第83話 マリト

「初めまして、僕、マリト・ハイヤーと申します」


 まー!、なんていい子なのかしら!、小さいのにしっかりしていて!

 お姉さんが、何でも買ってあげるわ!、ね!

 見れば見るほど、ラジワットさんに似ている!

 もう、胸のキュンキュンが止まらない!

 私の胸の奥には、今、「キュンキュン」がいるわ!

 毎日、この子抱いて寝たい気分!


「初めまして、私はミユキ、よろしくね」


「こちらこそ、よろしくお願いします、、、ミユキ、、お姉ちゃん」


 グハッっ!


 「お姉ちゃん」!

 なんて、なんて、良い響きなんでしょう!

 

 幸は思わず鼻に手をやって、鼻血が出ていないかを確認した。


 それほどに、マリトの仕草は、全てが可愛かったのである。

 そして「いい子ね」と言いながら、再び幸はマリトを抱きしめる。

 そんな幸の姿に、感動を覚えながら、感謝の涙を流すラジワット。


 、、、まさか、幸が単純に抱きしめたいから抱きしめているなんて、ラジワットは夢にも思ってはいないのだが、、。

 

 ラジワットは、部屋にあったロウソクに火を灯すと、部屋は少し明るくなった。

 そう言えば、この施設、あの通電が弱い気がする。


「この施設はね、患者の治療に大きなエネルギーを使っているため、明かりに使えるエネルギーが小さいんだ、元々の龍脈は、とてつもなく大きいんだが」


 それでも、ロウソクに照らされたマリトの顔は、やはりとても可愛かった。


 来て良かった。


 この子とラジワットのために、自分が何かを出来るなら、旅路の苦労なんて大したことではないとすら思えた。


「、、、、早速だが、、、、ミユキ、これを」


 深刻な表情で、ラジワットは一枚のチケットを幸に手渡した。

 もちろん「肩たたき券」だ。


「マリトの病は、ゼノンのそれとは真逆なものだ、基本的に小さくなって行く、成長速度があるから、辛うじて成長は停止しているように見えるが、彼の成長が止まる頃、体はどんどん小さくなって行くだろう、、、勿論、寿命も」


 幸は、血の気が引く思いだった。

 こんな可愛い子が、間もなく死んでしまう。

 絶対にそんな事させない、私がこの子を守ってみせる!!

 幸は、決意を新たに、肩たたき券を握り締めるとラジワットに「解りました、やります!」と言い切った。


 ベッドに座った状態で、マリトは服を脱いだ。

 抱きしめた時も思ったが、マリトは大分痩せていた。

 肋骨が浮き出ていて、首筋も皮だけのようになっていた。

 そんなマリトを見て、幸は何故か泣きたい気持ちになった。

 きっと、そんな身体に、マリトのこれまでの苦労や不幸、寂しさを見たのだろう。

 お姉ちゃんが、あなたを必ず治すわ!


 幸は、マリトの小さな背中に正対する。


 一度、大きく深呼吸をして、心を込めて肩に手を置く。

 

 、、、神様、、!


 幸は、遂にマリトの肩を叩く。

 気負い過ぎたのか、思わず強く叩いてしまう、前回がゼノンだったから、加減が難しい。


「、、、ミユキ、もう少し力を抜いて、叩いてみてくれ」


 そう言われ、幸はやはり少し加減が強かった事を認識する。

 マリトの身長に、変化はない。

 まさか、、、まさか、自分の肩たたきが、効かないなんてことは、、、、?

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