第2話 セカンド・ミッション!


 エロゲーは無事にゲット出来た。

 これで安心するのは、まだ早い。


 無事にエロゲーを自宅まで持って帰るのが、純一に課されたミッションだからだ。


 リュックサックの一番下に封印したとはいえ、何らかのアクシデントが起きた際。

 天神というカップルだらけの街に、裸体の少女がプリントされた重箱を放り投げることになれば……。

 純一は人間として、死んでしまうだろう。


 渡辺通りを一人で歩く。

 この年のクリスマス・イヴは、記録的な大雪。

 ホワイトクリスマスだった。

 行き交う人々は、どこか嬉しそうだった。

 それもそうだろう……ほとんどがカップルだからだ。


 デートを楽しんだあと、激しい夜の大運動会を、ホテル内で繰り広げるのだろうから。


 本来ならこのまま、帰宅するはずなのだが……。

 純一は天神から離れるのではなく、レコードショップへ向かうことにした。

 これには深い理由がある。


 非リア充の純一が、イブの日に天神という街へ行くことなんて、有り得ないからだ。

 唯一、大好きな映画館へ向かうことはあっても、買い物などする場所は無い。

 そんな陰キャの彼が、家を出る際、母親に「天神へ行ってくる」と言えば、絶対に疑われる。

 だから、彼は『フェイク』を考えた。


 2000年代初め、今ほどネットショッピングが簡単ではなく。

 洋楽などはレコードショップで買う方が早かった。

 そして、純一が好きなアメリカのバンドが、リミックス・アルバムを発売するという。

 これが彼の用意したフェイクだ。


 レコードショップまでエロゲーを担いで、歩く純一。

 何時しかカップルの姿が少なくなり、何故かセーラー服を着た中学生たちが目に入る。

 それも数人などではなく、何百人も横並びに立って渡辺通りを占領していた。


「募金にご協力くださ~い!」


(なんだ!?)


 雪が降る中、大きな白い箱を持って、叫んでいる。

 全員、セーラー服のみで、コートは着用していない。

 手袋もしないで、募金活動に励んでいる。


 この時、純一の胸は激しい痛みを訴えていた。

 彼の良心である。

 自分は暖かいダッフルコートに手袋まで着用して、歩いているのに。

 この幼い少女たちは、聖夜に募金活動を頑張っている。


 否っ! 良心が痛むのは、そこじゃない。

 彼の背中にエロゲーがあるからだ!


「……」


「「「恵まれない子供たちに、どうかお願いいたします!」」」


 彼女たちを無視し、純一は顔を真っ赤にさせて渡辺通りを歩き続ける。

 本来の彼ならば、性格からして募金するはずだが……エロゲーが邪魔していた。


 ~それから10分後~


 レコードショップへ入って、フェイク用に考えていたバンドのアルバムだが。

 なぜか店頭に置いていない。

 焦った純一は、店員のお姉さんに聞いてみる。


「あ、あの今日、発売のリミックス・アルバムは……」

「ああ、あのバンドですね。すみません、入荷が遅れてまして」

「そ、そうですか……」


 純一は絶望した。

 帰って母さんに、何と言い訳すればいいのだろうか? と。

 仕方ないので、映画を観ていたという、嘘に変えるべきか……。


 ~さらに30分後~


 仕方なく天神で映画を観ていたという、言い訳に変えたのだが。

 帰りのバスに乗っても、純一は母親の勘が怖かった。

 どうしても、リミックス・アルバムを手に入れたかった純一は、地元のバス停から降りると。

 ダメもとで近所のレコードショップへ寄ってみることにした。


 店に入って洋楽の棚を探していると、お目当てのリミックス・アルバムが販売していた。

 洋盤ではなく、邦盤の方だが……。

 しかしこれで母親や家族に対する、言い訳が出来た!


 純一は胸を張って、帰宅した。

 声を大にして、母親に叫ぶ。


「ただいま~! いやぁ、このリミックス・アルバムが欲しくて、わざわざ天神まで行ったんだ!」

「なに、急に? うるさいわよ、あんた」


 ともかく、エロゲーを無事に自宅まで持って帰ることに成功した!

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