第18話 天上界10日目 その2 モニア様、続きは明日にしてもらってもいいですか

実験1

 モニア様が圭をいったん人間界に戻して、そして俺が圭にまた会いたいと念じたら(そして圭の方でもそう思ったら)、圭を天上界に呼ぶことができた。

実験2

 モニア様が俺を異世界に飛ばして(転生させて)、俺がそこでモニア様の名を呼んだら、俺は天上界に戻ることができた。

実験3

 モニア様が圭を異世界に飛ばして(転生させて)、圭がそこでモニア様の名を呼んだら、圭は天上界に戻ることができた。


「つまりモニア様と俺は最強ってことですね」

「あたしとお兄ちゃんの愛の力は最強ってことですね」

「あなたたち兄妹は本当に何を考えているのかしら。この私の思し召しが全然理解できていないのね。いい、説明するわ」


 モニア様の意図はこういうことだ。

 モニア様としては、圭が望む通り、圭を俺と一緒に転生させてあげたい。

 ただ、そうすると、向こうの世界では圭はずっと眠ったままになって、俺たちの親父とお袋がとても心配する。なので、モニア様はまずは予定通り、俺だけを転生させる。

 そして、どうしても必要なとき、例えば転生先で俺ひとりでは解決できない問題が起き、圭の助けが必要になったときに、求めに応じて俺を天上界に戻して圭を呼び出させる。


 圭はおそらくいつも俺に会いたいと思っているはずだ。

 圭が天上界に来たら、モニア様は、俺と圭を一緒に俺の転生先へ送る。

 転生先では、圭の大活躍で問題を解決する。

 そうしたら、モニア様は圭を天上界経由で元の世界に戻し、圭は無事目覚める。

 いわば、圭は常勤ではなく、パートタイマーとして、俺を助けるわけだ。

 

 次回からは、タイトルを「異世界に転生した俺は、パートタイマーの妹がいないと何もできない(略称・パトいも)」に変更してお届けします。頼りにならないお兄ちゃんを助けるため、パートタイマーとして異世界にやってくる主人公・圭の活躍にご期待ください!


「いや、モニア様、よいアイデアですけど、圭がいないと俺が何もできない風なのはなんとかなりませんか。ていうか、主人公が圭になっているんですけど」

「モニア様、あたしがいないとお兄ちゃんは何もできないので、とてもよいアイデアです!」

「よいアイデアであることは、理解してもらえたわね」


 これなら、圭の望みを叶えてあげられるし、親父とお袋の心配も減らすことができるだろう。

 あとは、圭の日常生活にあまり支障が出ないように、例えば学校が休みの日曜日とかに限って俺が圭を呼び出せばいいだけだ。

 転生先の暦がどうなっているか知らないし、そうそううまく元の世界の日曜日にトラブルが起きるとは限らないけど。


「あれ、それなら俺が転生先から直接圭を呼び出せばいいのではないですか?」

 あ、それに気が付いたわね。天上界に来てからはとてもそうは見えないけど、元は優秀な男だけあるわ。

「元の世界から圭ちゃんを直接転生先に呼び出すまでの力は、あなたにはないわ。私も、面倒だけどあなたがた兄妹のために、一回一回関わってあげるわ。感謝しなさいよね」

 もしかしたらこいつにはそれができる力があるかもしれないけど、この方法なら、私がきちんとコントロールしますって、エニュー課長にアピールできるわ。


 それに、そんな力があるってことになったら、なおさら私も監視役で一緒に行けと言われかねないものね。

 一回一回関わるのは面倒だけど、こいつだったら、だいたいのことは一人で解決できそうだから、そんなに手もかからないでしょ。

「圭ちゃん、それでいいわね」

「ずっとお兄ちゃんと一緒にいられないのは寂しいですけど、ママやパパが心配するので、これで我慢します」

「モニア様、俺には聞いてくれないんですか」

「どうせあなたは圭ちゃんの言う通りにするでしょ」

 この兄妹が一緒にいるときは、どっちに主導権があるかくらいはお見通しだわ。


「はい、その通りでございます」

「それじゃあ、圭ちゃんにはこれでいったん元の世界に戻ってもらうわね」

「その前に、モニア様、お兄ちゃんはどんな異世界に転生するんですか」

「それが決まらないから苦労しているのよ」

 ここまで七日かかっても、ふんわりとしたイメージしか決まっていないし。

 またこいつとのやり取りを繰り返すと思うと、頭が痛いわ。

「モニア様、圭もときどき来るとなると、これは転生先選びに一層気合いが入りますね!」

 あれ、私、もしかして大失敗したかしら。


「さ、おふたりさん、そろそろ圭ちゃんを元の世界に戻すわよ。そうそう、圭ちゃん、今までのことは、元の世界では誰にも言っちゃだめよ」

「言っても誰も信じないとは思いますが、どうしてですか?」

「誰でも転生できる訳じゃないので、人間に変な期待を持たせたくないのよ」

「私のお兄ちゃんは超優秀ってことですね。わかりました」

「もう、それでいいわ。さ、兄妹しばしの別れを惜しみなさいな」

「さ、圭、おいで」


 俺は手を広げて圭を抱きしめようとした。

 圭は俺の胸に飛び込んで……頭突きをかましてきた。

「いい、お兄ちゃん、私が帰ったからといって、モニア様といちゃいちゃしたら絶対ダメだからね。それと、どこに行くかわからないけど、私のいないうちに向こうで女を作ったら許さないからね!」

「わ、わかったよ、圭」

 女って、なんで俺が妹にそんなことを言われなきゃならないんだ。

 俺がいない元の世界で、圭がボーイフレンドを作るのは絶対に許さないけど。


「モニア様、お兄ちゃんを、若い女の子のいない世界に飛ばしてください」

「あなたたち、本当に仲がいいわね。さ、お父さんお母さんが心配しているわ」 

「じゃあ、お兄ちゃん、元気でね。転生したら、すぐにあたしを呼んでね」

「ああ、わかったよ。圭も元気でな。親父とお袋によろしく……は伝えられないか。俺の分まで親孝行してくれよ」


 そこまで俺が言ったところで、モニア様は圭の頭に手をかざした。

 その手から光がほとばしり圭を包み込んだと思ったら、圭の姿が消えていた。

 圭が消える瞬間、その目に涙がにじんでいたのを俺は見逃さなかった。


「さて、前の話の続きをしたいところだけど……」

「モニア様、続きは明日にしてもらってもいいですか」

 俺は天上界に来てから初めて自分からそう言った。 

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