゃあ、グロドルー家について教えてください」

 「……グロドルー家か。あそこは良くも悪くも無関心と言ったところだな。女王の命にだけ従うが、後は何もせん。トップに立つ公爵のラガー様も病に伏してしまった」

 「そうですか。なら、その両家は特に警戒しなくてもいいということですね」

 「女王次第だが、まぁそういうことだ」

 「ちなみにグロドルー家の護衛は?」

 「序列四位滅炎シュグラと序列六位炎帝アズハール。両者とも魔術師だ」


 ……んーっと、ちょっと待って?

 三大貴族全員を相手にしなくていいのは少しほっとしたよ?

 この両家の説明でエルフの件が出てないから、きっと無関係なんだなって思えたのは、そりゃあもうこのまま気持ちよく寝れるくらいにはほっとしてるよ?

 で、でもさ……


 残りの一位二位三位はどこ行ったの?


 「最後に君が知りたがっていたシュバーデンについて」


 俺の気持ちなどお構いなしのようにロロウさんは言葉を繋ぐ。


 「エルフを攫う指揮を執っておるのは、シュバーデン・ダンゼフ。女王の命を受けておるのかまでは定かではないが、あやつは昔から悪い噂しか聞かない貴族であった」

 「ほ、ほう」

 「とにかく金に貪欲で、女には目がないときておる。それに貴族の不審な死もほとんどが奴に関連しておった。だから、私はエルフの件はあやつの意思で動いておると思おておる」


 な、なるほど。

 本当に救いようがない奴だということか。


 「え、えっと、ロロウさん……そのシュバーデンの護衛は……?」

 「うむ。シュバーデンの護衛に関しては、君も対峙する可能性がある。よく聞いておけ」


 動揺はしているもののドキドキなどはしない。

 並大抵の相手ではないと分かっていたからだ。

 ただ……女王さん、いくらなんでも忖度しすぎじゃないですか?


 「まずは序列二位獄殺ザーフィラ。高い身体能力を持ち、殺し合いに生を感じるネジの飛んだ奴だ。得物は籠手を付けた拳。相手が死んでもなお満足するまで殴り続けると噂されておる」

 「なるほど」

 「もう一人は序列三位猛筋ミジリー。大剣を使った斬撃に、鋼のような肉体。半端な攻撃ではその肉体に傷一つ付けれぬと聞く」


 ふむ。カルロスに教えてあげないと。

 君の師匠がここに居たよって。


 「この二人がシュバーデンの護衛だ」

 「えっ? その二人だけ?」

 「あぁ」

 「序列一位がまだ出てきてないですけど?」

 「……」


 もしかして……序列一位はシュバーデンの護衛に付いてない? それなら嬉しいんだけど。


 少し間を置いた後、ロロウさんは口を開く。


 「……会ったことがないのだ。他の序列陣の顔と名は一致するのだが……」

 「つまり、存在しているかどうかも怪しいと?」

 「ううむ。はっきりとした答えは出せんが、その者の二つ名は死神と言われておる。素顔を知っておるのは女王だけで、会った者は皆、消されておるのじゃないかと」

 「ふむ……分かりました。一応気を付けておきます」


 死神か……なんか二つ名かっこいいな。

 その死神が居ても居なくても、正直どっちでもいい。シュバーデンにさえ関わっていなければ、会うことのない人物だろう。

 まぁ一連の話から俺が覚える人物は、獄殺ザーフィラと猛筋ミジリーくらいで、後は頭の片隅にでも入れておくか。


 真剣に話を聞いていた為か、少し疲れてしまった。

 うーんっと身体を伸ばすと関節がぽきぽきと鳴る。


 「ここらで少し休憩しようか。茶も用意してなかったな、狭いところだがここで待っていてくれ」

 「はい、ありがとうございます」


 そう言って席を立ったロロウさんは、地上に上がっていった。


 「レティナ、体調はもう大丈夫?」

 「うん、平気だよ。それにしても、思ってた通りにめんどくさそうな国だね」

 「あぁ、催眠だったり三大貴族だったり序列だったり……聞いてるだけで嫌になる」

 「ふふっ、それでもエルフを助けるんでしょ?」

 「……ルナとゼオの為にね」

 「困ってるエルフの為にって言えばいいのに」


 レティナは何だか嬉しそうな顔をしている。

 本当にもう体調が戻ったみたいだ。


 ロロウさんの店の中にはあの赤い目は無かった。

 もちろんこの地下室にも。

 家の中には流石に女王の監視はないのか?

 ていうか、街中を監視してそれをちゃんと見ているのだろうか?


 そんな疑問が浮かぶが、分かるのはきっと当事者の女王のみだろう。


 「あい、待たせたな」

 「あっ、ありがとうございます」

 「ありがとうございます」


 二つのコップを手に待って戻ってきたロロウさんは、席に座る。

 ずっと思っていた事だが、ロロウさんの顔も喋り方もかなりの渋さがある。

 座り方も何だか他の人とは違うように思えるほどだ。


 「こんな歳の取り方をしたいな……」

 「ん?」

 「な、何でもないです」


 心の声が漏れてしまったのを誤魔化すために、俺は冷たいお茶を飲む。


 「レオン君、休憩がてら君たちの事を教えてもらってよいか?」

 「もちろんいいですよ」


 この王国は閉鎖的だ。

 だから、俺たちのことを知らなくても無理はないだろう。


 これで信頼関係が築けるなら、なおさらいいし。


 今日は街を探索する予定も無かったので、俺とレティナは太陽が沈むまでロロウさんとの関係を深めていくのだった。

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