第119話 噂話し

 ラジワットは解っていた。

 この勢力で戦っても、この村に救いはない。

 抵抗すれば、確実に皆殺しの目に遭う。

 ゼノンの、村を焼き払う偽装工作が上手くいったとしても、この動乱が治まるまでの間、無事に終わるかは五分五分と言ったところだろう。

 それを判断するには、情報が少なすぎる。

 それ故に、ラジワットは少し早く起きて、当直の村人などから雑談を交えて、最新の情報を得る必要があった。


「え?、はい、、、そうですね、私たちが知り得る情報では、ですが、、、」


 当直の男性は、ラジワットにタタリア帝国の情勢について訪ねると、断片的に解って来たことがいくつかあった。


 それは、この国が今現在内乱状態に近い、ということ。


 隣国である、オルコ帝国に対し、手を組もうという勢力と、反目する勢力の双方が存在すること。

 そして、その反目する勢力は、オルコに関係する物事の全てを敵視し、破壊の対象としていること。

 それ故に、ロンデンベイルの破壊については、この村まで噂は入って来ていたということ。

 

 その、破壊の状況は、あの黒煙が上がった脱出の日から、更に主力の到着後に完全な破壊を断行したのである。

 逃げ惑う人々は、尽く殺害され、業火に焼かれた。

 あれほど強固な岩の砦が、今ではただの焼けた丘になり果てたのだと言うから、その勢いは想像に難くない。

 一緒に逃げようと誘った人々も、全てこの世の人ではなくなってしまった。


 ベルバロ夫妻も、、、、


 そう言う意味において、ゼノンが取った「自分たちで村を焼く」という行為は、実に巧妙に感じた。

 敢えて言うならば、素人考えではない、というレベルだ。

 ラジワットは、あの武術の身のこなしと言い、今回の作戦と言い、ゼノンはもしかしたら、そちら側の人間だったのではないか、と感じた。

 

 本来、それならば、ゼノンと行動を共にした方が良いという事は解ってはいるのだが、、、。

 ロンデンベイルの焼き討ち騒動と併せて、この情報がラジワットを掻き立てたのである。


 オルコ帝国とエフライム公国は、タタリア国境に軍を派遣して、防備を固めている、と。

 それは、国境を越えてしまえば、救助態勢が万全であることを意味する。

 ましてや、この窮状、恐らくは近衛連隊が先遣の命を担っている可能性すらある。

 近衛連隊は、国家の危機に対して、先陣を切って戦う事で、皇帝の威信を示す意味合いのある連隊だ。

 本来であれば、帝都オルコアにあって、皇帝をお守りするのが本来の任である、しかし、オルコ帝国だけは、近衛連隊の真逆の扱いをしていた。

 それがまた、近衛連隊の士気をどこまでも向上させていた。


 近衛連隊、、、、カウセルマン中佐が、前線に出ている可能性があるという事。


 ラジワットの腹心中の腹心、合流できたのであれば、これほど頼りになる男はいないだろう。

 こうして、ラジワットは、一刻も早く近衛連隊との合流を目指すべく、タタリア山脈越えに舵を切ったのである。


「ミユキ、少しいいかな?」


 ラジワットは、幸を呼んだ。

 なんだろう、いつもは3人でも大丈夫なのに、どうして今回は私だけなんだろう。

 

「どうしたんですか?、、、、、何かあったんですか?」


「いや、、、ミユキ、どうやら国境に軍が派遣されているらしい、恐らく近衛も派遣されている、覚えているかい、カウセルマン中佐の事」


 幸は、あの金髪ロングで、少しキザで怖い目をした、あの軍人さんの事か、と思った。

 どうしてここで、カウセルマン中佐の話が出て来るのだろうか。


「カウセルマンは、とても優秀な軍人だ、彼の元まで辿りつければ、私達の旅はひと段落出来るだろう、だから、そこがゴールだ、、、、、」


 ラジワットは、そこまで話すと、少し表情を曇らせた。


「どうしたんですか?、、、何か?」


「ああ、、、ミユキ、前回山脈を超えた時、君は高山病にかかってしまったね、、、、、」


「はい、、、」


「、、、、ミユキ、、この季節のタタリア山脈を越えるのは、君とマリトの両方を連れて上がるのは、かなり厳しいと思う、無事に超えられる保証はない、申し訳ないのだが、君はこの村に残ってくれないか?」


 幸は、一瞬ラジワットが何を言っているのか、理解出来なくなっていた。

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