第2話 天上界1日目 その1 目の前にお怒りの女神様がいる
目が覚めて、いきなり「あなたは不幸にしてお亡くなりになりました」と言われたら、あなたはどう感じるだろうか。
誰でも自分が死んだとは思いたくはないだろう。
まずは夢を見ていると考えるのが妥当なところだ。
ただ、そう言ってきたのが美しい女神様だとしらた、転生にワンチャン賭けてみるのもいいだろう。
ただ、さしあたっての問題は、目の前にお怒りの女神様がいることた。
「定番ってどういうことよ!」
「こっちは転生モノは、ラノベやアニメでよく読んだり見たりしているんだよ! あんたみたいな姿は散々見ているんだ! この俺の初めての転生なんだから、ちょっとはオリジナリティってもんがあってもいいんじゃないか」
俺は女神様にまくし立てた。
物事は何事でも初めが肝心だ。
たとえそれが神様相手であっても、まずはこっちが優位に立ちたい。
いや待て、本当にこのきれいな人(?)は神様でいいのか。
「神に向かってあんたとは何よ! 亡くなったあなたをせっかく転生させてあげようとしているのに! 転生を取り止めにして、元の世界に送り返してもいいのよ」
神様だった。
そして、やっぱり俺は死んだらしい。
ただ、これは夢だという可能性も、一応追求しておきたい。
「いや、その前に、これは夢ってことはないだろうな」
「そう思うなら、ほっぺたでもつねってみたら?」
それも定番と言えば定番だが、それなら失礼しますよ。
「なんで私のほっぺたをつねろうとしているの。それこそ定番よ。自分のをつねってみなさい」
つねってみた。痛かった。
ということは、これは夢ではなく、本当に俺は死んだのか。
やっぱりここのところの無理が、たたったのだろうか。
ぜひともやりたいことがあったのだが、死んでは元も子もないな。
いや、この神様、さっき送り返すと言わなかったか?
「元の世界に送り返すって言ったけど、俺は生き返れるのか?」
「生き返るというのとはちょっと違うわね。再び生命を持つことには変わりはないけれど、すべての記憶は失って、赤ちゃんから人生をやり直すの」
それは困るなあ。家族のことを忘れるのは嫌だ。
親父とお袋は、俺が死んで悲しんでいるだろうな。
圭は、すっかり兄離れしたから、少しでも涙を流してくれたらそれでいいかな。
生き返れないなら、悲しいけど、仕方ない。
転生させてくれるなら、転生先で頑張るだけだ。
ご機嫌を損ねて変なところに転生させられないよう、ここは低姿勢でいこうか。
「それでは、神様、何てお呼びしたらよいのですか」
「私の名は女神モニア。転生担当の神よ。モニア様って呼ぶといいわ」
「じゃあ、モニア様、その格好はなんとかなりませんか」
「この格好のどこが不満だと言うのよ」
「さっき言ったように、そういう姿はよく見てるんですよ」
「だからそれがなんで悪いのよ」
「これから俺の転生の物語が始まるんですよ。もしかしたら、ものすごく劇的な物語になって、ラノベやアニメで描かれるかもしれないじゃないですか。その最初のシーンに、ありきたりな女神様の姿があったら、つかみとしては弱いんです」
「あなたね、普通は自分が死んだことをなかなか受け入れられないものなのに、なんでそんなことに頭が回るのよ」
「いや、死んでしまったらもうどうしようもないですからね」
「やっぱりあなたは少し変わっているわね」
「やっぱり?」
「それはこっちの話。それに、あなたはどうやら何か誤解をしているようね」
「誤解?」
「私たち神は、本来の姿ではあなたたち人間の前には出られないの。あまりにも美し過ぎて、人間の認識能力を破壊してしまうの」
「美し過ぎて?」
なんかさっきから疑問ばかりだな。
「お砂糖の致死量って知っている?」
「砂糖で人が死ぬんですか?」
「一説によると、一般的な大人の場合、一度に1キログラムの砂糖を摂取すると死に至ると言うわ。なんでも限度ってものがあるのよ。美しさも同じ」
美しさは罪ってそういうことか。
「なので私たちは、様々な姿に変われる能力を人間の前では使うのよ」
「クトゥルフ神話のニャルラトホテプみたいな?」
「それ、ラノベかアニメの受け売り? 神様の前でほかの神話を持ち出すのはいい度胸ね。でもまあ、あなたたちの前ではどんな容貌にもなれることは、ニャルラトホテプとやらに似ているかもしれないけど」
「むさ苦しいおっさんにもなれるんですか?」
「自己紹介お疲れさま。でも、私は女神だから女性の姿は取るわね」
「神様にも男女の別ってあるんですか? 人間みたいに」
「人間は我々神の形態を模したものよ。順番が逆ね」
それは一安心だ。イケメンだろうがおっさんだろうが、男神とおしゃべりしても楽しくはない。
「どんな容貌にもなれるなら、もっとオリジナリティ溢れる姿で現われてもいいんじゃないですか」
「じゃあ、なんで私がこういう姿で現われたか教えてあげる。座ってよく聞きなさい」
何か講義が始まるみたいだ。
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