第101話 オルコアに帰るまで
「ミユキ、済まなかった、日本ではまだ、中学3年生の女子に、いきなり結婚の話をしても、君を困惑させるだけだったな、この話は、聞かなかった事にしてほしい」
ラジワットは、とてもバツの悪そうな表情で、先ほどのプロポーズを否定した。
逆に、一瞬で冷静になったのは幸の方である。
「ラジワットさん、、、、私、ちょっといきなりだったので、驚いてしまっただけなんです、、、その、、、聞かなかった事には、、、、私、、しません」
はっきりと意思表示をする幸であったが、あまりの恥ずかしさに、思わず赤面したまま俯いてしまう。
逆に、ラジワットの表情が、急に輝きを増した。
それは、ラジワットのプロポーズが、まだ断られた訳ではない、と判断したからだ。
「ミユキ、突然の申し出に困惑したことだろう、でも、答えは今日でなくてもいい、オルコアに帰るまで、まだまだ時間は沢山ある、だから、ゆっくり考えてほしい」
こんな大切な話であっても、ラジワットは優しく、丁寧に幸のペースに合わせようとしてくれる。
いつもの通り、ラジワットは
正直、すぐにでもラジワットの申し出を受け入れたい幸であったが、どうしても一つ、大きな問題があった。
「あの、、、私、ラジワットさんのことは、、、、、好きです!、結婚だって、、、私、、今、とても嬉しいんです!、ただ、一つだけ、、、マリトちゃんに、それをどう伝えたらいいのか、、、、」
ついに言ってしまった!。
幸の、ラジワットへの思いを!。
この瞬間から、ラジワットと幸の関係は、新しい1ページへ進むのだ、、、しかし、その前に、解決しなければならない問題がある、やはり、マリトの事は、これからの二人にとって、とても重要な問題になってくる。
「ミユキ、君が息子の事を真剣に考えてくれていることは、父親として本当にありがたく思っている、この恩に、どう報いれば良いのか解らないほどにね。マリトもミユキも、私が必ず幸せにしてみせる、だから、マリトの事と、私たちの今後について、少し考える時間をもらえないだろうか」
ラジワットの真剣な表情が、本当に好きだと幸は思った。
この誠実な男性が、今日、幸への愛を語った、二人の将来を語ったのだ。
大好きな二人、それ故に、この問題には、少し時間がかかるかもしれない、それでも、ラジワットが考えたいと言うのであれば、幸はラジワットが結論を出すまでいつまでも待とうと思った。
私たち二人は、今日、将来を誓い合ったのだから。
幸は、自室に戻ると、あらためて今日一日に起こったことを整理していた。
人生で初めての告白は、付き合うとかそう言うレベルを全て飛ばして、いきなりのプロポーズという形で実現してしまったのだ。
それも、同じ日に二人の男性から、プロポーズされてしまった。
これは夢ではないだろうか、さすがに自分に都合が良すぎはしないだろうか。
明日、目が覚めたら、二人は自分に求婚したことすら忘れて、朝稽古なんてやっていないだろうか。
、、、、まあ、もしそうなっていたら、二人と暫く口もきかないだろうけど。
幸の人生の中で、もっとも濃密な一日が終わろうとしている。
生涯、忘れられない日、この9月11日は、幸にとって、記念日となったのである。
秋も急速に深まるこのロンデンベイルに、鈴虫の鳴き声が心地よい夜だった。
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