第105話 旅に出たんだ

「マリト、という名前で、多分今日、ミユキは気付いたね」


 ラジワットは、昼間に幸から質問のあったことについて、まずは答えようとした。

 そう、マリト、という名前、これは多分、奥様と一緒に考えた名前だと。


「マリトという名前は、彼が日本でも、オルコでも通用するよう、真理子と決めた名前だ、真理子の「マリ」にラジワットの「ト」でマリト、まさかあいつも自分の子供に、同じ要領で名前を付けようと考えたなんて、やっぱり親子だな」


 ラジワットは、少し恥ずかしそうに笑った。

 それにしても、自分と奥さんの名前を足して割るなんて、、、、ラブラブだったんんだな、と、少し妬きそうになる。

 

「真理子は、実家の武道場「創生館」がトラブルに巻き込まれた事から、避難の名目でこの世界にやってきた、そこまでは話したね」


「はい、、、、そう言えば、ラジワットさんは、この世界ですぐ結婚したのですか?」


「いや、さすがにそれは、、、、ただ、その時、私と真理子は恋人関係と呼べる仲になっていたからな、結婚の話は、私からすぐに持ち出した、この世界で、私と共に生きてほしい、と。しかし、真理子もまた、日本での生活や仕事の事があったから、今回の創生館事件が解決するまで、結婚をする気持ちになれない、と、私の求婚を断ってきたんだ」


 まあ、このモテ男であるラジワットのプロポーズを、断る女性も世の中にはいるんだと、幸は意外に想った。

 、、、しかし、ラジワットは好きになってから求婚までが、早いのでは、、、情熱の男、なのかしら、、と、幸は少し不安になった。 

 イタリア人のように、出会ってすぐ、プロポーズするような人物ではあるまいか、と。


「もちろん、ハイヤー家でも異論は出ていた、異世界人である真理子を妻に娶るなんて、とそれは猛反対されたよ。でも、私の真理子への気持ちは変わらなかった。だから、旅に出たんだ」


 、、、、、ん?、、旅?、、え、、えー!

 まさか、貴族の中でも最上位貴族のラジワットが、、、家を捨てて、、、旅に?

 それって、大丈夫なのだろうか?


「それで、ラジワットさんは、どこを目指して、、、進んだんですか?」


「それはな、、、、このロンデンベイルなんだ」


 ロンデンベイル、、、ここを目指して、、、、

 そうか、だから旅の道中に、知っている人や村が多かったんだ。

 

「しかし、ロンデンベイルへの旅の道中、真理子が身ごもっていることがわかって、一度旅を止めて、近傍の村に滞在した、丁度、マッシュやゼノンと出会った村の手前くらいだな」


 そうか、あの付近で生まれたのか、マリトちゃんは。

 大変だったろうに、異世界で子供を産み、その後、ロンデンベイルを目指すなんて。


「マリトは、その途中で、竜脈の毒に侵されて、あの成長が止まる病を発症してしまった、だが、私たちはそれに気付いていなかったんだ。マリトの成長が少し遅い事に気付いた真理子はね、とても憔悴してしまった、悩んだ挙げ句、このロンデンベイルで療養を続けさせ、治療が出来る巫女を探す必要があることが、療養所から告げられた」


「それで、私を捜す旅に?」


「いや、、、、その間に、タタリア帝国で政変が起こった、それで、オルコ帝国との国境線が、非常に焦臭くなってしまった」


 少し間をおいて、ラジワットは幸に飲み物を勧めた。

 幸はそれを丁重も断ると、ラジワットは一口だけ飲み物を口にして、少し深呼吸をしながら、続きを語り出した。


「軍からの緊急召集がかかったんだ、私はロンデンベイルにいたから、すぐさま国境の部隊と合流し、背後からタタリア軍を討て、とね」


 ラジワットは、このロンデンベイルがオルコ帝国の飛び地であることから、ここの防御に回ることも考えたが、オルコ皇帝からの度重なるご寵愛を思えば、ここは命令に従うべきだと考えていた。

 ラジワットは日本へゆく14歳まで、軍の幼年学校で英才教育を受けていたため、軍籍は既に帝国軍内に存在しており、命令に背く事は出来ない身である。


 こうして、乳飲み子であるマリトと、真理子を置いて、ラジワットはタタリア軍が迫る国境へと赴いたのである。

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