第4話 本物

 その日の夕食の時間も、父は帰ってこなかった。

「取引先との急な打ち合わせですって」

 母が父の皿の上にサランラップをかけながら言った。吉宏は思わず息を吐く。

「………聞きたいことがあったのにな」

「聞きたいこと?」

「あ、えっと、その………進路のことで」

 あの後、クローゼットから出るとそこはいつもの父親の部屋だった。父と母が映った写真と、例の剣を渡したままだったが、何故か「それでよかった」のだ、と思えてしょうがなかった。

「そういえば、母さんって父さんとどこで出会ったの」

「どうしたの急に」

「いや、なんとなく」

「取引先の若い社長さんだったの。あの頃はお父さんの会社もまだ小さくて」

「へえ………」

「初めてのデートの時、私のリクエストでテーマパークに行ったの。ほら、お城で剣を抜くイベントあるでしょ? あれを見て、なんかなんとも言えない顔をしてて。『子供だましだ』って。ホント、お父さんったらあの頃から真面目すぎるのよね………」

「ああ、あれかあ………」

 そんな父のクローゼットにあった『本物の剣』。そして突然ドアの向こうに現れた、自分の知らない世界。

 父はあの世界を知っている。それは確かだ。知らない美しい女性と一緒に描かれていたあの肖像画は、自分の机の引き出しに隠してある。聞いてみていいのだろうか。少なくとも、それは、母がいない場所で聞くべきことだ、と吉宏は判断した。

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