第121話 日本人男性よりも

「マリトちゃん、もっとしっかり食べないと!」


 幸は、村人からのご厚意で、沢山の食料を分けてもらう事が出来た。

 出発前、幸は沢山ラジワットに抱き締めてもらえたことで、気持ちを落ち着かせることが出来た。 

 なんだか、勇気をもらったようで、幸はあらためて、自分にとってのラジワットが、心の支えなんだと再認識出来たのである。


 そして、こんな状況でも、病める時も、死する時も、自分たちは一緒なんだと思えることで、何かが吹っ切れたようで、今は清々しい気持ちで一杯だった。

 それ故に、今のうちに沢山食べて、脂肪を付けて山脈越えに備えなければと思うのである。

 思えばロンデンベイルを出て以降、ただ飢えをしのぐためだけに、食べ物を口に押し込んできた。

 こうして、気持ちよく食べるという行為自体が、なんだか久々な事に感じられる。

 ゼノンの洞穴で休んだせいか、体調も良く、今ならタタリア山脈だって越える事が出来ると感じる。

 そんな幸を見て、マリトも連られ、二人はなんだか一生懸命に食事を摂っていた。

 それを見たラジワットは、目を細めて微笑んだ。

 それは、ラジワットにとっても、この二人が、もはや生きる意義にすらなっていたからだ。

 日本の男性であれば、30歳という年齢は、そこまで子煩悩になる年齢ではないのかもしれない。

 この世界の男性は、早く親になり、責任を負い、人々を導く必要性に迫られる、だから、現代の日本人男性よりも、よほど子供や妻に対する愛情を深く注ぐ傾向があるのかもしれない。


「ゼノン、世話になったな、、、、私達もこれからどうなるか解らない、オルコ帝国は、この地域まで影響下に置くことは出来ないだろう、君がこの村の希望だ、頑張ってくれ」


 二人は、固く握手を交わす。

 やはり、ゼノンは遠い国で軍人をしていたのだろう、ラジワットは、その別れの瞬間に流れる独特の空気に、それを感じる事が出来た。

 それは、命を懸けた戦士同士でしか、解らない高度な理解であろう。


「フェアリータ様、、、、本当に世話になりました、どうか、ご無事で」


 ゼノンはその巨体を屈め、幸に畏まって挨拶をした。


「ゼノンさんも、、、お元気で、必ず村を再建してください、その時は、ゼノンさんサイズの家も、建ててくださいね」


 ゼノンは、ニッコリと笑い、しかし何も答えなかった。

 幸には、その意味が良く解っていたが、きっともう、これから会う事もない人間同士、これ以上の会話は、きっと無意味だ。

 ゼノンが覚悟して巨人化したのであれば、自分はもう何もすることは出来ない。

 最後に見たゼノンの龍脈は、かなり弱っていた、多分、それはゼノンの生命力と連動している。

 

 村人は、この三人と一匹に、大したもてなしも出来なかった事に、少々悔しさを覚えていた。

 故に、最後の見送りは、とても盛大なものになった、全てを村人が、それを見送ったのだ。


 幸は、もうこの道を使ってこの地方を訪れる事が無いことに、寂しさを感じつつ、もうそれ以上振り返ることなく前を見て歩いた。


 タタリア山脈が、不気味に幸達を見下ろしていた。

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