第8話 天上界5日目 その1 行列ができる転生女神様って、テレビで取材を受けるかも
「さあ、目覚めるのです。新しい世界への扉が待っています」
ああよかった。モニア様の声だ。
どうやら、きのうエニュー様と俺で検討に検討を重ねた結果を受け入れてくれたようだ。
きのうは本当に大変だった。
俺は生前の職場で上司を説得するテクニックを磨いてきたつもりだったが、上司神と丁々発止の論議を行うのは骨が折れた。さすが神だ。
エニュー様は神の衣装のローブは由緒正しいもので、それは譲れないと言った。
それならばと、見えそうで見える超ミニスカで、体にぴたっと貼り付いたローブを、俺が最初に提案したのがまずかったのだろうか。
それとも検討の一環として、モデルとしてエニュー様にその格好をお願いしたがいけなかったのだろうか。
ミニでタイトという時点で、ローブという概念から離れているのは俺も承知していた。
しかし、相手にこっちの要求を呑ませるには、まずは相手が絶対に承知しそうもない案を出すのがビジネスでは常識だ。常識だよね。
そこから少しずつ譲歩していくと見せかけて、結局は自分のラインへ持っていくのだ。
エミュー様にはそういうビジネス界の常識は通用しなかったようで、激怒して、いきなり俺の魂を消滅させようとしたのには驚いた。
いや、モデルをお願いしたことの方がまずかったのか。ワンチャンあると思ったのに。
有能な上司という形容がぴったりのエニュー様の、ミニスカタイトのローブ姿、見てみたかったな。
魂の消滅には最高神の審判が必要とのことで、エニュー様はすんでのところで思いとどまってくれた。
そこから俺とエニュー様は、それはもう真剣に激論を交わした。
ローブの短さについては、俺は膝上二十センチを主張し、エニュー様は膝上五センチを主張した。
エニュー様にモデルをやってもらう件は早々に諦めたせいか、エニュー様も膝上ということは認めてくれたようだ。
そこから一センチ、いや、五ミリ刻みの攻防を闘わせ、最終的には膝上十五センチで決着を見た。俺の勝利と言ってよいだろう。
タイトさについても、体にぴったり貼り付くというのはさすがに通らず、ほどほどに体のラインがわかる程度で妥協を見た。
モニア様の説得はエニュー様が行ってくれるそうだ。さすが上司。
期待を込めて目を開けると、ローブの裾を押さえて、恥ずかしそうにモジモジしているモニア様がいた。
「こ、これでいいんでしょ」
俺としては、もう少しローブの丈が短い方がモニア様の魅力を十分に引き出してくれると思うが、せっかくエニュー様が説得してくれたのでよしとしたい。
すてきなお体のラインもそこそこわかる。
「は、はい。ごちそうさま」
「ごちそうさまとは何よ」
そう言いながらモニア様は椅子に腰掛けた。膝頭がほどよく見える。
俺の視線を気にしたのか、モニア様は膝に両手を置いた。いかんいかん、あからさまにジロジロ見ては失礼だな。
俺が言うなって言われそうだが。
「とにかく、格好はこれでいいわね。まずは座りなさい」
俺はモニア様から勧められた椅子に腰掛けた。モニア様の椅子が豪華に飾り立てられているのに比べて、俺の椅子は質素なパイプ椅子だ。
これまでは家の食卓にあるような椅子だったので、明らかにグレードダウンだ。
ちなみに、モニア様の豪華な椅子は神座と言うそうだ。
天上界にもパイプ椅子があることを初めて知ったが、この扱い、モニア様はやはり何気に俺に対してお怒りなのだろう。
「格好はわかりました。あとは温泉回や海水浴回でてこ入れを行いますから」
天上界にも温泉や海水浴があるかは知らないが。
モニア様が睨んできたので俺は口をつぐんだ。パイプ椅子さえ奪われそうだ。
「次は転生先について話をします。本来なら、すぐにこの話に入るのに、すっかり手間取らされてしまって」
「いい作品を創るには、試行錯誤は必要ですよ」
「どうしてあなたは作品創りにこだわるのよ」
「モニア様だって人気が出たいでしょ?」
「どこでのどんな人気よ」
「いい転生をさせてくれるって人間界で評判になれば、モニア様のところに転生希望者が殺到しますよ。行列ができる転生女神様って、テレビで取材を受けるかもしれませんね」
「どうやって人間界のテレビクルーがここまで来るのよ。それに忙しくなっても困るわ。ひとりひとり丁寧に対応できなくなるし」
モニア様は基本的に真面目な方なのだろう。
「わかりました。俺もよい転生をしたいことには変わりはないので、さ、話を進めてください」
「どの口でそんなこと言うのよ」
モニア様はそう言ってため息をついた。何度目のため息だろう。
「まあいいわ。エニュー課長はあなたにはなぜか甘いようなので、また泣きついたら私の査定が下がりそうだしね」
ようやく私が話の主導権を握れそうだわ。
こいつの希望を聞いたら、それに合うところを探して、さっさと転生させましょう。
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