第195話 フリージャーナリスト

 別に、付き合うとか、そう言う関係ではない。

 それでも、過日のコンパで介抱してくれた事が縁で、佐々木 芳成とは比較的行動を共にすることが多くなった。


「ねえ遠藤さん、あれから僕も事件について、もう一度調べなおしてみたんだ、今日、少し話してもいい?」


 佐々木は、自分に気があるのだろうか、己惚れる訳ではないが、いつも自分の事を気にかけているように感じる。

 それでも何ら手がかりのない倫子にとって、幸ちゃんの事件に少しでも近づけるなら、佐々木の提案にも乗ろうと言う気になれた。

 佐々木が言うには、どうもこの事件には不可解な部分が多いのだと言う。

 その当時事件を追っていた事件記者と、コンタクトが取れそうなんだと言う。

 正直、マスコミは少し嫌だと思いつつ、彼の行動力には少し驚いていた。

 同じ18歳なのに、よくもまあフットワーク良く事件に迫る事が出来るものだと。

 彼いわく、同じイラストアニメサークルに所属していても、謎解き系の漫画を描きたいのだと言う。

 ・・・変身少女漫画を志す自分とは、随分方向性が違うな、と思いつつ、佐々木の物事への取り組み方が、少し気になる倫子である。

 

 大学の講義が早く終わったその日、倫子と佐々木は二人で神田方面に向かった。

 こうして男子と二人だけでどこかへ行くのは、初めての事だ。 

 母親が見たら倒れそうな光景だが、自分だってもう大学生だ、そう自分に言い聞かせた。

 出版社の多い地域ではあるが、待ち合わせ場所は、神田駅に近い喫茶店だった。


「君が、佐々木君かい?」


 入って来た中年男性は、どこかカジュアルで無精ひげを生やした・・なんとなく社会的にアウトな印象を受ける人物であった。

 名刺には、フリージャーナリストと・・・、大丈夫なんだろうか。


 大森 和樹を名乗った彼は、例の事件を追っているジャーナリストである。

 倫子は、これまで全く未知の領域である報道の世界観に、少し緊張していた。


「早速だけど、例の事件で行方不明となっている少女・・・、佐々木君は知り合いなの?」


「いえ、僕は直接知り合いでは・・・」


「じゃあ、あなた?、遠藤さん」


 話の流れで行けば、自分が立花 幸の知り合いである事には、もうたどり着く。

 なんだか、警察の取り調べのようで、少し怖いと感じる。


「はい、私の中学時代の同級生です」


「そうですか・・・、失踪直前、何か変わったことはあった?」


「いえ・・・、いつも通りです、元々、あまり自分を前に出す子ではありませんでしたから」


「自宅に行った事は?」


 自宅・・・・、倫子はその一言を聞いて、少し吐き気がした。

 非常線の張られた幸のアパート、ブルーシートに覆われた誰かの遺体。

 中学2年生の遠藤 倫子には、強烈な思い出である。

 まさか、あのシートの下に、幸ちゃんがいるのでは・・・そう思った時、倫子は全身の血の気が引いた。

 

「大丈夫遠藤さん?、顔、真っ青だよ」


 佐々木が優しく問いかける。

 大森は、あまり気にすることなく、二人の前で煙草に火をつけた。

 ・・・ジャーナリストって、きっとこんな感じなんだろう、あまり遠慮と言う事をしない。

 

「ヤクザとは言え、8名もの死傷者を出したんだ、以前からヤクザとは揉めていたんじゃないですか?」


「あの、すいません、僕たちは今日、事件のお話しをするために来たのではなく、お話しを聞きに伺ったのですが」


 大森は、なんだか不機嫌な態度を取りつつ、意外と丁寧に事件の裏話をしてくれた。

 基本的には、悪い人では無いようだ。


 そして、大森から聞いた話の中で、被害者となったヤクザの組員たちが負った傷は、どうも日本刀によるものとは少し異なる、という新事実が語られたのである。


「・・・どういうことですか?」


「バスターソード、いわゆる洋刀だな、とても重くて、日本刀のように切れ味で人を切るものではなく、剣の重さも利用して叩き切る感じの剣だ。20世紀にもなって、ヤクザをこんな剣で襲うなんて、常識的に考えにくい、少人数で組事務所を襲うなら、普通拳銃の一つも出て来るはずだ」


「それでは、ヤクザ同士の抗争とは違うってことですか?」


「そうだな、ちょっと毛色が違うと思う。立花家で殺されていたヤクザも、同じ傷跡だったようだ」

 

「それじゃあ、幸ちゃんは、その洋刀バスターソードを持った人と一緒に?」


 倫子は、最悪の結果を想像してしまうのであった。

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