無限列車の終着点

フォッツ

無限列車の終着点

 無限列車とは、訳ありな人が訳あって乗る列車のこと、その列車は無限に続く線路をひたすらに走るから無限列車と呼ばれる。

 この列車にゴールはあるのか、それは乗った人にしかわからない。

 けど乗ったとしても知ってる人は誰もいない。


「う、うーん?」

 どこだここ?

 目が覚めると、知らない駅のホームにいた。

 周りを見ても人がいないし、駅名も分からない。


「痛い」

 なんでだ?後頭部の辺りが妙に痛む。

 どっかでぶつけたっけ?

 そう言えば、昨日家に帰ってからの記憶がないな。

 何で俺こんなところで寝てたんだろう?

 連れてこられた?攫われた?それにしては人はいないし・・・・。

 

「うーん」

 そんなことを考えているとガタンゴトン音が聞こえてくる。

 なんだこの音。

 電車でも止まるのか?

 すると四両の電車が目の前に止まる。

 電車?いや、電車というより蒸気機関車っぽいな。

 真っ黒な色に、先頭には煙突がついていてそこから煙が出ていた。

 ドアが開き止まっている。

 周りに誰もいないから、俺に乗れと言わんばかりに開くドア。

 

「乗るか、どうせ学校なんてつまんないし一日休んでも誰も文句言わないだろう、あ、一人はいるか」

 そんなことを言いながら乗車する。

 ゆっくりと開き戸が勝手に締まり、警笛が鳴り動き出した。

 

「すげーー」

 この音、生で聞くの初めてだ。生はやっぱり迫力あるな。

 中にも、やはり人がいない。

 誰もいないなら真ん中あたりでも行くかな。

 席は相席しかなく真ん中の席の窓側に座った。

 

「すげー景色めっちゃ綺麗」

 窓を覗くと一面青色の海と空が広がっていた。

 今日はラッキー、電車も景色も独り占めできて最高だな、学校行くよりも全然いいわ。

 学校に行けば虐められるし、なんも楽しいことないからな!

 

「本当に綺麗だな・・・・桜、今何してるかな?」

 てかこれどこ行くのかな?

 ぐぅ~~~~。

 お腹の虫が鳴る。


「腹減ったなぁ~」

 あれ、こんなところに弁当おいてあったけ?

 景色から、相席についた机に視線を移すと弁当が置いてあった。

 しかもこの弁当お母さんがいつも学校に行く俺に渡してくれる弁当じゃん。

 そして、中身も見る。

 中身まで一緒だ。

 俺が好きな肉団子はもちろん、ゆかりご飯も入っていた。

 

「うめ~やっぱり弁当には肉団子だよな~」

 お母さんは今、仕事中かな?

 学校サボったって言ったら怒るかな?

 多分、怒らないかな理由話せば聞いてくれるし大丈夫だ。

 日頃、お母さんには感謝しかない。

 だって、お父さんと離婚した後、俺を女手一人で育ててくれたし。

 今だって、俺の学費のために無理して働いてくれてる。

 夜は帰ってくるの遅いのに、朝早く起きて弁当だって作ってくれるし。

 本当にありがたい。


「うまかったー!」

 腹いっぱい食ったら眠くなってきたな。

 ちょっと寝るか。


かなで、大丈夫?」

 俺に手を差し出す桜。


「桜・・・・」

 目を覚ますと車内には電気がつき窓の外はさっきまで青一色の海だったの

が一面緑の大草原になっていて、奥の方には山々が並んでいた。

 もうこんなに暗くなったのか。

 俺、何時間寝たんだ?

 暗くなった、外を見ながら考える。

 桜、今何やってるかな? 

 宮崎桜みやざきさくは幼馴染で今でも同じ高校に通っている友達だ。

 桜はいつも虐めを受ける俺に声をかけてくれた唯一の存在。

 周りが陰口を言えばそっと俺に近づき耳打ちで「大丈夫?」と聞いてくれる。

 殴る蹴るの暴行をされた時は倒れた俺に手を差し伸べてくれる。

 でも、俺はいつも虐めに巻き込みたくないから、「大丈夫?」って耳打ちしてもいつも「なんのこと」って言って話を逸らしたり。

 倒れた俺に手を差し出した時も「自分で立てるから大丈夫」って言ってかっこうつけて自分で立ちあがった。 

 けど、それを間違いだなんて思わない。

 だって、虐めに巻き込むかもしれないし、なんてったって男の俺が女に助けられ    るなんてダサいから、いつも桜の前ではかっこうつけた。

 そう言えば昨日も・・・・。

 そうだ、昨日は桜と喧嘩したんだった・・・・。

 会ったら謝らないとな。

 

「てか、世界ってこんなに綺麗なんだなぁ」

 窓の外を見て呟く。

 俺は日本の都会の景色しか知らないや。

 今、どこ走ってるのかな?

 海走ってたし、今は海外かな。

 ぐぅ~~~。

 また、腹の虫がなった。

 さっき食ったばっかなのにな。

 いや、食ったのが昼だとすれば今は何時だ?

 8時くらいか?

 だとしたら、俺がいつも作って食べる時間だな。

 景色から机に視線を向けると不思議なことにいつ置かれたかわからないハンバーグとほくほくの白飯が置いてあった。

 器も俺の家のやつだし。

 どういうことだ? 

 昼の時もそうだけど。


「うーん」

 考えても分からないし食べよ。

 

「うまい!」

 これしかも、お母さんがよく小学生の時に作ってくれたハンバーグじゃん。

 中にチーズが入ってうまいんだよな。

 久しぶりに食った。

 今じゃ、お母さんが帰ってくるの遅いから自分で作って食べるけど、前はよくお母さんが作ってくれた。何より俺が作るよりうまかった。

 最近なんて面倒くさかったらすぐにカップ麺に逃げるから、そこまで良い物食ってないし、久しぶりに食べたいなお母さんの手料理・・・・。

 

「うまかった~!」

 朝も出るのかな?

 そしたら、目玉焼きと食パン後、野菜スープ出ないかな~。


 また眠くなってきた。

 このまま寝てたら、食って寝て食って寝ての繰り返しでダメ人間なるなこれ。

 でも、いっかこの電車どこまで行くかわからないし。やることもないし。


「・・・・・・・・」


「奏で大丈夫?」

 俺に手を差し出す桜。


「大丈夫だ、自分で立てるし、ほら」

 桜の手は無視して、自分で立ちあがる。

 どこか桜の様子がおかしい。


「どうしたの?」

 瞳を潤ませてこっちを睨む。


「少しぐらい私を頼ってくれたっていいじゃん!」

「で、でもこうやって自分で立てるし大丈夫だよ・・・・」

「嘘!私は知ってる、奏がつらいこと、何で私を頼ってくれないの?私、幼馴染だよ!友達だよ!なんで・・・・教えてよ・・・・」

「だって、だって・・・・」

 言葉に詰まる。


 話せばいいのに、言葉がでない。

 しばらくの沈黙後、桜が口を開く。


「私が、頼りないんだね」

「ちがッ・・・・」

「奏でのバカ、もう知らない!」

 桜は涙を流し俺を背中に走って行った。


 しょうがないだろ、だって俺は桜のことが好きなんだから・・・・。

 好きな女に、助けを求める男を好きになるのか?

 わからない。

 けど、好きな子の前ではかっこうつけたい。

 でも、桜はもう俺のこと見てもくれないのかな?

 俺はもう一人ボッチなのかな・・・・。

 疲れたな・・・・。

 ・・・・・・・。


「はッ・・・・」

 目が覚めた。

 すべて思い出した。

 俺・・・・。


 自殺したんだ。

 

「俺、バカだな・・・・・」

 もう、お母さんのおいしいご飯も食えないし、桜にだって会えないじゃん。

 俺、なにしてんだろ・・・・。

 目の前には、注文通りの食パンと目玉焼き。

 そしてお母さんがよく作ってくれた野菜スープが置いてあった。

 電車の外は木々が並んでいて、山でも走ってるのかな。

 スープを口に付ける。


「うまい・・・・」

 うまい、うまい、うまい、うまい・・・・・。

 自分の頬を通って水が流れる。

 なんで俺泣いてんだ?

 自分で自殺したんだから後悔する必要ないだろ。

 じゃ、なんで。


「なんで、なんで、なんで、なんで!」

 机を叩きつけ、叫んだ。

 

 わかってる、自分でももうわかってる、これは後悔だ。

 お母さんの手料理が食えない、好きな子にもう会えない、後悔だ。

 ただ、自分がしたことを受け入れたくない。

 だって、逃げ道はたくさんあった。

 でもそれを避けてきたのは自分だ。

 お母さんに心配されたくないから学校でされてることは一切話さなかった。

 好きな子の前でダサい姿を見せたくないからかっこうつけた。

 でも、全部間違ってた。

 お母さんに話してたらどうなってたんだろう、桜の手を一度でも取ってたらどうなってたんだろう。

 そんな、わからない問題が頭をめぐる。

 

「クソ、クソ、クソーーーー!」

 何やってんだ俺は・・・・。


 「ダサいな、俺・・・・」

 もし、このまま生きてたら、桜と結婚してたのかな。

 結婚して子供作って幸せに暮らしてたのかな。

 そんな、ない未来のことを考えると余計に胸が痛くなる。

 すると、電車が止まる。

 いつの間にか、電車は駅に止まっていた。

 どこの駅かわからない。

 けど、なんとなくわかる。

 天国かなそれとも地獄かな。

 親より先に死ぬことはよくないって聞いたことあるし地獄かもな。

 ゆっくり歩き電車を降りる。

 ホームに足がついた瞬間、まぶしい光に照らされ自然に瞼を閉じる。

 その時、誰かの声が聞こえてくる。

  

 声・・・・・?

 違う、鳴き声だ。


「おんぎゃーおんぎゃーおんぎゃー」


無限列車とは、自殺した人間が後悔するために乗る列車のことその列車は無限に続く線路を走るから無限列車と呼ばれる。

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