episode 2 「隊長ぉ~なんか面白い話してくださいッス。」

「隊長ぉ~なんか面白い話してくださいッス。」

「おまえ、一番私が苦手としている質問を……。」


ある日のお昼休み。

軍の駐屯地でイフリレは昼食を取っていた。いつもなら一人で静かにもくもくと食事をし、そのまま読書をしているのだが今日はくせっけショートカットの後輩、イーディアが楽し気に声をかけてきた。


「そうだな……。大したことではないので、面白くはないのだが。」

「なんすかなんすか、やっぱりなんかあったんすか!!」


やっぱりとはなんだ、と思いながらもイフリレはちょっと恥ずかしそうに手元を見ながら語る。


「昨日、ウェティスと一緒にこのお菓子を作った。」

「っ」

「どうした。」

「つ……ついに……」

「ああ、私にもお菓sh「手ェ出したんすか!?」


だんっと手をつくイーディア。

その音に驚くイフリレ。

そして3秒後。


「oepqlxhidllrn!?!?」


言葉にならなかった。


「ちょ、ちょっと待て、手を出すとはなんだ!」

「違うんすか。」

「違う!!手を出すも何も、私はそういうのじゃなくてだな!」


えーなんだー恋バナが聴けると思ったのにー、とぶつくさ言いながら残念そうに離れてゆくイーディア。


「まて!イーディア!ちょっとまて!!ちがう!ほんとにお菓子を……!」


と必死の弁明をしつつイフリレはその背を追う。



比較的平和になったこの島国においても、「国内の治安維持」と「万が一侵攻の備え」という名目の元軍隊は残っている。勿論毎日欠かさず、「国を守るため」という名目で訓練は続けられているわけだが……。



「よし、ではここで少し休憩にしよう。」

『!ありがとうございましたっ……!!』


昼食後の鍛錬が終わり、教鞭をとっていたイフリレが訓練場から姿を消すと隊員たちはその場にへたりこむ。

男女比が8:2程度で男性の比率が高い。小隊くらいの規模のようだが、その全員が肩で息をしていた。


イフリレが遠くに行ったことを確認した隊員たちが小声で話し始める。


「なんか今日隊長めっちゃ厳しくなかったか?」「誰か機嫌でも損ねたんじゃないのか。」「いつものね………いつものよ……」


とざわめきが広がってゆき、次第に隊員たちの目線はイーディアに集まった。


「おい、イーディー。今日はどんなちょっかいかけたんだよ。」

と、背の高い隊員が声をかける。どうやらイーディーというのは愛称のようだ。


呼ばれたイーディアは、疲労は感じられるものの他隊員よりは少し余裕がある様子。

へたくそな口笛をふゅーふゅーと吹きながら、両手を頭の後ろで組み答えた。


「隊長に『なんか面白そうな話して』って昼休みにお願いしたッス。んで、あのお嬢さんに手を出したって話をきいたッスよ。」

「お、おまえ……」


「「「天才か!」」」


興味なさそうに聞いていた隊員もなんだなんだと集まってくる。


「そういう話を聞いてくれるのは命知らずなお前くらいなもんだよな!」

「さッスがイーディー!俺たちができない事を真っ先にやってくれる!よっ!」

「で、で!!!隊長なんて!?」


先ほどまでの疲労感も物ともせず、わらわらとイーディアの元に人が集まってきて、いつのまにか全員が彼女の言葉に耳を傾ける体勢になっている。


「『幸せな時間だった』って言ってたッスね。」

「は~~!まじか!!!あの隊長が!?!?」


聞いていた隊員たちはしみじみとあることないこと話し始める。

イーディアのうち路に立つ魔王には気づかぬまま。


「イーディア」


ざわざわと話していた言葉は突然消え、肌に刺さるような沈黙の時間が広がった。


ぎぎぎ、と油が刺さっていないおもちゃのように振り向くイーディア。振り返ればもちろんその場には鬼の形相で立っているイフリレがいる。


「う、うーッス……」


なんとか返事はするが、三流のチンピラのような返事しかできない。


「私がなんと言ったって?」

「い、いやぁ……あのぉ……」

「私が!!なんと!!いった「ご……ごめんなさぁぁぁあああい!」


ついには視線と圧に耐えきれず、イフリレのセリフを遮って走り去っていってしまった。


イフリレはその背を追わず、訓練所にまだ残っている隊員たちに喝を入れた。


「解散!さっさと戻れ!訓練の続きがしたいか!」


「「「いいえ!失礼します!!!」」」


蜘蛛の子を散らすように全員去っていった。




というようなことがあったんですよ、お嬢。


「そう。ありがとう、シルフ。」


私はそうして、優雅にお茶を飲むお嬢に報告したのだった……。

なんかストーカーっぽくないです?


「そんなことないわ。私が職場でのイフリレを知ってるとバレなきゃいいのよ。」


いやバレるバレないの話ではないように思うんですがね。


「いいの。バレそうになったらあなた、風でも吹かせて聞こえないようにしてちょうだい。」


はいはい、わかりましたとも。お嬢の口元にだけ台風作ってやります。


「その調子よ。よろしくね。それより、そのイーディアって子。イフリレの後輩?本当に?」


と言うと?あっお嬢、邪推はダメですよ、邪推は。


「そんなんじゃないけど……。でもぉ!私がいない間はその子がイフリレの横にいるんでしょ!?なんだか気に食わないわ。」


でも仕事以外の時間はここにきてくれるじゃなですか。


「それもそうね。プライベートのイフリレを知るのはこの私!」


謎マウントとってますねぇ。まあでもそうそう!ね、じゃあお嬢その感情のまま東屋行きましょう。もうほら、時間。そろそろきますよ。イフリレのお嬢が。


「ほんと!?もっと早く言ってよ、お化粧直ししないとじゃない。シルフのばか!」


ばかとはなんだ、ばかとは。

そんな反論も聞かずにお嬢様はそそくさと部屋から出てゆき、準備を始めた。



(化粧直ししなくても綺麗な顔してるのにな。人間の女性ってわっかんないなぁ。でもお嬢、がんばれ!その調子!)


やはりちょっと様子のおかしい、でもそれがいつも通りのお嬢を送って私は昼寝をすることにした。


今日の2人に幸あれ!とりあえず昼寝から起きたらまた様子見てあげるか。


そう思う私だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る