虚言姉妹〜初めてできた彼氏を完璧な妹に奪われて、ケーキバイキングで愚痴っていたら、肉体関係を強要された可哀想な妹が彼氏を刺殺したので、お姉ちゃんは妹のために頑張りました〜
めぐすり@『ひきブイ』第2巻発売決定
第1話 とあるお姉ちゃんの供述
初めて彼氏さんというものができました。
彼氏さんは年上で、カッコいいと評判で、軽くてチャラくて女遊びをしていると、裏で酷評されている人です。
年下の女の子には優しいのですけどね。
うちの両親はあまり家にいません。
お父さんは商社務めでお母さんは手芸教室の先生です。
家のことは私と妹で分担してやっていました。
昔、お母さんは過干渉気味の教育ママでしたが、今は憑き物が落ちたかのように大人しくなっています。
いいことですね。
私と妹は同い年で腹違いの姉妹です。
お母さんと姉は血の繋がりがありますが、妹とお母さんに血の繋がりはありません。
お父さんとお母さんの間に色々とあったと思います。
でもそんなことはお姉ちゃんと妹の間には関係ありません。
仲良し姉妹ですから。
なにをするのも常に一緒。
持ち物も全てお揃い。
一つしかなかったらお姉ちゃんのモノを勝手取っていっちゃいます。
妹は完璧で優秀です。
お姉ちゃんが頑張って優等生止まりのテストの点数にしているのに、妹は常に百点満点です。
百点以外を取ったことがありません。
もちろん私はお姉ちゃんですから毎回「完璧にできて偉いね」と褒めてあげます。
すると妹はニコリともせず「お姉ちゃんならできるでしょ」と返してきます。
生意気ですね。
手加減を知りません。
そんなところも不器用で可愛いです。
でも可愛い妹に彼氏さんを奪われてしまいました。
付き合って一週間の出来事です。
予兆はありました。
勉強を教えてくれるという彼氏さんを自宅に呼んで、手料理を振る舞いました。
そのとき妹と彼氏さんも顔合わせしています。
自室で二人きりになったときに彼氏さんにエッチなことをされそうになり、私は拒絶しました。
部屋にあるものを武器にして、必死の抵抗です。
付き合ってまだ五日ですからね。
手が早いです。
彼氏さんは噂通りの人でした。
結果として私は振られて、彼氏さんは妹に乗り換えました。
なんでも完璧にしてしまう妹に。
お姉ちゃんのモノを何でも欲しがる妹に。
彼氏さんを奪われてしまいました。
可哀想な私はクラスメートとケーキバイキングに行きました。
彼氏さんを妹に奪われた。
彼氏さんも妹も趣味が悪い。
ブーメランになりそうなことを友達に愚痴りながら、彼氏さんの悪評を広げて、ケーキを食べます。
やけ食いです。
ただ四個目のピスタチオホワイトチョコレートムースケーキを食べている途中のことです。
私のスマホに警察から電話がありました。
どうも妹が彼氏さんを殺しちゃったみたいです。
お姉ちゃんびっくりです。
大慌てで家に帰ります。
大好きなピスタチオホワイトチョコレートムースケーキも食べかけで残してしまいました。
失敗です。
犯行現場は妹の部屋。
死因は刺殺。
凶器は包丁。
性的に襲われそうになり抵抗した結果みたいです。
彼氏さんは私にしようとしたことを妹にもしようとしたのでしょう。
強姦未遂です。
弁護士さんは強気です。
妹は真面目で成績優秀な優等生。
彼氏さんはお世辞にも素行がいいとは言えない遊び人です。
調べればゴロゴロと犯罪じみた行いが出てきました。
私や妹以外にも被害者がいましたから、事件直後が一気に情報が出回りました。
妹は事件直後から錯乱状態でした。
よほど怖い思いをしたのでしょう。
襲われそうになり、抵抗して、人を殺してしまった。
優等生の火遊びとしては重すぎる十字架です。
故意の犯行ではなく、襲われて抵抗した結果。
加害者ではなく被害者。
しかも未成年。
弁護士さんが強気になるのもわかります。
検察さんも色々と調べていました。
私と彼氏さんの関係や、妹の自室にあった包丁のこと。
包丁は私が通信販売で購入したものです。
テレビで女優さんがトマトを薄切りにしている姿に一目惚れしました。
私がケーキバイキングしている間に宅配で届いて、妹が受け取っていた。
妹の部屋にあったのは理由ですがよくあることです。
私宛の荷物を妹が部屋に持ち込んで、勝手に開けて中身を確認しちゃうので。
私がなにを買っているのか気になるのでしょう。
勾留されている妹と面会すると、私の顔を見るなり『お姉ちゃんごめんなさい。ごめんなさい……妹でいさせて……捨てないで』と泣きじゃくります。
もちろんお姉ちゃんは妹を捨てません。
妹は昔から私がそばにいないと泣いていました。
何日も離れ離れになるとこうなります。
一人で警察に捕まる事態に陥って、強がれなくなったのでしょう。
塀の外と中。
私と同じ空間にいられない。
妹は潰れてしまいそうでした。
私はお姉ちゃんです。
お姉ちゃんは妹を守るものです。
だからいつも通り、褒めてあげました。
「完璧にできて偉いね」
私が妹をそんなふうに褒めてあげたからでしょうか。
お姉さんと同じように、警察の中にも私とお話したいという人がいましたよ。
なぜでしょうか。
今日と同じ話をすると、みんなお姉さんと同じような目で私のことを見てくるんですよね。
すでに終わったことなのに。
なにが気になることありますか。
不起訴処分ですよ。
妹は無罪ではなく不起訴処分です。
確かに妹は人を殺してしまったかもしれません。
でも妹は悪くないですよ。
犯行に計画性はない。
殺意もない。
襲われたから反撃した。
正当な防衛です。
検察さんがそう認定して、起訴もされませんでした。
もちろん精神状態も考慮されたと思います。
とても錯乱していますから。
心神喪失状態です。
責任能力もないんです。
お姉さんはなにが知りたくて、こんな田舎まで来たんですか?
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